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'95 till Infinity 033

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【 第1章: 2nd Summer of Love of Our Own 025 】


 俺はトーニにもう一度だけ言ってみる。

 「なぁ、トーニ、その金あったとこに返してこようぜ。どう考えてもよくないぜ、そんなこと」

 トーニは俺の目をまっすぐに一度睨んで答える。

 「俺が俺の母ちゃんの金を取ってきたってお前には関係ないことだろ?俺はさっきも言った通りに今日のレイブで金がないってことで何かすげぇおもしろいことに乗れないってことだけはないようにしたいんだよ。

 俺はなんでだか知んないけど、今回のこのレイブってもんがとんでもなくおもしろいものになるって気がするんだよ。だから、少なくとも金っていう俺が母ちゃんから借りれば済むようなことで俺たちがそのすげぇおもしろい何かに乗り遅れるようなことになるのが嫌なんだよ」

 トーニがこう答えると、黙って歩いていたカイロが口を開く。

 「けどさ、トーニ、自分の親から金を盗むってのはクールじゃないよ。バレちゃって気まずくなる前に返してこようよ。それで信頼関係がなくなって嫌な思いするの嫌でしょ?そういうのってクールじゃないよ」

 カイロにまで諌められたことでトーニはムキになる。

 「うるせぇなぁ、バレねぇよ。大体、俺はこの金をちょっと借りるだけで、お前らがさっきから言ってるみたいに盗むわけでも何でもないんだぜ。こんな金なんかバレる前にいつでも返してやるよ。

 大体、うちの母ちゃんは自分が銀行に勤めてるくせに自分の銀行のATMシステムを信用してなくて、いつもマットレスの間に金を隠しててさ。その額がしょっちゅう上がったり下がったりしてるんだぜ、そんなのバレっこねぇよ。

 それによ、お前らは俺が自分の母ちゃんの金を盗む恥知らずのコソ泥みたいに言ってるけどよ、俺はこの金を盗んでなんかねぇよ。

 言っとくけど、俺はこの金をただ借りてるだけだからな。んで、こうやって金を借りるのなんてこの一回きりだ。こんなの何回もやって返さなかったら、それこそ自分の親から盗む恥知らずの最低の奴になっちゃうからよ。

 この一回きりだよ。なっ、この一回きりだって。だから、余計な心配なんかすんなよ」

 そうムキになって言うトーニの顔は恥とやましさで歪んで醜かった。

 俺たちはトーニが『借りる』と言っている金の額がトーニが現実的に返せる範囲を越えているのも知っていたし、実際にトーニが返すことなんかないだろうということも知っていた。

 それでも結局のところ、これはトーニとトーニの母親の問題で俺たちがどうこう言えるものではなかったし、トーニも自分が何をやっているか俺やカイロに言われなくてもわかっていた。

 この一回がトーニの言うように『一回きり』になることを祈りながら、俺たちは黙ってバス停までの道を速足で進んだ。

noteも含めた"アウトプット"に生きる本や音楽、DVD等に使います。海外移住時に銀行とケンカして使える日本の口座がないんで、次回帰国時に口座開設 or 使ってない口座を復活するまで貯めに貯めてAmazonで買わせてもらいます。