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子供のウエイトリフティング選手における障害予防の考え方:04-2 [腰痛対策]

アスレティックトレーナーのあおしまです。04の続きとして、今回も「腰痛」に注目した、障害予防のポイントについてご紹介します。


1.腰部と骨盤帯のはたらき

前回の記事では、重量とそれを支える関節の位置によってそれぞれにかかる負担割合が異なることをご紹介しました。

これを受けて、以下では腰痛の直接的な該当箇所となる脊柱と骨盤帯について考えていきます。

腰椎は椎骨と呼ばれる骨が複数組み合わされてお互いに力を分担して姿勢を調整します。


脊柱は、椎骨と呼ばれる骨が複数組み合わされた骨格をしています。この椎骨が、お互いに力を分担して姿勢変化を調整します。特に、腰部を構成する腰椎は、上半身の重みを一手に支えるため、常に圧縮の力を受けやすい骨です。

また、腰椎に続いて連結されている仙骨(椎)は、左右の寛骨と呼ばれる大きな骨に挟まれる形でつながっていて、骨盤帯の一部として働きます。

股関節が多方向へ運動する事で、腰部骨盤帯の働きが増える

腰椎と骨盤は、腰椎が支えている上半身の重みと下半身から上がってくる地面反力が交錯する重要な箇所であると同時に、股関節によって多方向への動作が生まれます。

このため、腰部と骨盤帯は、荷重を支える動き、圧縮に耐える働き、さらには多方向への運動に対応するためのバランスや、ブレーキ力を発揮しなければならない部位だと考えられます。


2.腰部-骨盤帯を支える組織

腰部と骨盤帯の役割についてご紹介したことを受けて、これらを動かす筋肉や影響を与える組織について考えていきます。

脊柱は、生理的ワン曲と呼ばれるカーブのおかげで多方向に動けると同時に衝撃にもやわらかく対応できる


この部位は、先にあげたように、荷重を支え、圧縮に耐える必要があります。そのための機能に「生理的ワン曲」と呼ばれる腰椎(脊柱)の緩やかなカーブをした骨配列をしています。

ワン曲構造は、上下の圧縮力を分散すると同時に、姿勢を変える上で、椎骨の一つ一つが角度変化を分担して、多方向への運動ができる仕組みとなっています。 また、ワン曲を下支えし、力の受け皿として機能するのが骨盤帯です。

ところが、腰椎-骨盤部がこれらの機能を正しく使うためには、お互いの関節位置を正常な位置に保つことが前提となります。

腰椎-骨盤部が前方向に傾斜する(引き出される)力に負けてしまうと、腰部を必要以上に反る姿勢(反り腰)をとるようになります。

一方、後方に傾斜する(後ろに転がる)力に負けてしまうと、背部や臀部の軟部組織に引き延ばす力を与えてしまい、筋力低下の原因を作ることになります。

ウエイトリフティング選手では少ないですが、球技系の選手では、骨盤帯の左右側で前方と後方の力が逆に働いている事も見受けられます。

これらの力が加わる理由は、腰部-骨盤帯を支える筋肉の働きが影響します。

下の図は、筋肉の過緊張と短縮が、腰部-骨盤帯の傾斜に影響を及ぼすグループで色分けをしています。なお、多裂筋は椎骨の一つ一つを細かく支える筋肉のため、傾斜というよりも安定感の欠如という観点で記載しています。

これらが全てを表すわけではありませんが、筋肉の過緊張と短縮が存在する事で、筋肉は正しい関節位置を取ることが難しくなります。

それは、筋力発揮の制限につながり、しいては筋力低下に結びついていきます。

筋肉の過緊張と短縮が、腰部-骨盤帯の傾斜や姿勢不良に影響する


3.ウエイトリフティング技術と腰部-骨盤帯


腰部-骨盤帯とウエイトリフティング技術の関係について考えていきます。以前ご紹介した、スタート姿勢と1st Pull動作での腰部-骨盤帯に影響する動きについてご説明します。そして、キャッチ動作時に発生する圧縮力と重心下での姿勢についても少し詳しく見ていきましょう。


Pull動作(スタート姿勢・1st局面)

スナッチ・クリーンともにスタート姿勢が定まっていれば、その姿勢を保持するようにPull動作が開始されます。最初のスタート姿勢をセットできない、もしくはその際に可動性の不足な関節が顕著な場合は、腰痛発生の素地を作ることになります。

腰部-骨盤帯の安定した姿勢を保持できている時には、脊柱が生理的ワン曲を保ちつつ、肩がバーベルの中心よりもやや前方に位置します。姿勢の良し悪しを確認する際には、側面からの観察も行うと良いでしょう。

スタート姿勢では、側面からの位置確認が重要


前面からの観察では、股関節(膝)の開きと肩の開きを見るのも大切です。股関節(膝)が閉じるような動きを先行すると、骨盤帯は前面に苦しさを持ちやすく、同時に腰部-骨盤部の丸みにつながる事が多く見られます。

また、バーベルの重さに耐えられず、肩が前内側に引き寄せられるような位置に来ることも、背中(胸椎)を丸くするきっかけとして注意しなければなりません。


続いて、1st Pull を開始していく際に、多く見られるエラーでは、膝が伸びる途中で骨盤帯の緊張が抜けてしまう点です。膝が伸びる動作は起こるのですが、膝が伸び始めたとしても、腰部-骨盤帯の緊張が保たれ脊柱の生理的ワン曲を正しく維持しなければなりません。

子供や初心者の選手は、設定重量が筋力よりも重くなると、途端にこの動作が現れやすく注意が必要です。



キャッチ動作(圧縮局面)

キャッチ動作は、スナッチ、クリーン&ジャークともに試技の成否を分ける大切な瞬間です。それと同時に、頭上に跳ね上げたバーベルが静止し、落下を始める一瞬の間を支えとる高い技術が必要な場面でもあります。

物の重さは、鉛直下方向に落下するよう働くため、これを支えるにはバーベルの真下に入り、足底支持面の中心もこの重力線の延長上にいなくてはなりません。

重力は鉛直下方向に働くため、足底支持の中心も同じ直線上に接地する


バーベルの重心位置から前後にズレると、その代償を自分の体が対応しなければならず、関節には圧縮の力が加わり、筋肉は伸張性の筋収縮(ブレーキをかける力)を発揮しなければならなくなります。

この関節の圧縮と筋肉の伸張性刺激の繰り返しは、腰部だけのストレスに留まらず、積み重ねて負荷を受け続けることで、手首や肘、肩関節の痛みや可動制限を生むきっかけになってしまいます。 

取り扱う重量の再設定や、キャッチ動作のシミュレーション練習がより大切になります。



(参考文献)
・公社)日本ウエイトリフティング協会指導教本2022
・日本トレーニング指導者協会トレーニング指導者テキスト(実践編・理論編)大修館書店
Olympic Weightlifting: A Complete Guide for Athletes & Coaches (English Edition):英語版/Greg Everett
・NASM ESSENTIALS OF SPORTS PERFORMANCE TRAINING 2nd edition
・NASM Essentials of Corrective Exercise Training: First Edition .2013
・ゆ~っくり座って健康に! 60歳からはじめるエキセントリック体操 2022 :
野坂 和則 (著), 稲見 崇孝 (著), 桂 良寛 (著), 野坂和則 (監修)
・エキセントリック運動の理論と実践:エキセントリック運動の特徴と効果:JATI東北支部WS野坂氏提供資料:2023


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