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イチジクとクレソンの白和えと、禁断の果実


「イチジクってさ、アダムとイブが食べた禁断の果実っていわれてるらしいよ」

いつもの居酒屋の店主が、カウンターにあるイチジクの実を指差しながら言った。

その日、私がなじみの居酒屋で注文したのは「イチジクとクレソンの白和え」である。イチジクが出回る時期に、店主がよく作ってくれる料理で、クレソンのほろ苦さとイチジクのほのかな甘み、豆腐と味噌のやさしいコクが、日本酒によく合う。

「ええ~!禁断の果実って、リンゴじゃないんですか?」

そう言ったのは、青森出身のスタッフである。

「そうだよねぇ。禁断の果実は、リンゴでしょ」

フルーツ王国といわれる山形出身の私も、負けじと言う。

「いやいや。現代では、リンゴは禁断の果実というよりも、iPhoneでしょ」

隣席の常連さんが、ほろ酔いで言った。ITの仕事をしているその常連さんは、もちろん「アップル信者」である。

「リンゴがアップルなら、イチジクはなんて言うんですか?」

「え?イチジク?英語で??」

常連さんが首をかしげたので、私はすかさずスマホでググった。ちなみに、私のスマホはiPhoneではなく、アンドロイドである。

「イチジクはフィッグ(fig)ですって。海外ではジャムとかパイに使うから、さすがに白和えは日本だけでしょうねぇ」

「白和えって、英語でなんていうの?」

常連さんに聞かれて、私は再びスマホを操作した。

「白和えは、サラダ ドレスト ウィズ トーフ、ホワイト セサミ、アンド ホワイトミソ(salad dressed with tofu、white sesame、and white miso)

だから、この最初にフィグを付けると、イチジクの白和えになりますね」

「ふ~ん。白和えはドレスト ウィズ トーフか。なんだか、きれいな感じがするねぇ」

「あ、よかったら、味見なさいますか?イチジクの白和え」

「お!ありがとう」

常連さんは、イチジクの白和えを少しつまんで、口へ運ぶ。その間に私は、店主に聞いた。

「で?なんでイチジクが禁断の果実なの?」

「ん?アダムとイブの大事なトコロを隠してる葉っぱ、あるだろ?」

「葉っぱ?ああ、そういえば…」

「そう。あれがイチジクの葉っぱなんだってよ」

そう言うと店主は、次の白和えを作るために、再びイチジクを切り始めた。

どうやらアダムとイブは、裸を隠すためにイチジクの葉をまとったらしい。あれから数千年の時を経た今、私たちの目の前にあるイチジクは、日本で白い豆腐をまとっているのである。

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