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【小説】絶望から愛へ 〜side愛

【小説】絶望から愛へ 〜side愛

「死」が誤りとされるのは、誰も死んだことがないからだ。スピリチュアルや宗教の世界で語られる、もしかしたらあるかもしれない死後の世界はなんだか壮大だけれど、誰かの妄想の範囲内で形作られるあの世の姿なんて、どうせすべて嘘だ。どっかの誰かが、この世にいる限り見ることのできないまやかしをぶらさげることで、自分の存在意義を証明して誇りを手に入れたいがために始めた朗読にすぎない。
「トイレいこー」「いくいくー

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【短編小説】ラスト・デート

【短編小説】ラスト・デート

ラムネ色のワンピースを着た。クローゼットの中にある夏服の中で、これが一番のお気に入りだ。ひざ下くらいのちょうどいい丈感で、歩くとふわりと揺れる裾がいい感じ。年相応のオシャレができるこの一枚は、特別な日にだけ着ようと決めていたもの。つまり、これを着ているわたしは、今日という日をとても大事にしているということなのだけれど、その乙女心は果たして伝わるのでしょうか。
足元は、クリーム色の履きなれたローヒー

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【短編小説】メイビー・メイビー・ラブ

【短編小説】メイビー・メイビー・ラブ

だいぶ傾いた太陽の日差しで目が覚めた。中途半端に開いた窓からそよぐ風が心地よくて、目を閉じたままま空気を吸いこんでみる。パクパクと口を開閉する自分の顔はさぞかし間抜けだろう。遠くで聞こえるバイクが通りすがる音に、ここにある虚しさが倍増していく気がして「ふふっ」と笑ってしまった。乾いた喉がさらに乾いていくけれど、新鮮な空気がおいしくて、まあ悪くない。ベランダでは、昨夜のわたしが酔っぱらった勢いで一気

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【短編小説】7月、新宿。梅雨と隙と好きと。

【短編小説】7月、新宿。梅雨と隙と好きと。

見上げれば、今日も雨空。7月ももう終わりだというのに、いつまでたっても東京は梅雨のまま。灰色の空から溢れる細やかな粒が鳴らす雨音は綺麗なはずなのに、新宿にいるとそれが汚く聞こえてしまうから、わたしは都会が嫌いだ。東京で生まれたくせに、東京が嫌い。

仕事終わりの20時。ここにいるたくさんの人は、どこへ向かうのだろう。まとわりつく湿気に勝てないわたしの髪はうねりにうねり、毛先はあちこちを目指している

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