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「生きる」ことの答え

羨ましいです。ある意味、書店員にとって「これ以上ない理想の職場」かもしれません。

好きな作家の本を誰にも遠慮せず大展開できる。お客さんにも喜んでもらえる。しかもその好きな作家がお店のオーナー。最高ですよね。

noteで何度かご紹介させていただいた今村翔吾さんの「塞王の楯」が直木賞を受賞しました。改めておめでとうございます!!!

少し前に読了したのですが、とにかく熱かったです(物理的な「厚さ」は読み始めると苦になりません。古今東西のあらゆる優れた小説がそうであるように)。魂と魂、理念と理念のぶつかり合い。昔のアメコミみたいな「正義 vs 悪」の平易な図式とは一線を画する、より現実的で切実な主義主張の激突がありました。

もうひとつ感銘を受けたのは「逆境との向き合い方」です。主人公もライバルも幼少時に忘れ得ぬ深い傷を受けています。自分みたいな思いをする人をこれ以上出したくない。だからこそ己の仕事に妥協せず、利害度外視で全身全霊を尽くせる。不幸な生まれや不運を嘆くだけで終わらず、世の中を良くするための唯一無二の武器に換えているのです。

たとえば戦争は良くない。誰もが知っていることです。でも戦乱の世の中だからこそ生まれ、磨かれた技術があるのも事実。それを公のために活かせれば、人は以前よりも幸せに生きられるかもしれない。ちょうどコロナ禍で必要に迫られた結果、各企業でテレワークの普及が進んだように。

この小説には、そんな人々の生きる力というか、泥を啜ってでも這い上がるしぶとさみたいなものが溢れています。どんなに過酷な状況でもまだまだ諦めたもんじゃない、できることが残っているはずだと。

我々は歳を重ねれば重ねるほど「諦める」のが上手くなります。「何か得るということは同時に別の何かを諦めること」という思想はたしかに真理かもしれない。でもだからといって闘わずにあっさり諦め、長いものに巻かれ、黙って流れに身を任せれば幸せを約束されるのでしょうか? 

そういう時期があってもいい。作中の某人物のように。しかし彼は一度逃げたことがあるからこそ、それが最善策にならないと理解しています。

実はこの気持ち、すごくよくわかるのです。

かつて半年近く働かず、貯金と失業手当で暮らした経験があります。最初は解放感いっぱい。でも徐々に毎日が苦痛になりました。やりたいことがなくなり、気分が滅入り、夜も眠れなくなる。仕事を辞めることは私にとって最善策ではなかったのです。

だからこそ書店で働き続ける。不満がないわけじゃない。でも辞めて書くことに専念しても、たぶんいい作品は創れない。無論本を出すことを諦め、漫然とお金のために働くだけで幸せを感じられるとも思えない。

ではどうするか? 闘うのです。世の不条理や不公平と。己の未熟さと。我が身の、そして公の幸福を成し遂げるために。

「生きるとは闘うということ」これはプロレスラー・鈴木みのる選手の言葉です。同じメッセージを「塞王の楯」からも感じました。ぜひ皆さんの目で、魂でその意味を確かめてくださいませ。

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