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小説(4~5分)

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小説
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4分10秒小説『ざくれろ』

4分10秒小説『ざくれろ』

「私、開発担当の――」
 名刺を奪い取り、爪で弾いた。ひらひら床に伏せる。
「自己紹介は要らない。納得がいく説明をくれ」
「はっ、では早速ですが――」
「待て。重ねて言っておく。納得がいく説明をくれ。弁明は要らない。続けろ」
「はっ、では機体の性能をかいつまんでご説明致します。型式番号MA-04X。高い推力を活かした一撃離脱戦を目的とする宇宙戦用試作型モビルアーマーです。各部の説明に移ります。こち

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4分10秒小説『てんまつ』

4分10秒小説『てんまつ』

 顛末書

 この度は、私の不注意により、このような事態となってしまい、誠に申し訳ありません。天使長様から、ことの顛末を報告するように言われましたので、文章にまとめました。申し遅れましたが私は天使です。役職をもたない平天使です。任務は、人間の最後の願い――最後に食べたいものを叶えてあげることです。具体的に述べますと、天国行きが確定している人間に対して、地上の最後の想い出として、いわゆる”最後の晩餐

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4分10秒小説『toxic』

4分10秒小説『toxic』

 尾の先端がぶつ切れた蠍だ。
 国道の脇、縁石の影に身を縮こまらせ、「今日こそは太陽が昇りませんように」と居留守が上手なカミに祈る。「ニンゲンに見つかれば間違いなく殺される」
 危険だからと尾を切られた挙句棄てられた。ずっと恨んでいる。もしも針があるならば、片っ端から奴らに毒を撃ちたい。
 艶のない皺の寄った黒い鎧、守るべきものはこのスカスカの身体か、腐毒の回った心か、苔をはぐり、団子虫に問うが、

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4分20秒小説『くらげとす』

4分20秒小説『くらげとす』

 クラゲに刺されたらしい。腕がヒリヒリする。せっかくシュノーケリングを楽しんでたのに、今年はカツオノエボシという猛毒クラゲが大量発生してるってネットで見た。刺されると危険らしい。万が一を考えて応急処置をしたい。
「クラゲに刺された時は、酢で洗うといいっておばあちゃんが言ってたな」
 酢――辺鄙な島だ。コンビニなんて見なかったし、スーパーを探すのも大変そうだ。あ、そういえば、この島の名産品は黒酢だっ

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4分0秒小説『さいきんのはなし』

4分0秒小説『さいきんのはなし』

 キミがこの手紙を読んでいる頃僕はきっとこの世から消えている。
 僕は今、清掃局の精鋭部隊に追い詰められ、とある場所に逃げ込んでいる、いや、追い詰められていると言った方がよい状況です。

 銀色の防護服を纏った彼ら、僕を見つけ次第、容赦なく消毒液を噴霧することでしょう、僕が完全消滅するまでしつこく過剰に――そうなってしまう前に、僕が消えてしまう前に、本当の気持ちを君に知っておいて欲しくて、こうして

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4分10秒小説『以前購入したhourglassの件です』

4分10秒小説『以前購入したhourglassの件です』

 「商品に問題があった」とか「返品したい」とか言うつもりはないのです。ただ修理する方法があれば教えてほしいのです。
 直接お店にお伺いする方がよいとは思いますが、電話で失礼します。

 以前そちらで購入した砂時計のことです。
 いえ、勿論購入後は正常に機能していました。彼女と二人で眺めていました、千切れそうなほど細いガラス管の部分を見て、彼女のウエストをからかったり、口づけの長さを計ったりしていま

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4分50秒小説『ゴーレムビューティートーク』

4分50秒小説『ゴーレムビューティートーク』

「ゴーレムビューティートーク!皆さんこんにちは。アイアンゴーレムです。本日はストーンゴーレムのビューティー・メガ・ストーン先生にお越ししただきました。先生、宜しくお願いします」
「宜しくお願いします」
「早速ですが先生、最近の若いゴーレムのメイクを見てどう思われますか?率直なご意見をお聞かせください」
「そうですね。最近街を歩いていると氷、ダイヤモンド、マグマ、色々な素材でお肌を守っている若いゴー

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4分0秒小説『異世界で俳句を詠む羽目になった僕はひたすら季語に戸惑っている』

4分0秒小説『異世界で俳句を詠む羽目になった僕はひたすら季語に戸惑っている』

 ステータスを確認する。

   Class:俳人
   HP:4
   力:1
   知力:4
   体力:2
   素早さ:2
   運:5

 何だか小学生の通知簿みたいだ。スキル欄を確認する。

   スキル:俳句 [level1]
   技:光のどけき(習得済み)
   次のレベルまで7543句

 見渡す限りの草原。山口県の秋吉台みたいに白い石灰石が所々剥き出しになっている。目の前を蜻

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4分40秒小説『50円の空』

4分40秒小説『50円の空』

「おじさん、アイス頂戴」
「ごめんね坊や、アイスは売ってないんだよ」
「え?でも――」
 リアカーに括りつけられた幟を見直す――青地に白い波模様、そこに書かれた文字。

   棒
   
   五
   十
   円
   
「棒?アイスじゃなくて?」
「ああ、そうだよ」
「僕、アイスが食べたい」
「ごめんね坊や、アイスは無いんだ。代わりに空を食べてみないかい?」
「ソラ?ソラってあの空?」
「そ

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4分10秒小説『閉鎖水族館のナマコ』

4分10秒小説『閉鎖水族館のナマコ』

 壁のペンキ所々剥げ落ち、かつて体をくの字に曲げて微笑んでいたはずのアシカの絵、今は一つしかない眼で凄みを利かせ、蒼天を睨んでいる。閉鎖された水族館。
 飼育員はとうに引き払い、漁師や他の水族館の職員、ボランティアといった面々によって、水族館の生物達は海の戻されたり、引っ越しをしたりで、それぞれ新天地に旅立っていった。水槽の水は抜かれ、お置き去りにされた機材に吹いた塩、白い結晶体を錆びに侵食させて

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4分0秒小説『農薬』

4分0秒小説『農薬』

 好きな人がいる。同じ会社の先輩の藤田さん――やさしくて、仕事が出来て、背が高くて、手がきれいで――あぁ結婚したぁい。
 
 悶々と過ごす日々、これ以上悶々したら悶死してしまう。前に進まなきゃ!    
 そうだ!もっと情報を集めよう。といっても身長体重血液型、好きな食べ物――そんな情報はとっくに入手済み。次に私が知りたいのはその先――藤田さんの性的嗜好――こればっかりは簡単には知り得ないだろう。

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4分40秒小説『先端依存症』

4分40秒小説『先端依存症』

 ”先端恐怖症”の逆をなんと呼ぶのだろうか?先端愛好家?いや、愛好家なんて生易しいものでは釣り合わないだろう――少なくとも私の場合は。
 ”先端触れたい症”とでも名付けようか?とにかく私は、先端を見ると触れたくて我慢できない病気なのだ。
 先端は尖っていれば尖っている程良い。針、ペン、アイスピック、ウニ、包丁、ハリネズミ、嗚呼、*、☆、/、心拍数が高まる。
 よく誤解されるのが、刺さりたいわけでは

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4分30秒小説『紫髪のチンピラに喧嘩を売る石原さとみ似の先輩の話』

4分30秒小説『紫髪のチンピラに喧嘩を売る石原さとみ似の先輩の話』

 電車で移動中、隣に先輩が座っているラッキー。たまにチラチラと、上棚に乗せた楽器ケースが落ちないか、確認する――振りをして先輩の横顔を覗く。
 演奏会、不安と期待が、ない混ぜになって心拍が乱だむ、いや演奏会のせいではなくこの横顔のせいか?ホルンの山本は「石原さとみと有村架純を足して2で割ったような」と評していたが、ちょっと違うくて「足して1.2を掛けたような」が正解だと思う。

「大丈夫だよ。そん

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4分0秒小説『涙を変える薬』

4分0秒小説『涙を変える薬』

 塩化ナトリウム
 カリウム
 カルシウム
 タンパク質
 ビタミンA
 酵素

 以上が涙の成分である。どんな涙も、同じ成分から成っているが、成分比率は一定ではない。
 実は涙は、流すときの”感情”によって大きく成分比を変えるということが分かっている。
 
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 博士は涙を研究していた。妻の為に――交通事故で娘を亡くし、毎日涙を流してばかりいる妻、少しでも妻の悲しみを軽くし

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