あー(もじのほう)| 文学フリマ東京38 Q-29

あーの文字のほうのアカウント。 私の、私による、私のための文学。 ありそうでなさそう…

あー(もじのほう)| 文学フリマ東京38 Q-29

あーの文字のほうのアカウント。 私の、私による、私のための文学。 ありそうでなさそうな景色を書きます。 旅が好き🌏東京⇆長野⛰️ ライター、エッセイスト、イラストレーター✏️ えのほう→https://twitter.com/a_a_a_illust

マガジン

最近の記事

  • 固定された記事

南の島に農業をしに行ったら場末のスナックで働かされることになった話

ひとり南の島の空港に降り立った。機体と空港をつなぐ、あの蛇の腹みたいなもので覆われた通路に出たら、湿った空気が肌を包んだ。湿気。服を一枚脱いで、腹に結び付けた。荷物は、黒々と光った安っぽいビニールでできた大きなバッグだけ。タイヤが付いたキャリーは可動性が悪くて好きじゃない。重いバックは肩に食い込み、汗ばんだ皮膚に吸い付く。 唯一都市部に走るモノレールで、予約した宿に移動する。今日は港の近くで一泊する予定だ。インターネットで予約したから、部屋と外観の写真しか見ていない。地図を

有料
300
    • 薄暗い下町のゲームセンターで、小学生が2万円を使い果たした話③

      気づいた頃には、私は一文無しになっていた。代わりに、ゲームセンターでしか使えないメダルをたくさん持っていた。クレーンではもちろん何も取れず、早々に諦めた私たちはメダルゲームに興じることにしたのだ。 保守的で計画的ないとこは、少しずつ換金し、ある程度の金額を残しながらゲームをしていた。それとは対照的に、私は次々にお年玉をメダルへと換金した。つまり、両替機と、メダルゲームの椅子を行ったり来たりしていた。 私たちの横には、少しアンニュイな雰囲気の年老いた大人がいて、正月の昼間か

      • 北海道で外国人技能実習生とさくらんぼを収穫しながら“家族”について考えた話

         南の島から帰ってきて数日、余韻に浸りながらも、私は再びあのインターネットサイトで宿と飯付きの最低賃金以下の農業バイトを探していた。この間は南だったから、今度は北に行こうかな、と安易な理由で北海道の受け入れ先をチェックする。いくつかの条件を照らし合わせ、次の行き先に決めたのは、さくらんぼ農家。出発は来週だ。パソコンを閉じ、次の行き先に思いを馳せる。夏だが、南の島とは気温差がかなりある。そう思いながら、しまってあった長袖を引っ張り出す。    先日、たまたま何年かぶりに知人と会

        有料
        300
        • 軽やかに舞う女たち | 「虎に翼」と「光る君へ」に泣く

          最近の生きがいはNHKドラマ。 「光る君へ」と「虎に翼」で毎回泣いてる。 特に毎朝、シシヤマザキさんのオープニングテーマの最後の方で、みんなで輪になってクルクル回りながらの、どじゃーんといろんな時代の女性たちが現れて踊るシーンで、化粧し終わってすぐの顔面が溶けるように泣いてる。 今昔の女たちが軽やかに舞う様に、わたしは涙を止められない。 (↓「虎に翼」オープニング 1:05あたりから舞う女たちが美しいので見て) 女が軽やかに舞う。ただ舞っているように見えるけれど、私に

        • 固定された記事

        南の島に農業をしに行ったら場末のスナックで働かされるこ…

        マガジン

        • エッセイというかなんというか
          4本
        • 女と云ふものについて
          1本
        • 文学フリマへの道
          4本

        記事

          本を作る時、そこに何を求むか(入稿しました) | 文学フリマ東京38

          同じものを見て、そこに何が見えるかは、人次第。そこに何を求めるかもまた、同様だ。 私はなぜ本を作りたいのか、と考えた時に、手にできる質量に対する思いが一番に浮かんで、でもそれは、そんなに重々しいものではなかった。 文字を手の上に召喚するような。指でそれを追うごとに自分自身の血肉になるような。さらに言えば、その収まりの良さ。 つまるところ、結局私は文庫本が大好きなのだ。 なぜ好きなのかは分からない。これは言葉にできる類のものではないし、言葉にした瞬間に本質を逃してしまい

          本を作る時、そこに何を求むか(入稿しました) | 文学フリマ東京38

          薄暗い下町のゲームセンターで、小学生が2万円を使い果たした話②

          正月はいつも、東京の下町にある祖母と祖父の家に行く。母の姉の家族とともに、総勢10人ほどで押し掛けるのだが、祖母と祖父は団地住まいだから、全員揃うと少しばかり窮屈だ。 団地は昭和の雰囲気が残る建物で、私はその水色の重い玄関ドアが好きだった。開くときにギイィと音がするドアの横には、牛乳配達用のポストと、音符のマークがついた壊れたインターホン。中は3DKで、玄関を開けるとすぐにユニットタイプのお風呂とトイレがあって、そこには色あせたリボンシトロンのポスターが貼ってあった。自分の

          薄暗い下町のゲームセンターで、小学生が2万円を使い果たした話②

          薄暗い下町のゲームセンターで、小学生が2万円を使い果たした話①

          先日、小学生を四人連れてゲームセンターに行くこととになった。 今やゲームセンターは明るく開放的だ。前向きで楽しげなゲーム機がたくさん並び、プリクラ機はきらびやかに装飾され、なんなら隣に女優ライトが付いた化粧直し台まである。私の中でのゲーセンと言えば、薄暗く、たばこの煙が充満し、ちょっと怖い人たちが集まる場所。そんな過去とは決別したようだ。 クレーンゲームには、ご丁寧に攻略法やアドバイスまで書いてある。それを見ると、今まで自分のやり方がいかに間違っていたか分かる。クレーンは

          薄暗い下町のゲームセンターで、小学生が2万円を使い果たした話①

          本といふものの小さきを見る | 文学フリマ東京38

          砂浜は、よく見ると色々なものでできている。砂。石。木片。貝殻。珊瑚。生物の一部。手で救うその中だけでも、たくさんの何かを見ることができるはずだ。 もしかすると。本も。きっとそうなのだろう。 大まかな形としてしか見ていなかった本というもの。その小さな部分まで見つめてみると、そこに、作者のこだわりが見える。 反対に言えば、そのような部分まで考えないと、自分で本は作れない、とも言える。 もちろん商業誌は、色んな専門職が結集し作られる。しかし個人での製本は、製本会社や印刷会社

          本といふものの小さきを見る | 文学フリマ東京38

          本を、作ろうと思った | 文学フリマ東京38

          基本的に思いつきの人間なのだ。 だから、ある日、そうだ、本、作ろう、と思った。そして、気づいたら、文を書き始めていた。 振り返れば、SNSを通じて、仕事を通じて、ずっと文を書いてきた。私にとって文を書くことは、自分自身をなぐさめる手段のひとつなのかもしれない。 なぐさめる。 どうにもできない、行き場の無い感情が、文を書くことによって波が引くように落ち着いていく。私にとっては、文を書くという営みは、そういうことである。 私の中にあるたくさんの、内側であっちこっち、落ち着

          本を、作ろうと思った | 文学フリマ東京38

          母と、私と、抗えない血について

          年と共に、どうしようもない事実がつまびらかにされていく。逃げようもない。私は、母に似ている。 この間、新潟に旅行に行った。燕三条で、新しい包丁を買おうと思ったのだ。使っていた包丁は、小学生の頃、料理をやってみたいという私に母が買ってくれたものだった。数十年も使って刃が欠けてきているし、せっかくだから燕三条で探そうと、旅に出た。 いいものは、やはり高い。なかなか決め切れずにいくつかの店を物色していたら、そこには見覚えのある包丁が置いてあった。まさに、私が使っているものだった

          母と、私と、抗えない血について

          文学フリマ東京38と、春の訪れ

          四月一日。 「わたぬき」って読むと知った時、日本語はなんて美しいんだろうと思った。 寒い季節に入れていた着物の綿を抜くから。だから四月一日はわたぬき。 さて、私の住んでいるところでも、ようやく春を感じられるようになってきて、何といっても今日は年度の始まりだから、新鮮な気持ちで迎えたところです。 新しい年度はもっと創作に優先順位を、と思い立ち、完全に自分の好きなように本を作ろうと考えて、はや、どのくらいでしょう。 5/19の文学フリマ東京38見据えてコツコツやってきまして

          自己紹介

          はじめまして、あーです。 (もじのほう)とあるのは、(えのほう)があるからでして 物書きと絵描きをやっております。 いろんなところに行くのが好きです。 その旅先で見た景色をしたためようと思っています。 お仕事として執筆もしていますが ここでは完全にマイペースでやっておりますので どうぞ生暖かく見守っていただけば幸いです。 あったようでなかったような旅の出来事や そこで出会った人たち、景色。 そんなものをお伝えしたいです。

          湖の白鳥を探して|長野・野尻湖

          スワンボートに、なぜか心惹かれる。実際に乗るとしたらもっぱら手漕ぎボート派なので、乗りたいわけではない。ただ、湖に浮かんでいるのを見ていたいのだ。 彼らを見ていると、なにか、優しい気持ちになる。あの細長い首、少し剥げた装飾、一点を見つめて前進する姿。乗っている人たちによって、少し左右にゆらゆらしたり、同じ場所でぐるぐる旋回しているのも、健気で良い。がんばれ。つい、そう思ってしまう。 長野県信濃町にある野尻湖では、いろいろなマリンスポーツを楽しめる。水上バイクやヨットが浮か

          湖の白鳥を探して|長野・野尻湖