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蝶々の採餌 第七話

ここまでの話/「知っている?蝶々には、甘い蜜が隠れている場所がとても美しい色で見えるのよ。」私は銀座の会員制クラブで働くことになった。採用が決まったその日、お店の艶子ママから『白蝶貝のピアス』を貸してもらう。私はまだ気づいていなかったけれど、そのピアスは――


 銀座のクラブには他の街のクラブと違うルールがある。ひとつめは基本一見さんはお断りなこと。鈴木さんたちも、別のお店で艶子ママと知り合って紹介できていたのだと後ほど知った。

 この三人ならその日デビューの私でも大丈夫だと、艶子ママが席に私をつけたのだった。

 もう一つはお姉さんとヘルプの2人で席に着き、チームでお客さんに気に入ってもらうこと。

 あの日のことを思うと、何も知らなかったとはいえ、ヘルプも連携もなかった私に、エミリさんは本当に寛大だった。エミリさんは初めて会った日に、私を男に騙されないようにと笑ったけれど、本当は優しすぎて付け入る隙を与えてしまうのはエミリさんの方なのではと思う。

 もうひとつは、一度お姉さんのお客になったら永久指名制であること。浮気はご法度。他の街のお店と違って、来店のたびにホステスの指名は基本ない。

 エミリさんの見様見真似で私が大分ホステスらしくなった今でも、まれにあの日の鈴木さんのように、紫色の光を持ったお客様に出会うことがある。その時は必ず、その席の中でその男の人を特別扱いしてあげる。

 それは本当にちょっとしたことで良かった。ひざの上に手を置いたり、下の名前を聞いてその人だけ下の名前で呼んであげたり。そうすると、今のところ100%、売り上げに貢献できている。それはきっと、あのピアスの力なのだと思う。何かの拍子で力が発動すると、男の人を引き寄せる光を放つのだ。


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