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テイラー・スウィフトと英米文学 ②ナサニエル・ホーソーン『緋文字』

テイラー・スウィフトと関わりのある文学作品を勝手に紹介します。
第二弾です。

Love Storyに出てくる不思議な表現

前回はLove Storyの題材である『ロミオとジュリエット』についてでした。


今回はもうちょっと細かく、Love Storyに出てくる歌詞のワンフレーズについて書こうと思います。


(2番Bメロ)
“But you were Romeo /
I was a scarlet letter”

ここの “scarlet letter”ってフレーズですが、初めて聞いた時に意味がよく分からなかったんです。
あなたはロミオで?私は?赤い?文字??
直訳すれば「赤い文字」ですが、おそらく洋楽和訳サイトでは「罪深い身」などと訳されていると思います。

なんでそんな意味になるの??と思い調べたら、『緋文字(ひもんじ)』という小説が元になっているらしいと知りました。
原題が"The Scarlet Letter"。
1850年に書かれた、アメリカではとっても有名な文学作品のひとつです。
多くの学校で教材として扱っているようなので、テイラーもきっと授業で読んだ可能性が高いと思っています。

今回はその小説について、そしてなぜテイラーがこのフレーズを歌詞に入れたかについて少し考えてみます。

ナサニエル・ホーソーン『緋文字』

舞台は17世紀、アメリカ独立前のボストン。
へスターという女性が姦通(キリスト教徒にとっての不倫です)の罪に問われていました。
夫が帰ってきていないにも関わらず妊娠しているへスターは、子供の父親の名前を決して言おうとしません。
そんなへスターに対し町の人たちが課した罰は、真っ赤なAの文字を常に衣服の胸にあしらっておくこと。
Aはadultery(姦通)の頭文字で、姦通を犯した罪人として死ぬまで村八分にされることを意味します。

そんな罪の烙印のようなAの文字ですが、この一文字は物語が進むにつれadultery以外の意味も持つようになります。
へスターは町の人に邪険に扱われながらも懸命に彼らのために尽くします。
次第に彼女の人助けのスキルは重宝するようになり、胸のAはまるでability(能力)、angel(天使)などの名誉ある言葉の頭文字かのように見えてくるのです。

なぜLove Storyに"scarlet letter"が使われているのか

『緋文字』を読んでみてもLove Storyの歌詞は腑に落ちないままでした。

「赤い文字」はあくまで姦通(不倫)のシンボルです。
この小説をもとに、"scarlet letter"は「浮気」や「不倫」を表す英語の言い回しになったようです。
独身かつ恋人同士のロミオとジュリエットに"scarlet letter"を使うのは不自然では?という指摘は、リリース当時もファンの間で少し話題になっていた記憶があります。

それでもテイラーが"scarlet letter"というフレーズを選んだのはなぜだろう、と考えてみました。

あくまで想像ですが、『緋文字』の中の重要なモチーフとして「森」が出てくることが関係あるんじゃないかと思うんです。

"Scarlet letter"が登場する直前の歌詞にはこうあります。

“We keep quiet ‘cause we’re dead if they knew /
So close your eyes, escape this town for a little while”
静かに、知られたら二人とも殺されてしまうから
目を閉じて、この町を少しだけ抜け出そう

そして"I was a scarlet letter”と歌う部分で、MVでは二人がこっそり森へ抜け出しています。


このMVに限らず、テイラーは仕事でもプライベートでも森が大好きです。

MineやWildest Dreams、Out Of The Woods、Call It What You WantなどのMVも恋愛を森や草原にたとえていますし、インスタグラムではハイキングしてる様子を何度も載せています。

テイラーは森とか自然とか、そういう雄大なものをロマンチックなモチーフとして捉えている傾向があると思います。

『緋文字』の重要なシーンの一つに、へスターが姦通相手の男性と森で出くわす場面があります。
ここでは二人が町から離れ、静かな森の中で家族として暮らす未来が少しだけ想像されます。
町での暮らしvs森での暮らしは小説の中でなんども比較されるのですが、「人工」と「自然」、「集団」と「個人」、「束縛」と「自由」といった対比の象徴となっています。

この場面を読んだ時、「いかにもテイラーの好きそうな場面とモチーフだ...!」と思いました。

恋人と街の喧騒から逃げ出して自然のある場所で自由になる。さっきあげた曲をはじめ、テイラーがよく使用する表現方法です。
もしテイラーが『緋文字』を読んでいたとしたら、きっと物語全体のテーマよりこの森のモチーフが印象に残っていたのではないでしょうか。

そう考えれば、ロミオとジュリエットが森へ抜け出しているところを想像したテイラーが、歌詞を考えていたときに『緋文字』の森のモチーフを思い出したのかな、と想像できます。

あまりにも勝手な想像ですが!笑

おすすめの邦訳は光文社から出ている小川高義訳『緋文字』です。


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