小高章平

予備校地理科講師。 大学入試で地理を選択している人のためのサイドストーリー始めます。 …

小高章平

予備校地理科講師。 大学入試で地理を選択している人のためのサイドストーリー始めます。 地図帳片手に読んでいただければ幸いです。

最近の記事

地理Bな人々(35) 赤と緑⑤ ケッペン・Cs・沖縄の雪と米

 まだ3月だというのに,GW並みの陽気になった日の午後,図書館で調べ物をして赤嶺君とミドリと合流した。  明日から春休みなのでキャンパス内の人影は疎らだった。 「もうすぐ春ね。いい風。やっぱり春が一番いいわね。」とミドリが言う。 「春ね。一番憂鬱な季節だなあ。」と僕が答える。   「どういうこと?」  「言葉の通りだよ。春は好きじゃない。」 「花粉症?」 「いいや,全然。」 「花粉症じゃないのに春が嫌いっていう人まずいないと思うけどな。」 「そうかなあ。けっこういると思うよ

    • 地理Bな人々(34)SHIZUKU③ マドラスチェック・鳥取と島根  

      「フライドポテト大好きの私としては,すごく勉強になりました。」 と滴ちゃんは言った。 僕は初めて一人で彼女の病室を訪れていた。 日差しが強く,カーテンが黄色に輝いていた。 「それと,確かに『飾り窓』の記述はインパクトありました。全然知らないことばっかりで。」 「まあ,そうだよね。」 「ナオミ先生は,飾り窓みたいなところへは行ったことあるんですか。」 「え,無いよ。もちろん。」 「どうして?」 「どうしてって言われても・・・」 「行きたいとは思わない?」 「思わないよ。」

      • 地理Bな人々(33)中島ノート⑮ じゃがいも物語・大堤防

        世界最大の大堤防(アフシュライトダイク)※1へ向かう。 アムステルダムから鉄道でアルクマールまで行きバスに乗る。 1927年から1932年にかけて建設された全長32㎞に及ぶ大堤防。 大堤防の途中にサービスエリアがあり,そこでバスを降りる。 ビル3階ほどの高さの展望塔があったので登ってみる。 堤防の内側の湾は外海と切り離され淡水化し湖(アイセル湖)となった。 どっちが海でどっちが湖かわからない。宮古島の伊良部大橋を思い出す(あそこは両側とも海だが)。   この堤防は自然の石

        • 地理Bな人々(32) 中島ノート⑭ アムステルダム・飾り窓・ドラッグ

          夜,中華街で食事をして運河沿いを散歩する。 世界各地の大都市には規模の違いはあってもたいていチャイナタウン※1がある。  現地の中国系住民だけでなく,中国人観光客も多い。 海外に出かけても彼らは中華料理を好む。 レッド・ライト・ディストリクト(飾り窓地区※2)に行ってみよう,と小宮山がいう。 薄暗い路地を抜けると,運河の両側に縦横3mほどの大きなガラス窓の部屋がびっしりと並び、室内からは赤や紫色の怪しい光線が漏れているのがすぐ目に入る。 多くの観光客がその前を歩いていく。

        地理Bな人々(35) 赤と緑⑤ ケッペン・Cs・沖縄の雪と米

          地理Bな人々(31) 中島ノート⑬ アムステルダム・一番懐かしいもの

          スキポール空港※1に着陸する直前,牧草地が見えた。 日本で航空機から眼下に緑色の大地とそれを区分けする直線が見えたら,水田とあぜ道だとすぐ分かる。 オランダはその逆だ。 緑色に見えるのは牧草地で,それを区分けしている線は「水路」だ。 無心に草を食べ進む牛たちは水際までやってきてそれ以上進めなくなり引き返す。 水路は牧草地を囲む柵の役目を果たしている。 森林率の低い(約8%)オランダにおいては非常に合理的な農地※2管理になっている。 アムステルダム。 14時半

          地理Bな人々(31) 中島ノート⑬ アムステルダム・一番懐かしいもの

          地理Bな人々(30) SHIZUKU② 高卒認定試験・ブルーストーン

          月曜日,オッキアーリに行くと,タオが駆け寄ってきて,ねえまたお姉ちゃんのところへ行こう,と少し慌てた様子で言った。 うん?  この前行ったばかりじゃ・・・,と言おうとすると, 「滴ちゃん,高校を中退することにしたらしいの。」 と真弓さんが奥から現れた。 「お母さんからさっき連絡があって,治療に専念するって。高校中退でも,試験を受ければ大学受験はできるから,慌てずゆっくりいきましょう,という方針になったみたいなの。」 「そうですか・・・。」 「お姉ちゃん,どうなっちゃうの。

          地理Bな人々(30) SHIZUKU② 高卒認定試験・ブルーストーン

          地理Bな人々(29) 大城先生① 地球カレンダー 

           お世話になった中島先生には申し訳ない気もするけれど, 「せんせい」という言葉を聞いて,僕が一番最初に顔を思い浮かべるのは大城先生だ。  多くの中高生がそうであるように,中学時代の僕は「好きな科目 = 好きな先生の科目」だった。  大城先生に社会科を教わるようになってから、それまで特に気に留めたことの無かった地理や歴史が大好きになった。   先生の授業は,トンネルを抜ける列車の窓から一瞬見える水平線の輝きと同じだった。  授業中,僕のセンサーと先生の言葉がピピっと

          地理Bな人々(29) 大城先生① 地球カレンダー 

          地理Bな人々(28)ミズノモノローグ① 日本列島の紹介 

           確か中島先生もマリアと似たようなことを言っていた(ナンパをしろということではなく)。 「いいか,外国に行くと,日本のことをたくさん聞かれる。例えば,もしエスワティニ※1に旅行に行って,周り全員現地人で自分だけポツンと一人日本人,という状況になったら何を質問されると思う?『ねえ日本でどんな所?』『毎日何を食べるの?』『日本の王様※2ってどんな人?』てな具合だ。彼らにとっては君らは日本代表選手なんだ,広報課の職員といってもいい。そういう風に見られるんだ。好むと好まざるとにか

          地理Bな人々(28)ミズノモノローグ① 日本列島の紹介 

          地理Bな人々(27) マリア② 世界遺産・ナンパ

           咄嗟に返事はしたものの,ナミビアまでの旅費を貯めるにはかなりの時間が必要だった。  恭子さんの指令通り,中島ノート整理以外の作業で資金を貯めるとなると,オッキアーリのバイトだけでは足りなかった。  僕は他のアルバイトを探すことにし,とりあえず半年後くらいをめどに計画を立てよう,とぼんやり考え,まずは,図書館でナミビアについて調べた。ナミブ砂漠も世界自然遺産※1に登録されているのだ。  資料のコピーを取って学食に行くと,マリアが見知らぬ男子と話をしているのが目に入った。

          地理Bな人々(27) マリア② 世界遺産・ナンパ

          地理Bな人々(26) 中島ノート⑫ スワコプムントの少年 

           スワコプムントの民俗資料館を出てしばらく海岸線をぶらぶらした。  旧ドイツ領※1時代のきれいな街並みが続いていた。  風が強い。2月だというのにかなり寒い※2。  寒流ってこんなにも分かりやすく沿岸に影響を与えるのか。  軽食を売っている店を見つけ,ハンバーガーとコーヒーをテイクアウトし,公園のベンチで食べた。  木陰から7~8歳くらいの男の子がこちらを見ていて,目が合ったのでハローというと,彼は周りを少し気にしながら、もじもじと近づいてきて俺をじっと見つめた。  ほ

          地理Bな人々(26) 中島ノート⑫ スワコプムントの少年 

          地理Bな人々(25) 中島邸② 

           散骨の話はすぐに恭子さんに伝えた。  中島家の墓は横浜市の郊外にあるらしいけれど,あの人がそう言うならそれで構わない,ということだった。 「そのナミビアっていう国はどこにあるの?」 「アフリカの南部です」  「アフリカですって?どのくらいかかるのかしら?」 「ネットで調べましたが,羽田空港からナミビアの首都ウィントフックまではフランクフルト※1の乗り継ぎ時間を含めて25時間ほど掛かります。そこからさらに砂漠をクルマで行けば先生の見たソーサスフレイという所に行けます。」 「ち

          地理Bな人々(25) 中島邸② 

          地理Bな人々(24) 中島ノート⑪ ワジ・フレデリクス 

          「ナミブ砂漠か。」 「うん。」 「変わってるわね。死後に散骨する人って時々聞くけど,たいてい海とかじゃないの? しかも生まれ故郷でもなんでもないわけでしょ?」    「まあ,そうだね。でも,旅の最後に“最古の砂漠にぐるりと回ってもどりたい”って書いてあった。」 「ぐるり,ってどういうこと?」 「さあ,分からない。それで,ナミビアから先生が持ち帰った砂がこれなんだ」といって僕は小さなガラスの瓶を取り出した。    「こんなに赤い砂なんだ。ラトソル※1じゃないのに?」  牛乳パッ

          地理Bな人々(24) 中島ノート⑪ ワジ・フレデリクス 

          地理Bな人々(23) 中島ノート⑩ ナミブ砂漠・無方

          「それで,何か書いてあった?」とミドリが聞く。 春休みが近づき,学生食堂はいつもよりだいぶ空いていた。 「何かって?」  「中島先生の知られざる秘密。ノートの中に。」  「うん。あった。」        「あったの? どんなこと。」   「先生には恭子さんの前にも奥さんがいて,その人との間に子供もいたらしい。」 「何だ,そんなことか。みんな知っているわよ。恭子さんだってゼミのみんなだって」。 「そうなの?」  「そうよ。先生の葬儀にだって来てたじゃない,親子で。」 「そうだっ

          地理Bな人々(23) 中島ノート⑩ ナミブ砂漠・無方

          地理Bな人々(22) 中島ノート⑨  イスタンブール

           トルコ※1に来て10日目。  この国は2つの大陸にまたがる珍しい国だ。  国土の3%はヨーロッパ,97%はアジアにある。   アジアとヨーロッパを繋ぐ橋(ボスポラス大橋)の両側に最大都市イスタンブール※2が広がっている。  ボスポラス海峡は頑張れば泳いで渡れるくらい狭い海峡だ。        この海峡があるためにアメリカはトルコを早々にNATO(北大西洋条約機構)※3に加盟させたらしい。  もしソ連との間で戦争が勃発した場合,黒海から地中海に出ようとするソ連の艦隊を両側から

          地理Bな人々(22) 中島ノート⑨  イスタンブール

          地理B(21)な人々  SHIZUKU① お見舞い・アメリカの自然環境

           翌週,少し早めにオッキアーリに行くと,玄関口でタオが「あ,来た来た。ナオミ,行こう。」と走り寄ってきた。  僕は靴を脱ぐ間もなくタオと病院へ向かった。  入院しているのは,高校2年生の女の子で滴という名前だった。滴と書いてしずくと読む。  彼女は優秀な成績で都立の進学校に入学したが,病気の療養のため休学し現在も入院中だという。真弓さんにどんな病気なのか尋ねたけれど,複雑な病名で忘れてしまった。確か心臓の病気だったはずだ。岩永さんが商社マン時代に最も親しかった同期の堀さんとい

          地理B(21)な人々  SHIZUKU① お見舞い・アメリカの自然環境

          地理Bな人々(20) オッキアーリ② 赤道・水の涵養 

           木曜日。オッキアーリに行くとマナトがいた。  地球儀をくるくる回しながら,ちらりと僕の顔を見て「タオちゃんは風邪でお休みなんだって」と少しつまらなそうに言った。  僕は彼の横に腰を下ろして,二人の間に地球儀を置き,ここが日本ここがアメリカだよ,と一緒に指さしながら遊んだ。   「アメリカって大きいね。」   「でももっと大きな国※1もあるよ。探してごらん。」 「えーと。わあ。ロシアってでっかいね。日本が一番小さいの?」 「いやいや,日本より小さい国※2の方が多いんだよ。」

          地理Bな人々(20) オッキアーリ② 赤道・水の涵養