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【実話怪談】檻の中

農家の七十代男性、松本さんから伺った話。
 
今から三十年ほど前、松本さんが住む地域に土木工事会社Aがあった。

「田島って言う養豚農家の一人息子が立ち上げた会社だったよ。」

Aの敷地には、事務所も兼ねた田島の自宅と作業員が寝泊まりしている二階建てのプレハブ小屋が建ち並んでいた。

「プレハブ小屋の前で作業員がたむろしてるのをよく見かけたけど、なんだか雰囲気が暗いし、通りかかるとジロッと睨まれたりしてなんだか嫌な感じはしたな。この辺の地域の人を雇ったんじゃなく、どこからか安く連れてこられた人たちだって話しだったよ。けど、それより不気味な雰囲気醸してたのは檻だったね。」

田島の自宅前に二つの檻が置かれていた。
ひとつは大きい檻で、中には雑種の犬が三匹入れられ、四六時中吠え続けていた。
そしてもうひとつはそれよりも小さく横長の檻で、中には何も入れられていなかった。

「何もいないのに神棚に供えるような物を中に置いていて異様だったなぁ。」

Aは急速に業績を伸ばし、田島も羽振りが良くなった。
会社を立ち上げてから僅か一年あまりで自宅を立派な豪邸に建て変え、高級外車を乗り回すようになった。
 
しかし、ある日事件が起こる。
ある男がAの敷地で猟銃を発砲したのだ。狙ったのは、何も入っていない方の檻だった。
男は仕事をAに奪われ廃業寸前まで追い込まれていた別の土木工事会社の社長だった。
しかし何故か警察は事件化させず、男が逮捕されることはなかった。
 
「でもその後、頭がおかしくなっちゃったんだよ。」

男は全裸で四つん這いになり奇声を上げ、道行く人を威嚇したり、田んぼに立ち入り泥だらけになりながらくるくると回転し続けるというような奇行を繰り返すようになった。
そしてついには、用水路の中で口から胃の中まで泥をいっぱいに詰め込んだ状態で亡くなっている所を発見される事となった。

「男が猟銃を撃ったとき、俺らには見えないけどこの檻の中にはオサキ狐がいるって、この会社はオサキ狐を飼ってるぞって叫んでたらしいよ。Aが急激に利益上げたのも、男がおかしくなったのも狐のせいだと言えば確かに説明がつくけれど、まさかそんなことって最初は思ってたよ。最初は。」

ある日突然田島は会社を畳み消息を絶った。しばらくしてAの敷地は更地になった。

その更地で松本さんは、細長い、獣のしっぽのような物が蠢いているのをはっきりと見たという。

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