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読み物

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この物語はフィクションです。お気軽にどうぞのやつです。
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記事一覧

【読み物】沈黙義塾-秘すれば花-

【読み物】沈黙義塾-秘すれば花-

都内某所、区民ホールの3階、とあるセミナールームではこの日大きな期待感と少しの緊張感が渦を巻いていた。午前10時20分、既にここには10名弱の男女が集まっていた。中央に置かれた石油ストーブを囲むように並べられたテーブルには、なぜか『週刊新潮』が一人一部ずつ置かれている。無言で座る彼らはそれを手に取ってみたり、スマートフォンを操作したりしながら、それぞれセミナー開始時刻を待っていた。

席に座る。隣

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【七夕の読み物】新訳 ブラザー軒

【七夕の読み物】新訳 ブラザー軒

田舎から出てきて10年、東京で忙しく働いている。「忙」という字は、「心を亡くす」と書くと、いつかどこかで聞いた記憶がある。適当なネットニュースだったかもしれないし、毎週金曜日に飲みに行く馴染みの店だったかもしれない。いつどこで聞きかじったかは忘れたが心に残っているということは、すなわち自分にとって真理であるということだろう。事実、故郷を想う暇もないし、自分が本当にやりたいことも忘れかけている。まさ

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【2023年5月最新】5分で簡単にわかる!さんしさんが今朝見ていない架空の夢を初心者にも分かりやすく徹底解説!

【2023年5月最新】5分で簡単にわかる!さんしさんが今朝見ていない架空の夢を初心者にも分かりやすく徹底解説!

※本記事の読了目安時間は5分となっております※

1.はじめに この記事で紹介することさんしさんはおよそ30年に及ぶ人生の中のおよそ30%、80,000時間以上も睡眠に費やしており、膨大な数の夢を見てきていると噂されていますが、本当のところはどうなのでしょうか!?この記事では、さんしさんがいままで見てきた10,000種類を超えるとも噂される夢とは一切関係のない、さんしさんが今朝見ていない架空の夢に

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【読み物】帰郷 あるいは自意識の森

【読み物】帰郷 あるいは自意識の森

友達と遊んだ雑木林や小川、神社の境内など、懐かしい風景の数々。そのどれもに思い出があります。そうです、いぬは、10年ぶりに故郷の森に帰ってきたのです!

実家で近況報告もそこそこに、懐かしいそこかしこをあの頃は生えていなかった無精ひげを撫でながら散歩して回っていたいぬは、川縁にせっせとどんぐりを集める泥にまみれた、薄汚れたりすの姿を認めました。そのりすのことを、いぬは知っています。そうとも、10年

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【読み物】ハクビシンと夏

【読み物】ハクビシンと夏

本記事は、2021年8月9日に執筆したものを加筆修正したものです。

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わたしはいつものように仕事を終え、22時頃に帰宅し、部屋で遅めの晩御飯を食べ、シャワーを浴びてからベランダで就寝前の一服をふかしていた。

「いや風呂あがりにタバコはないわ~風呂の前に済ませとくっしょ普通」

声のする地上階に目をやると一匹のハクビシンがいた。

「あたしあたし、フミだよ。下降りてこれる?」

フミというの

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【読み物】次郎は切り抜き動画の夢を見る_イントロ篇

【読み物】次郎は切り抜き動画の夢を見る_イントロ篇

都内某所、地下鉄の駅と繋がったとあるビルディングの一画、まだ始発も動き出さない時間からそこにはうすぼんやりとした明かりが灯る。人のいない地下鉄の通路からは、カチカチという音だけが響いている。

日本の伝統工芸品のひとつである「切り抜き動画」。2時間以上もの長尺動画のエッセンスをわずか5分に詰め込む。一見簡単そうに見えるのは、両の手とインターネット環境さえあれば誰でも作れる点にある。YouTubeに

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【読み物】坂をのぼれば

【読み物】坂をのぼれば

2022年お盆。その日は日中こそ猛暑日だったが、日が暮れたら暑さがある程度やわらぐ、そんな気候だった。夏が終わる、そんなものさびしい予感に居ても立っても居られず自転車を漕ぎだす。J-POPの歌詞みたいな安い動機でいまの状態をあらわしてみたものの、とにかくおれには金がない、というのが実際のところ。夏の終わりのものさびしさに呼応してかせずか、おれの懐もまたものさびしい。会社の給料は月の前半には消えてし

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