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「レジ接客」から学べるもの

↑は青山ブックセンターの店長・山下優さんのツイートです。

以前プロレスラーのケンドー・カシン選手が「新人が伸びるには実戦の経験を積むしかない。練習だけではダメ。どんなに少なくても客の見ている前で試合をすることが大切」みたいなことを話していました。私も同感です。プロレスに限らず、お金を払うお客さんの声に耳を傾けることで、自分の課題や長所が見えてくる。

書店員になりたての頃、金額ぴったりのお金をいただく際に「ちょうどお預かりします」と言っていました。するとある日、年配のお客さんが「『ちょうど頂戴します』でいいんだよ」と教えてくれました。たしかに返すものがないのに「お預かり」は変ですよね。直ちに改めました。でもこれ、研修では何も言われなかったのです。

逆に「~はありますか?」と訊かれ、検索しないで棚からすぐに持ってきたときは「さすがプロ」とお褒めの言葉をいただきました。

お問い合わせを受けて「こんな本が出たんだ。入れてみよう」と閃くケースもありますし、同じ本を売ることが続けば「いまこういうのが人気なのか」と学べます。事務所でデータを眺めるよりも、土日にレジで1時間接客する方がはるかに有意義な情報を得られるのです。

注文する際も私はデータの前に棚を見ます。「最近若い人が思想・哲学のコーナーによく来る」と感じたら「暇と退屈の倫理学」「言語学バーリ・トゥード」辺りを面陳にしてみる。するとやっぱり売れるのです。

セルフレジは必要です。導入すれば間違いなく労働効率が改善されます。でもレジ接客を完全にしなくなったら、少なくとも私は売れ筋に気づく勘が鈍ります。生きた情報が蓄積されなくなるから。せっかく選書の時間を得られてもこれでは本末転倒です。

お客さんと直に接することでしか得られぬ何かがある。時代遅れかもしれないけど大事にしたい価値観です。紙の本を人が売る。今後も私はそういう書店で働いていきます。

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