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「『○○○』を読まない」で扱ってほしい二作

少し前に「『罪と罰』を読まない」という本がヒットしました。

あえて読まずにいくつかの手がかりから内容を推理し、そのうえで実際に読んで語り合う。ユニークなアイデアだと感服しました。

一方で「いや『罪と罰』なら実際に読んだ方が速い」「パッと見は重厚で難解そうだけど、ミステリィ感覚でスイスイ進むし」と感じたのも事実です。

だいぶ前に「100分de名著」がカフカ「変身」を紹介した際も同じ感想を抱きました。「『変身』だったら100分もかからない」「『審判』や『城』の方がふさわしいのでは?」と。

当時、職場で「100分de名著」のテキストフェアを開催しました。案の定というか、最も動きが鈍かったのは「変身」のものでした。

話を戻します。

着眼点は面白い。でもどうせ「『罪と罰』を読まない」みたいな企画をやるのなら日本全国、いや世界中で挫折者を生んだ「ラスボス級の名著」を対象にしていただけると助かります。またチャレンジしようという意欲を生むキッカケになるかもしれないから。

何度もリセットを余儀なくされた名作。真っ先に頭に浮かんだのは↓です。

白状します。岩波文庫版で2度挫折し、ちくま学芸文庫版の上巻しか読んでいません。

まず主人公が上から目線で山を下り、俗世で暮らす凡人にありがたい思想を伝えて進ぜようみたいな展開が肌に合わなかった。「その教えを、まずあなたがこの不条理と不公平に満ちた社会生活に落とし込んで実践してください」と感じてしまった。いわゆる「超人思想」を訴えるうえで有効な構成だったのは事実ですが。

そもそも上巻を読めたのは「100分de名著」テキストの助けのおかげ(NHK出版の皆さまに心から感謝します)。重要なテーマである「永劫回帰」に関しても丁寧に書かれていたので、これなら下巻はいいかなと思ってしまいました。でもいずれリトライします。

もう一作「『○○○』を読まない」で扱ってほしい名著を紹介させてください。

新潮文庫版で上下ともに読みました。↓は読書メーターに書いた上巻のレビューです。

医学、宗教、生物学、病理学などを本腰入れて掘り下げた重厚な各論を文学という紙縒りが束ねて総論化した驚異の大作。スイスの高原にある肺を病んだ人々のサナトリウム、そこで療養するいとこを訪ねたハンスの成長譚。「エンジニア」と彼を呼び、頻りに下界に戻れと勧めるセテムブリーニは大人、常識、道徳の体現者か。うざさと有り難さを高度に備えた人生の教師。ショーシャへの恋は過去との対峙。乗り越えねば先は無い。十人十色の時間の果てに死にゆく人々との暫しの歓談に胸を打たれ、人の心身に潜む病巣を浮き彫りにする魔の山に戦慄。

上巻はどうにかなります。恋愛要素もあるし。ただ下巻における論争が凄まじかった。よく「山は登るときよりも下るときの方がきつい」という話を耳にします。実際のところはわかりません。しかし少なくとも「魔の山」に関しては真理でした。医学、政治、宗教、刑罰、宇宙、数学、音楽、オカルト・・・

率直に言うと、どうにか苦行に耐え抜いた実感しか掴めていない。だからこそまた挑みたい。

「『ツァラトゥストラ』を読まない」及び「『魔の山』を読まない」の出版に期待しています。

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