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雑文

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主に読書感想文を載せています。ネタバレしない内容を心がけてますが、気にする人は避けてください。批評ではなく、感想文です。
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2017年6月の記事一覧

須原一秀 『〈現代の全体〉をとらえる一番大きくて簡単な枠組』

★★★☆☆

 こちらは小説ではありません。分析哲学を専門としていた教授の著書です(2006年4月に自死により他界してます)。
 現代において、学問としての哲学が成立しえない論拠と、現代社会を捉える枠組を提示しています。

 興味深かったのは、哲学と思想をきちんと分けているところです。思想というのは「ものの見方・感じ方・考え方」なので、無数に存在するが(哲学も思想の一つとしては存在可能)、哲学とい

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ジョン・ニコルズ 『卵を産めない郭公』

★★★★★

 村上柴田翻訳堂シリーズによる復刊作品。原作は1965年、翻訳版は1970年に『くちづけ』という題名で出版されたそうです。

 純度100%の青春小説です。第1章からフルスロットルで引きこまれてしまい、あっという間に読んでしまいました。序盤の引きの強さからすると、尻すぼみ感がなきにしもあらずですが、それは期待値が上がりすぎたせいでしょう(勝手に期待した僕の問題です)。

 とにかく、

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アリス・マンロー 『ディア・ライフ』

★★★☆☆

 現在のところ、アリス・マンローの最新・最後の短篇集となっている本作。2013年刊行(その後に出版されたのは過去の作品のようです)。
『林檎の木の下で』の帯に「これがわたしの最後の本」と書かれてましたが、その後にも『小説のように』と本作が出たので、これで最後かはまだわかりません。最後であってほしくないですね。

 執筆した年齢もあって、遠い過去のことを振り返っているものが多い気がしま

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J・D・サリンジャー 『大工よ、屋根の梁を高く上げよ/シーモア—序章—』

★★☆☆☆

 サリンジャー読者にはお馴染みのグラース家ものの二篇がおさめられている一冊。近年、サリンジャーの作品は新訳で出版されていますが、今作は往年の野崎孝訳(『シーモア—』は井上謙治訳)です。
 新訳はいまのところ出版されていないようですが、読むとその理由がなんとなくわかります。というのも、『大工よ—』はともかくとして、『シーモア—』の方はけっこう特殊な小説なんです。2000年代になってから

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アリス・マンロー 『林檎の木の下で』

★★★☆☆

 アリス・マンローばっかりですやん、という内なる関西弁のツッコミが聞こえます。仕方ないんです。そういう時期なんです。
 原題は『The View from Castle Rock』なので、『キャッスル・ロックからの眺め』といった感じでしょうか。林檎、関係あらへん、とついエセ関西弁になってしまいます。
 小説の邦題っていまだに意訳がありますよね。音楽のアルバムだと、英語のままがほとんど

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