見出し画像

カエサル『ガリア戦記I』第1回

 [1][2][3][4]

 ( )で各単語の品詞を示し、名詞・形容詞・動詞などは「→」の後にどの変化形で現れているのかも明記した。sg.(単数)、nom.(主格)、3.(三人称)などの略号は記事末尾の「文法用語凡例」に掲載しておく。
 ラテン語についてはラテン語講座1ラテン語講座2などを参照。

 Galliaのllは二重子音なので発音は片仮名で書けば「ガッリア」に近いが、検索でヒットしやすくするように題名は暫定的に「ガリア」としておく。

1.1-1.7 ガリアの地理と民族

 [第1章1-7節] ガリア地方(現在のフランス・スイス・ベルギーなどを中心とした地域)の地理的解説、諸民族について。


1.1 Gallia est omnis dīvīsa …

[1.1] Gallia est omnis dīvīsa in partēs trēs, quārum ūnam incolunt Belgae, aliam Aquītānī, tertiam quī ipsōrum linguā Celtae, nostrā Gallī appellantur.

(ガッリア・エスト・オムニス・ディーウィーサ・イン・パルテース・トレース、クァールム・ウーナム・インコルント・ベルガエ、アリアム・アクィーターニー、テルティアム・クィー・イプソールム・リングァー・ケルタエ、ノストラー・ガッリー・アッペッラントゥル)

[1.1] ガリアは全体で3つの地域へ分かれている。その1つはベルガエ族が、他の1つはアクィーターニー族が、3つ目は現地語でケルタエ族、我らの言葉でガッリー族と呼ばれる人々が本拠地としている。

Gallia 
「ガッリア」(名) Gallia, -ae, f. → sg. nom.
 -aeは語形変化パターン、f.は女性名詞、→ sg. nom.は単数主格を表す。
 詳細は記事末尾の凡例を参照。
 ここではガッリア・ウルテリオル全域のこと。
 現フランス・スイス・ベルギーなどが含まれる。
 後述のベルガエ族、アクィーターニー族、ケルタエ族が住んでいた。
 ケルタエ族の住む地域のみをガッリアと呼ぶこともある(1章6節など)。
 民族名のGallīに地名接尾辞-iaを加えた派生名詞である。
est 
「~である」(動) sum, esse → 3. sg.
 "AはBである"型の文を作る連結動詞。
omnis 
「全体で, 全体として」(形) omnis, -is, c. → sg. nom.
 この語に男女形の区別はない(共性, c.)。
 Galliaと同格で副詞のように機能する(形容詞の副詞的同格)。
 ただ解釈次第では付加形容詞のように訳すこともできる。
dīvīsa 
「分かれている」(形) dīvīsa, -ae, f. → sg. nom.
 dīvidō「分割する」の完了分詞(「分かれた」)が形容詞化したもの。
in 
「(~の)場所へ」(前+acc)
 この語を始め基本的な前置詞は副詞を起源としていることが多い。
 後述の対格partēsが向格的用法だと明示するために付加されている。
partēs 
「地域へ」(名) pars, part-is, f. → pl. acc.
 この語の中心義は「部分」だが「地域, 地方」の意味にもなる。
 ここではちょうどその両方を兼ねている。
 対格には直接目的語だけでなく方向を表す機能もある(向格的対格)。
 これも向格の一種で、方向からの類推で"空間の広がり"も表している。
trēs 
「3つの」(形) trēs, -ium, c. → pl. acc.
 ラテン語の修飾形容詞は前後どちらにも置かれ得る。
 この形容詞はomnisと同じ変化タイプだが複数形のみ存在。

quārum 
「そしてそれらの」(関) quae, cuius, f. → pl. gen.
 関係代名詞(前文を受ける独立用法)。
 接続詞の「そして」(et)と代名詞の「それらの」(eārum)を1語で表す。
 関係代名詞はこのように接続詞と代名詞の機能を併せ持つ。
 (詳細は泉井2005, p.141-142などを参照)。
 ガッリア3地域のこと。
ūnam 
「ひとつを」(形→名) ūna, -īus, f. → sg. acc.
 形容詞の名詞的用法。
 ラテン語の形容詞はこのように独立して名詞のようにも使われる。
 ここではūnam (partem)「1つの地域を」の意味だと考えればよい。
incolunt 
「住居としている」(動) incolō, -ere → 3. pl.
 日本語では「~に住む」と訳してもよい。
 ただしラテン語では対格(~を)と共に使われる(共起する)ので注意。
 この現在形は習慣を表す。
 現在形は他に現在進行形としても使用できる(泉井2005, pp.250-251)。
Belgae 
「ベルガエ族」(名) Belgae, -ārum, m. → pl. nom.
 ガッリア北東部(現ベルギーを中心とした地域)に住んでいた人々。
 (現フランス北西部、オランダ南端、ドイツ南西あたりも勢力圏)。
 ケルト化(ガッリア化)したゲルマン人といわれる(吉田他2017, p.3)。
 この語はケルト語起源で(後述)後に「ベルギー」の由来にもなった。

ここから先は

31,242字 / 2画像

¥ 150

もしサポートをいただければさらに励みになります。人気が出たらいずれ本の企画なども行いたいです。より良い記事や言語研究のために頑張ります(≧∇≦*)