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歌い手の「本質的な魅力」を引きだす名人・筒美京平さんに美学を感じて


先日、私の尊敬する音楽人がまた1人亡くなった。
筒美京平さん。
名曲の数々や作曲手法などは、既にメディアで紹介され、私が語るまでもない。
実は、訃報の直後に書きたいことは沢山あったのだけど、多くの専門家が語っていたので逡巡していた。
今さらだけど…やっぱり私の視点で思うことだけ記しておこうと思う。

「歌い手の個性」を引き立てる引き出しの多さ

この曲も? あの曲も? 筒美さんなの?
記憶に鮮明なヒット曲ばかり。そのバリエーションの振れ幅にあらためて驚く。
その幅広さゆえ、私達素人には、一見して(一聴?)して、「筒美さんらしい!」とはわからない。
実はそこがミソ
だと思う。

ヒット曲は、歌い手とセット。
歌い手自身の「声質」「雰囲気」×楽曲のマリアージュがうまくいってこそ印象に残る。
筒美さんの曲は、そのマリアージュが見事な曲ばかりだと思う。

代表的な曲として紹介される『木綿のハンカチーフ』は、太田裕美さんの可憐なハイトーンの声質が活きるメロディ。
もし、岩崎宏美さんの『ロマンス』と歌い手と曲を入れ替えたら…?
岩崎宏美さんはやっぱり『ロマンス』のほうが似合う。
岩崎さんも太田さんも歌がうまいけれど、質が全く異なる。歌い手それぞれの特徴をうまく活かした曲になっていると思う。

尾崎紀世彦さんの『また逢う日まで』も、あのパンチの効いたイントロやサビの盛り上がりが、尾崎さんの声量と迫力にピッタリ。
そんな曲を挙げたらキリがない。

「歌のウマさ」ばかりでなく、「つたなさ」さえもプラスにしてしまう。
浅田美代子さんの『赤い風船』は、彼女のたどたどしさがむしろ味わいとなっている歌。
SMAPの『Best Friends』も、彼らの訥々とした歌い方や素朴な繊細さみたいなものが際立つ「SMAPらしい」曲の一つになっている。

まるでドラマのシナリオの充て書きのように、歌い手それぞれの個性、特徴、雰囲気、など本質的な魅力が伝わってくる楽曲が多い。
「曲が歌い手の良さを輝かせる」
そこが筒美さんの真骨頂な気がする。

これは、単なる作曲技術のみならず、
歌い手の本質的な魅力を的確に捉えて、曲で引き出すセンスが卓越していないとできないし、さらに、その引き出しが多くないと、個々に合わせたあのバリエーションは生み出せない。
むしろ「自分が作りたい曲」を作るよりも、鋭い洞察力と緻密なテクニックが必要だろう。

「歌い手それぞれの個性」に自在に合わせ、際立たせる。
だから一聴して「筒美さんらしい曲」だとはわからない。

黒子に徹する仕掛け人 そこがカッコいい

音楽家でもない私が、なぜ筒美さんに憧れるのか…?

それはヒットメーカーなのに、自分が前面に出ず、黒子に徹する姿勢

曲でスターを輝かせる名人・職人だったと私は思う。
それも1人ではなく、多種多様の。
「筒美さんらしい曲」が一見わからないことが何より証拠。
自分の「らしさ」よりも、歌い手の「らしさ」を尊重する。

俳優は、どんな役に巡り合うかで役者人生が変わると言われる。
同じように、当時の歌手やアイドルにとっては、単なる楽曲提供を超えて、彼らのイメージや魅力の形成と発信に大きな力になったと思う。

私は、こんな「実はひっそりとすごい仕掛け人」的なところに惹かれる。

昔の私は、筒美さんのことを、作る曲のハデさから、大柄で迫力あるオジサマだろう、と勝手にイメージしていたが、あるとき、筒美さんを知る知人から、「曲からは想像できないくらい細身で物静かな人」と聞いて、ますます好きになった。
追悼番組で拝見すると、まさにそんな風貌だった。

ここで私自身のことを持ち出すのは100年早くておこがましい。
でも、私も人やコトの魅力を橋渡しする仕事の端くれとして、フィールドは違えど、こんな"仕掛け人"に憧れる。

・「魅力の本質を捉え」て「対象を輝かせ」て、わかりやすく届ける
・自分自身は表に出ず、裏方の黒子に徹する

あれほどの曲を作れば、アーティストっぽく表に出てきてもおかしくない。なのに、ずっと裏方として貫いた姿勢は、私にとって美学そのもの。

手がける作品はものすごいインパクト。
でも自分は静かに目立たず。
フタを開けたら、あれもこれも、あの人が作ったの!?

こんな「作り手」「仕掛け人」になりたい!

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