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散文54

満ち足りた朝食の器、二、三
端に寄せられた中身のない瓶に無色の注水をする
取っ掛かりのない会話
会話と会話のディスタンスに鉤爪を引っ掛け、引き寄せると
会話がするすると抜けて、抜ける際の摩擦に快感する
生まれた空間の拡がりにまた会話と会話を注水する
ギャング

白紙のキャンパスノートに書き連ねた氏名
氏名、氏名、氏名、氏名、氏名、
枚数、枚数、枚数、枚数、題目
長い散文の末、二行だけが中身のない祈りで
締めくくられている
折り合いの付かない
真似事ばかりする蜉蝣が浮遊している自販機のデフォルメ
晩夏

遡りすぎた遡及データを吐き出して
別の遡及データへ
加速度を付けて接触させる
分析とは名ばかりの数字との戯れ
戯曲と
演劇

狭すぎる手幅で集め続ける文化表現は取るに足らない
知るほどでも、読むほどでもない、小説の見開きには
長過ぎる献辞が書かれていて、その献辞からは
苦いカマキリの鎌が迫り出し
わたしたちのページを捲る黄土色の指先に、ざらつきを
鉤爪のように掛けている
引き出された会話が指先からするすると抜けていく快感
読書をしなくなった青年の死が、こちらを見つめている。




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