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【マガジン】月の砂漠のかぐや姫

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今ではなく、人と精霊が身近であった時代。ここではなく、ゴビの赤土と砂漠の白砂が広がる場所。中国の祁連山脈の北側、後代に河西回廊と呼ばれる場所を舞台として、謎の遊牧民族「月の民」の… もっと読む
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2019年7月の記事一覧

月の砂漠のかぐや姫 第51話

月の砂漠のかぐや姫 第51話

 自分の周囲に何もなかったところから、両側が高い面で区切られた狭間の中に急に飛び込んだせいか、何かが頭をぐっと押さえてくるような感じが、羽磋にはしてきました。
 ゴビの荒地と地平線で結びついていた空は、頭上と前方にしか見えなくなってしまいました。
 馬を走らせながら左右の壁を見上げると、北側の岩壁はほとんどまっすぐに立っていて、人が隠れる場所は無いように思えましたし、壁の上で待ち伏せをしてその壁を

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月の砂漠のかぐや姫 第50話

月の砂漠のかぐや姫 第50話

「空風(ソラカゼ)っていうのか、あのオオノスリ。しかし、上手く操っているよな、小苑(ショウエン)。いったいどうやってるんだ」
「へへっ、空風は、雛の時から俺が育てた相棒っすから。指笛の音で指示を伝えることが出来るんす。長音一声が来い、二声が進め、探せ。単音一声が太陽の方角、二声が太陽に向かって右、三声が反対、四声が左、などなどって寸法っす。もちろん俺の指笛にしか反応しないっすけど」
「ははぁ、だか

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月の砂漠のかぐや姫 第49話

月の砂漠のかぐや姫 第49話

 二人が近づくにつれて、岩山はどんどんとその大きさを増していきました。遠くから眺めると屏風のように見えたその岩山は、あまり高さはないものの、長い手を北に向ってなだらかに伸ばしていました。
 祁連山脈に連なる山と岩山の間を川が走っていて、その横にはわずかながらゴビの荒地が広がっていました。
 ちょうど谷のように狭まったその空間は、川と共にずっと奥まで続いていました。その先には砂煙に霞む空も見えている

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月の砂漠のかぐや姫 第48話

月の砂漠のかぐや姫 第48話

 幾つもの峰が高く高くそびえ連なる祁連(キレン)山脈は、まるでどこまでも広がる空を支える柱のようです。その祁連山脈の北部には、空とつながる大地の果てまで、ゴビの荒地が広がっていました。
 しかし、その荒地は見渡す限り赤茶色一色に染まっているものの、完全に生き物を拒絶する死の世界ではなく、祁連山脈からの伏流水を源にするオアシスも点在し、小規模ですが草地も存在していました。
 また、幾つかのオアシスの

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月の砂漠のかぐや姫 第47話

月の砂漠のかぐや姫 第47話

 同じころの宿営地の中では、竹姫が一人、天幕の中に敷かれた布の上で膝を抱えていました。
 竹姫は大伴の一族と行動を共にしていたので、食事のときや休むときには、大伴たちと同じ天幕か一族の女性たちが利用する天幕を使っていました。
 しかし、今は、日頃は使っていない、月の巫女のために用意された天幕の中に籠っていました。一人になりたい、誰にも会いたくない、そのような気持ちを抱えていたからでした。
 常日頃

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月の砂漠のかぐや姫 第46話

月の砂漠のかぐや姫 第46話

 大伴が使っていた短剣は、長い年月を彼と過ごしたことが一目でわかる、使い込まれたものでした。そのような愛刀を羽磋に差し出すという行為自体が、この羽磋の肸頓(キドン)族への旅立ちの重大さや困難さを示しているのでした。

「わかりました。必ず、阿部殿にお会いします。そして、父上、俺はもう決めています。竹が消えることなど、俺は絶対に許しません。俺が絶対にそれを止めて見せます」

 しかし、羽磋は大伴の短

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