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逆噴射小説大賞2019PU

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#逆噴射小説大賞2019 で『貴方の作品スキ!』と心を揺り動かされたnoteをピックアップしました。プラクティスが混じっていますが、自分のブックマークみたいなものなので個人的には… もっと読む
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記事一覧

注目の多い料理店

「みなさんこんにちわ!本日は今SNSで話題になっているフランス料理店、シャ・ソヴァージュさんに来ています!見てください!このビル丸々お店なんです!オーナーのリヨンさん、いったいどういうことなんでしょうか!?」 「当店での食事は1日がかりです。1日をかけて心身を整え、極上の食卓に身を委ねていただきます。さぁ、どうぞ。まず、1階でお召し物を預かります。食事に集中していただくためスマートフォンなどもすべて、責任を持ってお預かりいたします。2階はマッサージです。日頃の疲れを取ってい

ホームセンター戦闘員、浅間!

「うるせえ! 自分の車に積み込めってほざいたのはてめぇだろ!」 俺が振るった金槌は、眼前のクレーマージジイが握る草刈り鎌より早く、ジジイの側頭部を打ち砕いた。ジジイは倒れ、そのまま動かなくなった。 「しまった……」 俺は青ざめた。今月の殺害許容数は5人まで。このジジイは6人目だ。本当に非正規は不利だ。殺していい数が正社員に比べて少なすぎる。 「やってしまったねえ、浅間くん。超過だよ」 粘ついた声音に振り向くと、東村店長が立っていた。最悪だ。ずっと見てやが

女王陛下の00B(ダブルオーバック)

「被験体AおよびB、スタンバイ。ターゲット配置完了」 「よし、発蜂を許可する」 号令の直後──ぱごふっ! やや間の抜けた音とともに、鹵獲した敵国主力戦車が穴だらけになった。 「いかがですか、将軍」 「……博士、君は国の英雄となるだろう。もう一度見せてもらえるかね」 白衣/軍服の男たちの興奮した視線を集めるモニターが、厚さ800mmの隔壁の向こう、数秒前の光景をスロー再生する。 上半身裸の少年が戦車へ向けるショットガン──彼の握り拳より大きな銃口から飛び出す蜂の巣──巣

睡蓮は艶やかに嗤う

 「この子のエロ画像ください」  発端は、これだった。投下された画像は……奇妙なものである。  可愛らしい少女が微笑んでいる。だが既存の二次元キャラ、または有名人の画像とも違う。イラスト、には違いない。だが背景含め質感等に違和感が付きまとう。一見手描きイラストだが写真を劣化させたような、コラージュと言うべきか?スレッドの参加者の誰もが同じように感じたらしく、投稿者へ質問が続いたがそれから回答らしい書き込みは無かった。  私はとりあえず画像を保存、そのまま掲示板で他愛ないやり

だるまとお姫さま

村のはじっこの森の中に、赤くて、丸くて、小さいだるまが住んでいました。 だるまは甘いものが大好き。 特にドーナツ!ドーナツの穴にはまりながら食べるのが大好き! 今日もドーナツをもらいに村までやってきました。 あれあれ、悲しい顔したおじいさん。どうしたのでしょう?「あまい?」 「ああ、だるまか、すまないドーナツはないんだ。兵隊がみんな持っていってしまった。金平糖なら…」「あまい!」 だるまは兵隊が好きではありません。硬くて甘くないからです。 だるまはコロコロ転がり兵隊のいる

本能寺炎上2019

 ことの発端は、五百年ほど過去に遡る。日本人ならば誰もが知っている『本能寺の変』、その闇に隠された歴史の真相が、すべての始まりだった。  天下統一を目前にした英傑、織田信長に対して、家臣筆頭の明智光秀が謀反を起こし、殺害した。しかし、その仔細ははっきりとせず、諸説ある。  当然だ。南蛮から渡来した外法に手を染めた織田信長が、永遠の命を求めて吸血鬼と化すことを企み、それを明智光秀が阻止した……などという妄言、誰が信じようか。  本能寺において、織田信長の野望は頓挫した。主

「まほうつかい」を探して

「私は魔法使いではないよ」 終生、私が「先生」と呼ぶことになる人は、困り顔でそう告げた。 年若い私は、夜通し馬で駆けてきた疲労で朦朧としながら、両の手をついてこう繰り返したのだという。 「大賢者アーヴィエリ様、どうか名高い魔法のお力をお貸しください。どうか、どうか」 目を覚ましたのは広間の長椅子だった。夜は明け、朝霧の美しい気配が窓から立ち込めてくるようだった。側には帳面を手にした先生がいた。 私が何か言いかけると、先生は手で制して言った。 「魔法をお目にかけよう」 先

環太平洋神在月合同会議

「それでは、今年度の縁結び・縁切り合同会議を始めます」  出雲大社に集まった全国八百万の神々。様々な事柄が決定される大量の会議の中で、この議題は別の側面を持っていた。 「お手元の資料を元に進めていきたいと思います。えー、正直に申し上げますが……今年度は昨年に引き続き、かなりキツイ状態となっております」  議長の大国主大神の表情は険しい。自分の発した言葉に深い溜息を一つ、ついでにネクタイも緩めてしまう。 「基本的にはいつもと変わらず、依頼件数に合わせての縁結び及び縁切り

キャンプ・オブ・ザ・デッド

「火野、火出してくれ」 「あいよ」 水木の指示に応じて、毛羽立たせた薪に指先から火を灯してやる。 が、あっさりとは火がつかない。仕方無しに着火材の新聞紙に火をつけてから薪に移す。 「あいっかわらずの低火力だなー、ライターの方がまだ強いぜ」 「そういうお前だって霧吹きがわりがせいぜいじゃん」 「こっちはサボテンに水やれるし、サボテン持ってないけど」 「他に使いどころねーのかよ、おーい雨田ースマホ充電できた?」 暗雲たれ込むキャンプ場、そこに俺達は幼なじみグループでゆるくキ

大統領の世界みなごろし大作戦

 アメリカの大統領が世界各国のテレビ衛星をジャックして、生放送を始めた。 「国民、ひいては世界の皆様、お話があります」  中華街にあるラーメン屋、天井角に設えられた小さなテレビの中で、彼はそう言った。 「私は、もうこの世界に耐えられません」  届いたばかりの大盛りのラーメンから顔を上げ、そりゃそうだろうなと、おれは思った。 「ゆえに私、アメリカ合衆国大統領ハート・ミハルカは、死ぬことにしました」  勇気ある決断だ。店の外のサイレンが騒がしい。 「この世界は、私むけに作られてい

ファースター・ザン・リリィ!

 端的に、そして結論から言ってしまうと、人類は百合のせいで滅亡した。  そしてそのせいで、横浜フェアリス女学院二年一組出席番号12番永流水有理<とながみ・ゆうり>は今、銀河系中央、射手座A*近傍の第90526ワームホールジャンクションでヒッチハイクをしている。  始まりはY染色体消失による男性の絶滅だった。  男性消失社会は、IPS細胞等の技術の発達もあって子孫を残すことに支障はなかった。  唯一最大の問題、それは生殖から切り離された恋愛感情。当初は大多数だった異性愛者はや

『求む!最強のたまごかけごはんの作り方』

 どう、と対戦車ライフルが火を噴いた。裾野の大気を震わせた重金属弾頭は標的へ過たず命中したが……多くの観客の期待通りに弾き返され宙を舞った。標的は微動だにせず傷跡ひとつない柔肌で気持ちよさそうに陽光と観客の視線を浴びている。その標的とは「生卵」。ごく普通の鶏卵である。 (……私はTKGを食べたかっただけなのに……)  はじめはテーブルの角だった。「こんっ」女子高生が自然な力で叩き付けたその卵はテーブルの角(パーム材/IKEA)を弾き返し一切の無傷。「ごんっ」強い力を加え

最も高名で最も曖昧な熱帯魚

 やった。遂にやっちまった。俺のバックパックは、組のカネではちきれんばかりだった。捕まったら良くて十分の九殺し。手足を詰められて野晒し。ゴアな目に遭うのは嫌だが、”魚屋”に辿り着かなければ、どのみち同じ結末だ。  五度路地を曲がると、喧騒が遠ざかる。俺は一瞬、道を間違えたかと危惧したが、獅子舞に跨る女の落書きを見て安堵した。その先の店こそ探していた”魚屋”だからだ。  名前は”Sellfish”。今はネオンが消え、ワガママになっていた。洒落にもならない場末の熱帯魚屋だ。  ド

リョコウバト殺すべし

 渡り鳥の群れが連れてきたものは、糞の山と疫病と、二十日経っても明けない夜だった。何万何億羽分の鳴き声と羽ばたきに、この島に暮らす人間の耳はあっという間に馬鹿になり、皆、怒鳴り声を上げて喋るようになった。奴らの羽根に陽光を遮られ、あらゆる農作物がやせ細った。死骸と糞のスープになった海には腐った魚があばたのように浮かんだ。しかし飢えることはなかった。空は肉で埋まっている。  最初に死んだのはミヨ婆さんだった。屋根の上に降り積もった糞で家が潰れ、窒息したのだ。二番目は川で水を飲