アニス

詩と散文を書いています。25歳で働いています。

アニス

詩と散文を書いています。25歳で働いています。

最近の記事

散文64

決して、読み明かさないための、過去の追憶は、 人間がリフレクトする鼓動として、 脈拍として、 誰かの皮膚であるもの、その肉体であるもの、に 継承されていく 痛みや温かさや、柔らかさや硬さと言ったものが 被継承者の皮膚表面へと触れて 接触物が物体として認識されていく時 時刻に気づく。もう四時を過ぎている。 具体性の無い詩作に、 意味性は無い 具体性の無い散文に 物語性は無い 具体性の無い小説に あらゆる文化的土壌は存在し得ない 明後日の方向に、オレンジ色の月が滲む。

    • 散文63

      四つ打ちが流れている。 暗転するフロアにフラッシュが焚かれている。 若い男女の影が入り乱れている。 ビジョン。ここはどこだろうか、とiPhoneのSafariで検索をすると、 この場所の名前と、 その場所カテゴリーが表示される。 ”Jinsei 人生 ナイトクラブ 営業中”とゴシック体の文字がひらかれる。 オイルの付けられた髪を振り乱している。 オレンジ色の髪を振り乱しながら、四つ打ちに合わせて、 その生活の柄を踊り、 そして、動かしていく。ここは人生。ひらかれた人生。

      • 散文62

        刺繍が施された本の装丁に指を触れて、蛍光色の文字を追ったときには、既に遅かった。 何が? すべてが。 友達に教えてもらって買った、青い装丁のコミックのシュリンクを剥がすのが手間で、やっぱり捨てておいた。感想を言い合ったり、馴れ合いみたいな批評を繰り返している時間を想像して、読むのすら辞めた。そうして、駆け込むようにして入った、夜十時まで開いている大型書店にて、詩集を買った。 詩集は有益なことを書かなかったが、そのことが良いことは言うまでもない。日常という日常のなかで、その

        • 散文61

          裁きを受ける前夜に眠りにつけるか。 睡眠は死のいとこって? 死に続けている。 栄養のない硬い米を口に入れて、また陶器に吐き出している。 小綺麗な服と時計とを身に着けていて、着飾らない姿で ヘッドフォンから爆音でフランク・オーシャンが流れている時の 耳の涙。 街の労働の狭間で 正気であると信じてやまない彼らの 狂気を今日も数える。 意味も無い、意味性すら持たす隙も無い 私らの日々の 無意味な反復を想像したことはあるか? ともだち。 愛の詩を書いた詩人が 自死した夢を見て

          散文60

          声高に吠えた喜びがエンターテーメントだって言うから私の感情は今、誰かのものとなり、資本主義的なやり方の内輪ノリに内包された。ただ、私の感情が私だけのものであることなど、今まであったのだろうか?そのことに気づいていない思春期終わりの少女に、世界一わかりやすいLove Song聴かせて、わかる〜涙とか言わせて。 はっとしたあなたの感情が、詩作によるものならば、それがエンタメという名の、あるいは詩という名の賞レースで打ち勝った何か。そうでもしない限りに、人は良いものとか、面白いも

          散文59

          マリーシアの横行するピッチで 私の右足はくじかれる  夕暮れ 芝の毛並みは綺麗 レガースが割れた後半23分に 手触りの悪いウェアを引っ張り転ばせた7番は中指を立てて F◯ckと叫んでいた いつまで資本主義ごっこやるんだという人間のそばで やっぱり一番になりたいよね、と笑う男 全部思い通りになるフットボールはフットボール足り得ない セットプレーでは、振り子のように 脚を巻き付かせてフリーキックを蹴った 早いクロスを差し込むと 短髪の男にヘディングをさせて ネットが揺れる 揺

          散文58

          白い歯を見せながらスポーツに興じる男にも憂鬱はあり、 平日の労働の影がコートに落ちる その打球音が響く時にまた、 労働の味を知る 0−40(ラヴ・フォーティ) 反復するだけのラリーでは 何を知る由があるのかわからないが ネットを隔てた向こう側に見える過去の死人と 対話している。 「長く沈黙が続くのが不快で、裸体の女を手っ取り早く捕まえて ホテルに行く」 「誰もが一人で死んでいく街の衰退。当たり障りの良い親切や、余裕ある素振りをしているだけの人も、寝不足の日には眠りたい。電車

          散文57

          無花果の果実を潰した ichijikuは汁を垂らし 油を拡げていく 祝祭の支度が速度を上げる 人を待つ間に、スマホの鈍い光の端で 繋がるWi-fiの模様が波のように見えるのは 必然 重い香りがジトジトと香り立ち わかりにくい愛が反復する深夜 拡がり続ける、我々の繋がり

          散文56

          またひとりで起き、ひとりで眠る ふたりで話し、よにんで食べる。 過去の人々より不幸な民族が 生活の最も原則的な 部分に連携する数を削ぎ落とした 簡素な拍で踊るふりしている あった、あったと思う何かを 繰り返しているうちに、 それは既に楽しいものではなくなっているからたちが悪い。 楽しみが漸進的に退屈に変わり、いずれ何もできなくなる 大人になってから人に怒られることなんてね ないと思っていた。 何かを浴びた時、 身体が乾いてくのを感じた。 そのような身の振り方でしか生きるこ

          散文55

          切手の裏を舌の先でなぞる時に、触れた部分に 切手を購入した際の、担当者の指先が触れていたとする場合 私の舌先は、担当者の指先の分子を幾らか掠めていくのか、といったことを考える内に春は終わっていた。春の間は、会社の雑務と創造の間を行き交い、その隙間でその心配事を温めていた。暖って名前いいね、と言った女子の歯並び。整っていた。 切手の表には、緑色の和鳥がデフォルメされている。和鳥の顔が間抜けているので、裏返して舌先を触れさせた時に、私の顔もあのようなものだ、とわかる。画家が祝日

          散文54

          満ち足りた朝食の器、二、三 端に寄せられた中身のない瓶に無色の注水をする 取っ掛かりのない会話 会話と会話のディスタンスに鉤爪を引っ掛け、引き寄せると 会話がするすると抜けて、抜ける際の摩擦に快感する 生まれた空間の拡がりにまた会話と会話を注水する ギャング 白紙のキャンパスノートに書き連ねた氏名 氏名、氏名、氏名、氏名、氏名、 枚数、枚数、枚数、枚数、題目 長い散文の末、二行だけが中身のない祈りで 締めくくられている 折り合いの付かない 真似事ばかりする蜉蝣が浮遊している

          散文53

          市ヶ谷から幾らか市電に乗り数駅またいだ箇所で 降車したが、そのまま連連と歩行を進めた先で チェーンストアの書店が開かれていた 書店の中で雑誌ばかりの売り場を抜け、私は 美術本のコーナーを彷徨いた 結局、韓国人女性画家の評論本を二冊買った 見開きには、舌先の無い女の 肖像が描かれている ここからずっと西方の都市では まだ20世紀だった仏蘭西で撮られた エロい映画が放映され続けている 独居ビルの一端で、人が表現を殺し 生きる言い訳を続ける いつまで? 白い凧糸をグルグル巻き

          散文52

          オレンジのペンで優れた詩集が書かれたというのは、 過去の話。 遠い街の記憶で、皆が寝静まった後、 明かりの消えた夏のキッチンでは夜の雫が零れ落ちていた。 夜の空気に、青緑色した膜がどんよりとまとわりついて、 ワクワクとした気分に触れては離れていく。 花火、綺麗だったと思うのと、同級生の普段着を見れたことが 祭りの収穫で、空から降りかかるように巨大すぎる火花がほとばしっていたし、あの子の佇まいが目から離れない理由が、なんとなく見えたような気がしていた。夜は、長いけれど、まだ

          散文51

          祝日が近づくにつれ、街の中は活気めいていた。 隣の席に座る若い男女は、レストランの予約が取れるか、取れないかで揉めている。自分の長い髪に触れる。指ざわりが油じみていて指先を何度か擦り合わせた。空腹が差し込むように孤独を煽るので、何か食べなければと思うが、ひとりで何かを食べるのが怖くて、じっとしていた。孤独になると、熱が無くなっていくのを痛切に感じる。寒い、冷える、の類ではない、もっとより本質的な寂しさが腹に刺さるのだ。そうするとやけに頭が冴えてきて、あることないことを考えたり

          散文50

           雑務全て、関係者の内面を削り取っていく作業だと気づいたときに、幼少の頃打ち込んだフットボールが、身体性の限り相手を脚で削り取っていく作業であることを思い出した。もちろん、削りとる作業は自分ではない誰かに削らせてもいいが、削らせた人間の脚は、同じようにしてその分だけ削り取られる。  相手の11番の脚は、こちらの7番と同じ形だけ失っている。他部署の同僚が、同部署の同僚と同じ形で、内面を摩耗している。  失脚すること、失脚させること。それを繰り返して、週間の中の休日にその修復をす

          散文49

          長い春に日光浴 太陽の光の中を泳いでいるサカナ サカナはわたしたち 黄金の鱗を虹色に乱反射して 生きていこうよ、ずっと 水の多い地方都市の樹木の間を抜けて 深い緑の木陰を抜けて 寂しい橙色の街灯の影を抜けて 長い春に日光浴 温かい太陽の光の中で みんな、母の腕に抱かれていた 過去の子ども