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せっかく人間なので。

"献呈"というクラシックの作品をご存知でしょうか。
3分半の曲なので、ちょっとだけ時間を豊かにすると思って、ぜひ再生ボタンを押してみてください。

彼女の友人が近所のスタジオで小さなピアノコンサートをすると聞いたので一緒に聴きに行った日のことです。クラシック自体にはあまり詳しくはないのですが、小学生から高校生くらいまでピアノを習わせてもらっていたのでピアノの演奏を聞くのは好きでした。(人生で初めて買ったCDは"のだめカンタービレ"のサントラでした。)

「次は、ロベルト・シューマン作曲/フランツ・リスト編曲 "献呈" です。」

司会の案内に「けんてい?」と思わず聞きなれない日本語に興味をひかれ、説明に耳をか。

「 "けんてい"とは"捧げる"という意味です。原曲を作ったロベルト・シューマンが結婚式前夜に妻となるクララにこの曲を捧げました。」

なんという…粋な…。
「もしもピアノが弾けたなら〜🎵」を地で行くスタイル。西田敏行もハンカチを咥えて悔しがるでしょう。

旋律が流れ始めると、聴いたことのある音色であることに気づき、それと同時に3年前に聞いたシューマンとクララの話を思い出しました。

ロベルト・シューマンは19世紀ドイツに生まれました。裕福な家庭で育ち、頭も良かったシューマンは大学の法科に進むが、ピアニストになる夢を抱き続け、鬼の指導で有名だったフリードリヒ・ヴィークの弟子となります。

運命は皮肉にも、シューマンが恋に落ちたのはそんなヴィークの箱入り娘、クララだったのです。

それを知ったヴィークは大激怒。もともと厳格な性格だった上に、ピアニストにしようとしていた娘と恋に落ち、結婚まで迫るような勢いのシューマンに罵倒・中傷・娘への監視の強化など、ありとあらゆる手段で妨害しました。

それでも2人は根気よく手紙でやり取りを続け、ヴィークに歩み寄ろうとするも、彼は頑なに拒絶。ヴィークの行動はエスカレートし、偽名でシューマンの悪評を広めるまでに。

ヴィークとの和解を諦めた二人はヴィークの元妻でクララの実母であるマリアンネの同意を得た上で、訴訟を起こし、遂には結婚の許可を下す判決を勝ち得たのでした。

苦難を乗り越え結ばれた2人。大好きなクララに1曲の歌を"献呈"したのは、結婚式の前夜のことだったそうです。

3年前、ちょっとしたきっかけでドイツ歌曲を聴きに行ける機会があったのですが、その時にそんなシューマンの話を司会が解説していたのを急に思い出しました。日常的に"シューマン"なんて言葉を聞きませんからすっかり忘れていました。多分、その時にもこの"献呈"を聴いていたのだと思います。

"献呈"の演奏が始まります。

なんて甘い旋律なんだろう、と思わず息を飲み、あまりのその甘さに一つの考えが僕の頭に浮かびました。

きっと、
これを書いた時のシューマンには、世界がこういう風に見えたのだ、と思ったのです。ただの日常的な夜が、苦境を乗り越え幸せを手にしようとしているシューマンの目から見たらこんなにも甘く、輝いて見えたのでしょう。

音楽にせよ、絵にせよ小説にせよ、あらゆる作品は世界がその人を通して抽出されたものだと思います。一人ひとりの人生の中に、いろんな出来事や気持ちがミルフィーユみたいに幾重にも重なっていて、作品はその層を通ってろ過されて出てくるものです。

そういう意味で、芸術とは極めて人間的な活動だと思いました。
その人なりに見えた世界の断面を残すなんて行為は人間以外にできないのではないでしょうか。

それに、ひとつ今回において付け加えるならば、目の前で繰り広げられている演奏さえ演奏者のこれまでの経験や努力、楽曲の理解などあらゆる層を通って表に出ているものだとも言えます。同じ楽譜でも、演奏者によって雰囲気が違うのはこのためでしょうし、それがまた音楽というものに深みを持たせているのだと気づきました。

芸術の、自分が見た世界の断面を形にして残して、こうやって後世に覗き見ることができるという側面に尊さを感じ、せっかく人間に生まれたからには自分も何かとそういう活動に細々と取り組んで行きたいなぁ、などと思った次第なのです。

note にお世話になり始めたのは、ちょうどその頃でしょうか。

***

(余談)

冒頭に貼ったリンクは、「シューマンが作曲した歌曲"献呈"を、リストがピアノ曲に編曲したもの」です。
実は、リストはシューマンの友達で、シューマンとクララの結婚式にも参列しています。

言ってみれば、シューマンとクララの幸せな姿を見たリストをろ過して出てきたものが冒頭のYoutubeのリンクの曲なのです。

せっかくなので、本家シューマンが書いた歌曲の方も貼っておきます。

いかがですか。
シューマンから見た世界とリストから見たシューマンとクララの世界。

僕はクラシックについて全くのど素人ですが、この機会に他にももっといろんな曲を聴いてみようと思いました。作品を生み出した彼ら・彼女らの人生を学びながら楽しめたら、なお味わい深いだろうとたくらんでいます。


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