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再会と告白

息子の夏祭りの準備をしていたら、同じクラスのお友達のお母さんから、突然「ニシムラさんて、旧姓オハラさんですよね」と言われた。「そうですけど」と、そのお母さんの顔をみるけど、これがなかなか思い出せない。彼女も私が一体どこの知り合いか思い出せないのだそう。でも、顔見て「知ってる!」とピンときたらしい。

それから、二人で実家はどこ?とか幼稚園は?小学校は?と記憶を辿っていく。すると、小学校の3、4年生の時のクラスメイトだったことが判明した。彼女は4年生のときに引っ越したらしいので、どうやら会うのは25年ぶり。

私は必死に当時の彼女の顔を思い出そうと、記憶のページをめくる。やっと想いだせたのだが、何故か泣き顔。大きな瞳にウルウルの涙。どうしても、その顔が思い出される。「そういえば泣き虫だったかな」なんて思いながら、特に昔話をするわけでもなく家路についた。

家に戻り、子どもを寝かしつけながら、暗闇でもう一度記憶を辿る。そこで、フラッシュバック。

薄暗い教室。
授業ではなく、学級会のような雰囲気。
発言はなく、しんと重たい空気。
私と、もう一人親友(再会した子とは別)が立たされている。
私はただ、うつむいて机をじっと見ている。
そこに、ぽたぽた流れる涙。

思い出した。
私の子ども時代のもっとも暗く重たい頃。

4年生のとき、ちょっとした事件があった。
クラスでも目立たない男の子の上靴が無くなった。

数日後、上靴は給食室の裏で発見された。
しかも、カッターか何かで切りつけられた無残な姿で。
小学校の平穏な日常に、それはたちまち大事件となり、クラスは大騒ぎに。
しかし、犯人が見つからないまま数日が過ぎた。

数日後、学級会は開かれた。
先生は事件の犯人がわかったという。
そして、何故か泣きじゃくる、ヒトミ(仮名)ちゃん。
そう、このヒトミちゃんこそ、私が今日再会した女の子。
先生は続けた。
ヒトミちゃんは事件の犯人が誰か知っていたのだが、口止めされていたから言えなかった。
でも、黙っているのが苦しくて苦しくて、昨日先生に話してくれたんだよ、と。

そして、立たされる二人。
そう、犯人は私と親友の女の子。
今思い出しても、手が震えるくらい暗い私の過去。
事件のことをヒトミちゃんに話し口止めしたのは親友の方で、私はすべての方面にそれを隠していた。
どちらの方がより心の闇が深いのかはわからないけれど。

ひたすら泣いて、被害者の男の子に謝る。
そして、苦しんだであろうヒトミちゃんにも謝った。
そのときのヒトミちゃんの涙ウルウルの顔が
私の脳裏に焼きついていたのだ。

男の子も、そしてヒトミちゃんもとっても苦しめてしまった。
そして、子どもだった自分も、何かに恐ろしく怯えて苦しんでいた。

四半世紀を経て、思わぬ形で突っつかれた心の闇。
思い出そうとすると、たちまち気分が悪くなってしまう。
自分の記憶なのに、ずっと手が届かないところに押し込めていた。

自分が親になって、初めて「子どもであった自分」を少しだけ客観的に振り返ることが出来るようになってきた。
きりつけられた上靴は、なんだか自分の心のようにも見える。
面倒な作業になりそうだけど、その頃の自分に向き合うべきか。
ヒトミちゃんの瞳が昔と変わらず澄んでいたので、逃げ隠れ出来ないような気分になった。

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