父亡き日に@日本にて フランスの週刊フードニュース 2023.12.28
今週のひとこと
この麗らかな冬の日本に、クリスマス前にまさか帰国するとは思ってはいませんでしたが、先週、急を迫られて飛行機に乗り、いま実家でのときを過ごしています。
飛行機に飛び乗る直前に危篤の父の他界を知り、今までの帰国にはない寂しさ、想いを味わいました。ただ、亡くなる前日に電話で声を聞けたのと、ここ数年、5年以上は、動画で毎日決まった時間に30分の会話を両親と欠かさずしていたので、たくさんのことを分かち合えたということにおいて、後悔はありません。数えで88歳。来年米寿を祝うことを約束しておりましたが、私の帰国の予定がなかなか立たず、日取りを決めることが叶わず、寂しがらせてしまっただろうことには、後悔ひとしきり。ちょうど6年前に悪性リンパ腫が発覚してから、寛解と再発を繰り返して、やっと落ち着いたかと思ったところが、体もすっかり弱ってしまったところの肺炎が決定的でした。
しかしこの6年間は、父の病気と向き合うことで、同時に他のたくさんのこにも向き合い、人としての成長を少しでも促してくれるきっかけになったのではないかと、父に感謝しています。
海外で活動するいち日本人として、自身の歴史を掘り下げるということ。何につき動かされているかということを、見誤らず向き合うこと。突き動かされている力は愛からなのか、エゴの正義なのか。大きな世界の紛争も起きるなか、過去を知り俯瞰で眺め、どのように自分の人生の教訓にしていくか。いまを最大限に生きるということの大切さを知り、動くこと。などなど。
父は博士号を持つ外科医でした。釜石でインターン生をしていたときに、崖から落ちた子どもの手術をして命を救った話を聞きましたが、その話は今になってこそ、心に響きます。子供は頭を打って、頭蓋骨陥没。本来は脳外科でもなし、インターン生が手がけることではないが、他に医師は誰一人おらず、決断を下し手術に挑んだ。大成功と終わり、その方からは、ずっとお礼の手紙が届いていました。また、手術を手がけたあらゆる患者さんの容態をしっかり見届けるために、よく、患者さんのベッドの下で寝て過ごしたということも聞いています。今と昔は違いますから、どんなに思いがあっても、今ではそんな医師としての行動は許されないでしょうが、人の命を救うことのなんたるかを、考えさせられます。また、決断力とスピード。自身が下したことに責任を持ち、利他で誠心誠意尽くすということ。
AI時代で医療の周辺環境がデジタル化しつつあることを感じますが、最新技術と共存しながらも、人として生きるために必要としている根源的なことは何かということにも向き合っていきたい。それは医療の世界でなくても同じ。
菜の花に 酔いて杖つく、二歩三歩
菜の花に ひたりて想う 五百年(いつおもせ)
〜昨年、幸手市にある観光名所、権現堂桜堤に訪れたときに、父が詠んだ句2選。
うららかに 涙と落つる 日射しかな
〜父の告別式の日に。
ちょうど父危篤の連絡が入る前、友人に誘われ、バスティーユ・オペラ座にて、シャンゼリゼのモーツァルトと呼ばれた19世紀のジャック・オッフェンバックによるオペラ「ホフマン物語」を観劇しにいきました。最後の歌の歌詞より
On est grand par l’amour, et plus grand par les pleurs!
人は愛によって偉大であり、涙によってさらに偉大になる。
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