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雑文

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主に読書感想文を載せています。ネタバレしない内容を心がけてますが、気にする人は避けてください。批評ではなく、感想文です。
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#小説

ジョン・ニコルズ 『卵を産めない郭公』

★★★★★

 村上柴田翻訳堂シリーズによる復刊作品。原作は1965年、翻訳版は1970年に『くちづけ』という題名で出版されたそうです。

 純度100%の青春小説です。第1章からフルスロットルで引きこまれてしまい、あっという間に読んでしまいました。序盤の引きの強さからすると、尻すぼみ感がなきにしもあらずですが、それは期待値が上がりすぎたせいでしょう(勝手に期待した僕の問題です)。

 とにかく、

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アリス・マンロー 『ディア・ライフ』

★★★☆☆

 現在のところ、アリス・マンローの最新・最後の短篇集となっている本作。2013年刊行(その後に出版されたのは過去の作品のようです)。
『林檎の木の下で』の帯に「これがわたしの最後の本」と書かれてましたが、その後にも『小説のように』と本作が出たので、これで最後かはまだわかりません。最後であってほしくないですね。

 執筆した年齢もあって、遠い過去のことを振り返っているものが多い気がしま

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アリス・マンロー 『林檎の木の下で』

★★★☆☆

 アリス・マンローばっかりですやん、という内なる関西弁のツッコミが聞こえます。仕方ないんです。そういう時期なんです。
 原題は『The View from Castle Rock』なので、『キャッスル・ロックからの眺め』といった感じでしょうか。林檎、関係あらへん、とついエセ関西弁になってしまいます。
 小説の邦題っていまだに意訳がありますよね。音楽のアルバムだと、英語のままがほとんど

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崔実(チェ・シル) 『ジニのパズル』

★★☆☆☆

 第59回群像新人賞を受賞した小説。在日朝鮮人である少女ジニの物語。短く章分けされた構成といい、癖のない文体といい、読みやすかったです。
 ただし、新人賞の作品だけあって、どことなくまとまりに欠けている印象は拭えません。カート・ヴォネガットやブローディガン、村上春樹の『風の歌を聴け』や高橋源一郎の『さようなら、ギャングたち』を思わせる断片的構成なのだけれど、上記の作品とは異なり、その

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アリス・マンロー 『木星の月』

★★★☆☆

 アリス・マンローの最初に刊行された短篇集。11篇収録。どれも1980年前後に発表されたものだそうです。

 いくぶん粗いところも見受けられるけれど、アリス・マンローらしさはすでにできあがっている印象。文体も視座も確立されています。もっと後の作品と比べると、洗練されていないところはありますが(あたりまえの話)、作品の質は高いです。

『ターキー・シーズン』の全篇に溢れる郷愁感と、カラ

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コリン・ウィルソン 『宇宙ヴァンパイアー』

★★☆☆☆

 70年代に一世を風靡したというコリン・ウィルソンの小説。
 解説によると、著者は評論『アウトサイダー』で一躍名を知らしめたそうな。マルクス主義が席捲していた60年代後の思想シーンの一端を担ったそうですが、いまひとつピンと来ません。そう言われても現在では、「はあ、そうなんですか……」と寝起きのようなリアクションしかとれません。

 そういった文脈込みで読むと、また違った受け取り方がで

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アリス・マンロー 『小説のように』

★★★★☆

「短篇の女王」と誉れ高いアリス・マンローの短篇集。10篇収録。2009年にカナダと英国で刊行されたものなので、ノーベル賞受賞前のものになります(ノーベル賞は2013年に受賞)。

「現代のチェーホフ」と評されるとおり、雰囲気と読後感に似たものを感じます。短篇というフォーマットの中でどこまでも深い広がりを見せる力量は他に類をみません。

 短篇となると、少ないエピソードや短い時間をさっ

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村上春樹 『騎士団長殺し』第1部・第2部

★★★☆☆

 話題になってはいたけれど、内容はまるで知らずに読みました。タイトルから察するに、中世を舞台にしているのかしらん、と思っていたら、ふつうに現代の日本でした。

 相変わらず、文章の読みやすさは群を抜いています。相当にややこしい内容であっても、小気味よくすらすらと読めてしまう(理解できているかはともかくとして)。まるでわんこそばのよう。副題に「イデア」とか「メタファー」とあっても売れる

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ブライアン・エヴンソン 『ウインドアイ』

★★★☆☆

 薄気味の悪さや不穏な雰囲気に満ちた25篇を集めた短篇集。ホラーやゴシック感に満ちていますが、ただの恐怖小説というわけではないです。人間の認識と世界の実相とのギャップ、感覚のずれ、狂気といったところに踏み込んでいるので、一口に「怖い」とは片づけられない奇妙な据わりの悪さがあります。

 恐ろしいけれど、なにが恐ろしいのかわからない、そのせいで余計に恐ろしい、という複雑な味があります。

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ベン・ファウンテン 『ビリー・リンの永遠の一日』

★★★☆☆

 イラク戦争における戦闘で一躍英雄となった一時帰還兵たちが、スーパーボウルのゲストとして駆り出され、戦意高揚に利用される様子を描いた小説。

 個人的な読みどころはなんといってもアメリカ的なものの描かれた方です。読んでいて、「ああ、アメリカってこうなんだろうな」とか、「まさにアメリカ人って感じだな」と、しみじみと感じ入りました。

 私は映画やドラマというものをほとんど観ないので(昔

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