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【本110】『みかづき』

著者:森絵都 出版社:集英社文庫

あまりにも面白くて606ページある長編をいっきに読んでしまいました。この本を読みながら、私は教育が心から好きで、子どもたちに教えることに人生をかけているんだと、改めて思いました。

この物語は、昭和36年、学校の用務員室で子どもたちに勉強を教えている吾郎が、保護者である千明と出会い、学習塾を開くところから始まります。公教育を「太陽」とするなら、塾は「月」。塾は、公教育を助ける存在であったり、はたまた脅かす存在であったり、常に明るい表舞台にあるのではなく、時代によって文部省や社会からの評価が変わっていく存在です。

そんな時代に翻弄されながら、吾郎、千明は、千葉進塾を育て、子どもや孫である蕗子、蘭、一郎は、そんな2人の姿をみて共感したり反発しながら、それぞれが「いま、教育に必要なもの」に向けて必死に取り組んでいます。

「教育に完成はありません」

競争社会、格差社会、エリート社会...優秀な上位群をさらに伸ばすことはもちろんのこと、こぼれ落ちたものをどのように助けていくのか。公教育でできないことはどこがサポートするのか、塾 or フリースクール? 大規模 or 小規模? そこには状況に応じた様々な手立てがあります。登場人物は、それぞれの立場で、それぞれが考え、それぞれが迷いながら懸命に子どもたちに向き合っていきます。

「教育は、子どもをコントロールするためにあるんじゃない。不条理に抗う力、たやすくコントロールされないための力を授けるためにあるんだ」

教育はゴールのない道のり、常に世の中の潮流のなかで変わり続け、考え続けなくてはいけない世界です。でも、どんな時代にあってもひとりひとりが「考える力」を身につけるために、何ができるのか、私も登場人物と一緒に心を揺さぶられながら考えていました。

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