見出し画像

【ショートストーリー】裏切り

悠人ゆうと君にバレンタインチョコ、あげようかな」
帰り道に寄ったコンビニのチョコレート売場で
茉由まゆが突然言い出した。
「やっぱりやめた。絶対告白なんてできない」
茉由はさっき言ったことをすぐに撤回した。
「なんで? 告白してみないとわからないじゃん」
私は茉由にけしかけた。
茉由が告白すれば、何か展開があるかもしれない。
色々な意味で。そう思ったのだ。
「わかるよ。悠人君には好きな人がいそう。
  だから私は告白したら絶対に振られる」
茉由はハートのチョコに未練があるように、
ゆっくりと棚に戻した。
千紗ちさは? 誰か好きな人いないの?」
茉由が閃いたように私に聞いた。
「いなーい」
私はバレンタインにも、
同じ中学の男の子にも興味はなかった。
高校生の兄が時々家に連れてくる、
兄の友達には惹かれているのだけど、
どうせ私なんてガキだと思われてるんだろうし。

それにしても茉由が好きな悠人は、
よく私に視線を送ってくる。
私が見ると慌てて目を逸らすこともあるし、
時々にこっと微笑んでくることもある。
絶対に私に気があるのだと思うけど、
茉由が彼を好きなのでそのことは言っていない。
悠人に告白されたら、つきあってもいいかなとは
思うけど、茉由にはなんて言おう。
やっぱり女の友情を取って、断ろうかな…なんて、
告白をされてもいないのに考えることがある。

何事もなかったようにバレンタインは過ぎ去り、
私たちは卒業式を迎えた。
茉由と私は違う高校に行くことが決まっている。
悠人は野球で有名な男子校に行くらしい。
これで平和にみんなバラバラだと思ったら、
卒業式の後で、悠人に呼び出された。
「一緒に写真撮ろう」
「え、私と?」
私はちょっと驚いて見せたが、
心の底では意外にも嬉しく感じていた。
茉由が少し遠くで驚いたように見ているが、
向こうから頼まれたのだから仕方がない。
付き合うわけでもないし、写真くらいいいよね…?
私は悠人の隣でにっこり微笑んだ。
「あのさ、写真送りたいから、LINE教えて」
悠人は写真の後、連絡先を聞いてきた。
やっぱりやめとけばよかったかな…。
茉由の悲しそうな顔が視界に入り、
私は少し後悔した。

「悠人君の好きな人って千紗だったんだ」
女子たちのところに戻ると、
茉由が待ち構えていた。
「違うよ、一緒の委員してたしさ、
  記念に写真撮っただけだよ」
私はなんとかごまかした。

それから悠人とはLINEのやり取りが始まり、
結局告白された。
私はもう茉由とは同じ学校じゃないし、
茉由も高校で新しく好きな人ができるよね?
…と思ってOKしてしまった。
友情より恋を取ったわけではない。
深く考えるのが面倒だっただけだ。

私は結果的に親友を裏切った。
その罪悪感は消えなかった。
デートしていても、
どこかで茉由に会うんじゃないかと
気が気じゃなかった。
そして結局3か月もしないで私は悠人と別れた。
どうせそれくらいの思いだったんだ。
親友の好きな人に思われている自分、
という状況に酔っていただけだったのかも。
裏切って悠人と付き合ったこと、茉由に謝りたい。
こんなこと、しなければよかった。
茉由にも悠人にも悪いことをした。
私は悠人と別れた夜、一人で大泣きした。

©2023 alice hanasaki

山根あきらさんの企画「片想いする時・される時」
#肉食と草食の物語 に参加させていただきました。

※この作品は創作であり、
私生活とは関係ありません。

ショートストーリーのマガジンはコチラ ↑  

最後までお読みくださり,ありがとうございます!
他のショートストーリーも読んでいただければ,
もっともっと喜びます。

この記事が参加している募集

私の作品紹介

忘れられない恋物語

応援していただけたら嬉しいです😊 よろしくお願いします❣️