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「三国志」と「諸刃の剣」

ザック選手はこの試合で卍固めをフィニッシュに使っています。団体の創設者・アントニオ猪木さんの得意技。いわば「昔の新日本」の代名詞です。

封印された「IWGPヘビー級王座」のベルトをオカダ・カズチカ選手が持ち出して「俺に挑戦してこい」とアピールし、アメリカではウィル・オスプレイ選手が新設された「IWGP世界王座」のレプリカを掲げて「俺こそが真の王者」と訴える。もうグチャグチャです。

「正当な支配者は自分」という僭称が横行する様はほとんど「三国志」の世界。尤も当時の中国は世の秩序が乱れていて、それを纏める力が国になかったのも事実です。いまの新日本は違います。支持率の高いIWGP世界王者・鷹木信悟選手がしっかり君臨していますから。

もちろん「昔の新日本の方が良かった」と懐かしむ人もいます。かつてのIWGPヘビー級王座が好きだったファンも。私にもそういう部分はあります。でもじゃあオカダ選手を支持するか? と訊かれたらノーです。だって彼のキャラクターもレスリングも全然「昔の新日本」っぽくないから。

オカダ選手が時計の針を逆回転させる試みは、実はこの点で「諸刃の剣」なのです。「そもそも新日本を変えたのはおまえと棚橋だろ?」「俺たちファンはそれを支持してきた」「なのに新しい世界観を打ち出す鷹木をおまえは否定するのか?」「むしろ直球ファイトで敵をねじ伏せる鷹木や関節技と一瞬の丸め込みででかい相手を倒すザックの方が猪木や長州、藤波が活躍していた頃の新日本っぽくね?」と。

もし同じ主張を柴田勝頼選手が訴えたら「よく言った!」「おまえこそ新日本!」とオールドファンは沸き立ったかもしれない。でもオカダ選手に対しては申し訳ないけど「どの口が言ってるの?」「要は嫉妬してるんでしょ」としか思えません。

一方で「生のドロドロした情念を曝け出し、リング上の戦いに昇華させるのが新日本プロレス」という見方もできます。当然私は鷹木選手とザック選手を支持します。直近1年間の戦いぶりを見る限り、どう考えても「理」は彼らの側にあるから。何より大事なのは過去ではなくいまだから。

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