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アートはどこまでも連れていってくれる ー海外アートフェスティバル・中欧オーストリア編ー

「新しい靴は素敵なところへ連れていってくれる」ということわざがあるけれど、わたしにとってそれは靴ではなく「アート」がその役割を果たしてくれているような気がしています。その最たる現象が、海外とはなんの縁もなかったわたしが、お仕事でアートに携わるようになったことで、遠く中欧オーストリアに拠点を置くメディアアート(テクノロジーを使ったアート)の世界的権威アルスエレクトロニカとご一緒していることだと思います。

アートに関するお仕事をするようになった理由

わたしはこれまで3つの会社(①PR会社→②公社→③民間)でお仕事した経験がありますが、2つ目の会社でお仕事をしている頃、アート鑑賞という趣味ができました。そうしているうち、アートに関わるお仕事がしたいと思い始め、転職活動の結果、デザイン&アートを街のブランディングの軸に置いているいまの職場でお仕事をはじめることになります。そのお話はこちらのnote記事に簡単に書いています。現在の担当業務のひとつがオーストリアのリンツ市に拠点を置く「アルスエレクトロニカ」との連携プロジェクトです。

オーストラリアじゃないよオース・ト・リ・アだよ

WEBで「オーストリア」と検索すると、コアラのいるオーストラリアと混同されていることが驚くほど多いので、まずはオーストリアについて少しご紹介することにします。私が、ヨーロッパに行ったのはこのオーストリア出張が初めてでした。オーストリアはヨーローッパの中でも真ん中に位置していて中央ヨーロッパ(略して中欧)と呼ばれ、ドイツのお隣さんです!アルプスの山々に囲まれているので、空気も水もとっても美味しい。

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オーストリアに関する身近なキーワードを並べてみると「スワロフスキー」「ザッハトルテ」、「サウンド・オブ・ミュージック」、「ウィーンフィル」。有名人では「アーノルド・シュワルツェネッガー」「マリー・アントワネット」(←ピックアップの基準w)首都ウィーンは音楽の都とも呼ばれ、日本人の方で音楽留学されている方も多いのではないかと思います。訪れるべきベストシーズンは、これからご紹介するフェスティバルも開催されている9月など冬に入る直前や4月になります。冬はクリスマスマーケットなども開催され、華やかな街の雰囲気を堪能するこができますが、めちゃくちゃ寒いです。また、オーストリアはヨーロッパの中でも比較的治安がよく、私が訪れた2018年も、最低限の警戒はしつつも、危険なことは何一つ起こりませんでした。ちなみに、映画などでウィーンを知るのであれば、映画「黄金のアデーレ」は、クリムトの作品をめぐってウィーンを舞台に主人公の物語が展開されるので、アート好きな方にはおススメです。

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アルスエレクトロニカって?

そんなオーストリアにあるアルスエレクトロニカ。古くは鉄鋼の街として栄えたオーストリア・リンツ市がエネルギー革命の到来とともに急激に衰退しはじめていた1980年代。街おこしの一環で文化を供給するインフラストラクチャ―として誕生したのが文化機関です。オーストリアは首都ウィーンをはじめ、クラシック音楽と所縁の深い土地であり、そうした文化的財産を訴求することも街おこしの一つの手だったとは思いますが、それではウィーンともヨーロッパの他の観光地とも差別化ができず競争力にも疑問が生じる。そこで彼らは、ある意味伝統的な文化とは一線を画し、未来に向かってアート×テクノロジーを主とした活動を始めることになります。彼らの活動は、1979年にはじまったフェスティバル、1987年に創設されたプリ・アルスエレクトロニカ、1996年に設立されたアルスエレクトロニカセンター、そしてアルスエレクトロニカフューチャーラボの4本柱で構成されています。アルスエレクトロニカでキュレーションされる作品には、「社会への問い」が含まれており、環境問題、都市の人口爆発など、作品を通してアーティストが社会へ問題意識を共有し、議論やイノベーションを起こしていくことが特徴です。そのため、アルスエレクトロニカの活動は、しばしば「アート×テクノロジー×社会」と表されます。

▶ARS ELECTRONICA

電子音楽の殿堂

1979年にフェスティバルが始まったとき、その様態はメディアアート作品のエキシビションというより、音楽フェスティバルとして始まりました。このフェスティバルには、日本から電子音楽の祖・富田勲さん、90年代ダンスミュージックのカリスマ・小室哲哉さんらも参加されたことがあります。フェスティバルでは、電子音楽はもちろんのこと、クラシックと電子音楽やテクノロジーとの融合を試みる取り組みが披露されます。どこまでも石畳が続くクラシックな雰囲気の場所でこのような革新的な活動を目撃することができるのも、このフェスティバルならではだと思います。このフェスティバル会期中は人口10万人規模のリンツ市に、世界各国からアーティスト、サイエンティスト、ビジネスパーソン、リサーチャーなど20万人もの来場者が訪れる(※2019年当時)という、まさに街おこしのお手本のようなフェスティバルとなっています。2020年はコロナ禍により残念ながらオンライン開催となりましたが、また現地に行けるようになったらいいなと願ってやみません。

▶ARS ELECTRONICA FESTIVAL

▶YAMAHA「Dear Glenn」 


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アーティストから投げかけられる問い

フェスティバルでは音楽パフォーマンスだけでなく作品展示も行われます。作品の多くは、アーティストの視点で社会を観察し意図された「本当にこういう社会のあり方でいいのだろうか?」「もしも社会がこんなふうに変わったら?」という問いが存在します。普通の会社員として日常生活を過ごしていると、対峙するヒト・モノ・コトがマンネリ化しがちになり、ネット上の情報はフィルターバブルによってカスタマイズされた情報しか接していないことが多いと思います。VUCAといわれる時代には、与えられる情報だけでなく、ふだん触れない情報に自らアクセスしに行く能動性が求められるのではないかと感じています。このフェスティバルは私にとって、アーティストの視点を借りて、新しい視点で世の中を見てみることで、ポジティブな未来を想像できる場になっています。

あれはどう意味だったんだろう?という違和感

そうしたインスピレーションと同時に、少しの違和感を感じられるのもこのフェスティバルの特徴ではないかと思います。現代アートの作品鑑賞をしたことがある方の中には、作品を観た後に「あれはどういう意味だったんだろう?」と意図を完全に理解できない消化不良ともいえる体験をしたことがあるのではないでしょうか。アルスエレクトロニカフェスティバルで観た音楽パフォーマンスの中には、そういったものがありました。私は、この体験こそがアート鑑賞によって得られる特別な体験だと思っています。一緒にその場にいた人と、鑑賞が終わってからもその違和感を共感することになり、そのときに感じたことを共有したり、もしかしてこういう意図なのかな?とディスカッションしたりすること。これは日常会話やビジネスの現場で起こりえない対話だと思います。こうしたやり取りの中には、相手の考えをより深く知るきっかけや新しいイノベーションにつながるヒントのようなものが潜んでいる気がしています。

どうでしょうか。趣味でアート鑑賞をしていたら、仕事でアートに携わることになり、オーストリアへ行くことになり、音楽とテクノロジーの融合に触れ、今までふれたことがなかった分野の音楽にも触れるようになる。話がぐるぐると回ってしまいましたが、アートは私をすてきなところに連れていってくれます。こんな時代ですが、知らない͡コト、モノ、ヒトに出会うことに貪欲に、もっともっと素敵なところへ行けたらいいなと思っています。

執筆者: 谷 綾花/Ayaka Tani (ライター)
PR会社などで多岐にわたるブランドマネジメント業務を経験。会社員として企業のブランドマネジメントに携わりながら、ライター・編集としても活動中。書くことを通して、書籍・映像・音楽など形に残る作品製作に携われたらと思いnoteをはじめました。[Instagram]atnf428

※公開後、一部再編集しました

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