須田英太郎

東大の総合文化研究科で文化人類学やってます。新しい技術や制度で変わる「人の生のあり方」…

須田英太郎

東大の総合文化研究科で文化人類学やってます。新しい技術や制度で変わる「人の生のあり方」に迫りたい。 https://komabage.com/

最近の記事

10年ぶりに高校三年生になって

この夏、僕は10年ぶりに高校三年生だった。 同級生の幼なじみに恋い焦がれる、真っすぐで不器用な男子高校生だった。 瀬戸内国際芸術祭の演劇に出ました。 二日間の公演は大成功で、400人のお客さんに満足のいく舞台を見せられたような気がします。 恥ずかしさや照れを相対化して、一枚一枚自分の殻を破っていく稽古の時間は、文化祭の準備のように愛おしく刺激的な時間だった。 公演直前の若いメンバーが舞台への思いを口にしながらポロポロと涙を流すのを見て、僕は彼女たちが持ち合わせているような

    • 映画『ペンギン・ハイウェイ』を変態的にエクストリーム読解してみる

      これは映画『ペンギン・ハイウェイ』へのいささか変態的な愛情表現というか、ふと思いついてしまったので書かずにはいられないエクストリームな神話的読解なのだけど、あの作品を少年の精通(はじめての射精)を描いたものとして観ることはできないだろうか。 (観た人に向けて書くので説明不足だし、ネタバレを含みます。いちおうあらすじ↓) あらすじ 毎日学んだことをノートに記録している勉強家の小学4年生アオヤマ君は、通っている歯医者のお姉さんと仲良し。お姉さんも、ちょっと生意気で大人びたアオ

      • プライド・パレード――規範による自己決定から理想による自己決定へ

        プライド・パレードに参加したらBuzzfeedにすごく良い写真が載った。 過去最大6000人のパレード。フロートからはいい感じのEDMがかかっていて、さながら車道で踊れる渋谷フェスという楽しさだ。国籍もジェンダーアイデンティティも性的指向も関係なく、沿道に手を振りながらみんなで歩いた。   ニュースでは「同性愛や性同一性障害など、性的少数者への理解を訴えたパレード」という取り上げられ方をされるけど、それは一面でしかない。僕の認識は少し違う。   少しユニークな言い方をすれば、

        • 『走れメロス』でペアーズの感想を言います

          メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。メロスには女心がわからぬ。男三人三兄弟の末っ子として育ち、人生に三度訪れるというモテキのうちの一度が男子校の花園で過ぎた。 メロスには竹馬の友があった。セリヌンティウスである。鋭い洞察眼を持ち、物事を批判的に考察できる聡明な男であった。恋愛へのスタンスもときにクールすぎ、多くの女性を泣かせてきたような男だった。ある日、セリヌンティウスは言った。 「ペアーズで知り合った子と付き合うことになった」 それ

        10年ぶりに高校三年生になって

          僕が「東大女子学生への家賃補助」に賛成する理由

          東大が女子学生に家賃補助を出すというニュースが出て、賛否両論いろんな意見がとびかっています。 http://www.asahi.com/articles/ASJCG4WF3JCGUTIL030.html 僕は賛成なのでその理由をまとめました。 1.「地方出身学生を増やすための家賃補助」には賛成 東大に、首都圏の中高一貫校出身の学生が多いことには、本当に強い危機感がある。 そうとう特殊な環境に育ったはずの彼らが、「自分は平均的な日本人だ」と思いながら東大を卒業するという悲

          僕が「東大女子学生への家賃補助」に賛成する理由

          映画のようには終わらない−−福島第一原発から帰る

          いわき駅、午後8時16分。 最終品川行きの特急がホームを駆け抜けるのを、息を切らしながら見送った。 家まで帰るための最終列車がみるみる小さくなるのを見ながら、 まだ8時台なのに十分酔っ払った僕の口角は、主人の意思とは無関係に上がって笑みを作っている。 さっきいたお店で席を立ちながら流し込んだ福島の地酒が、お腹の中でカッカと燃えていて、 終電の去ったホームで立ち尽くしながら僕は、『もののけ姫』のアシタカのセリフを思い出していた。 「わたしは自分でここへ来た。自分の足

          映画のようには終わらない−−福島第一原発から帰る

          あの日みたポケモンの名前を僕たちはまだ知らない

          100円玉に100円の価値はあるだろうか。 25円くらいのコストで作られた銅とニッケルの合金。キラキラ光るあのコインに100円の価値があると思えるのは、もちろん国が信用を担保しているからで、西暦2100年にも同じようにあのピカピカした小さな円盤でパンが買えるとは限らない。 小学生のころ、もらったおこづかいを握りしめて、ポケモンパンをスーパーまで買いに行った。菓子パンそのものも美味しかったけど、欲しかったのはもちろんデコキャラシール。貼ってはがせるポケモンのシールだ。 ス

          あの日みたポケモンの名前を僕たちはまだ知らない

          『ズートピア』でナマケモノを笑ったあなたへ

          ディズニーの『ズートピア』という映画が話題になってますね。 いろんな種の動物が、文明化して共存する社会で、ウサギちゃんとキツネくんが活躍する映画です。 そこはウサギもヒツジもキツネもライオンも、みんな仲良く共存しているユートピアかと思いきや、実際は差別と偏見に支配された僕らの現実のような世界。 それを差別のない理想の社会にすべくウサギちゃんが奮闘します。「ズートピアでは誰もが何にでもなれるの!」 ストーリーでは一貫して、肉食/草食や種の違いによるレッテルが語られます。

          『ズートピア』でナマケモノを笑ったあなたへ

          六本木クロッシング。面白い作品多かったけど、山城大督のトーキング・ライツはすげえよかった

          六本木クロッシング。面白い作品多かったけど、山城大督のトーキング・ライツはすげえよかった。 意味をなさないはずのものだから、見るものが意味を付与してしまう。僕はどうしてか、更地になった石巻の住宅街で一面の雑草がざわざわと風になびくところを思い出したし、人それぞれ色んな連想をするんだろう。 その意味を成さないものに何を投射するかで、鑑賞者は自分が何者かを知る。本当に雄弁だった。 谷川俊太郎好きにはたまらないですよ?

          六本木クロッシング。面白い作品多かったけど、山城大督のトーキング・ライツはすげえよかった

          ありがとうという言葉について考えるとやっぱりありがとうと言わざるを得なくなること

          「アマゾンを裸足で歩く東大教授」こと、敬愛する木村秀雄先生の退職記念講演でした。 文化人類学か、人間の安全保障の授業か忘れたけど、 「ありがとう」「サンキュー」を意味する表現がない言語が、意外と多いという話をしていたのがとても印象に残っています。 コミュニティのなかでの互酬性(ギブアンドテイクの相互依存)の話だったと思うのだけど、 与えたものがいずれ帰ってくるという深い信頼があれば、そのつどお金で精算するような野暮はもちろんしないし、 もはや「ありがとう」という言葉

          ありがとうという言葉について考えるとやっぱりありがとうと言わざるを得なくなること

          僕たちはどうして勉強しなければならないのか

          5年間教養学部に通って実感した「勉強する理由」について、受験生応援記事にしたらハフィントンポストさんに掲載していただきました。 反響がありがたい。 http://www.todaishimbun.org/ee160222/

          僕たちはどうして勉強しなければならないのか

          アメリカの学生新聞を見てぼんやり考えたこと

          「学内のスタートアップが工学部のチームと共同して、旧型のバイブレータを大きく改良した”スマート”バイブレータを開発した。 ライオネス(雌ライオン!?)と名付けられたこのバイブレータは、収縮や温度、動きを感知する5種類のセンサーを搭載しており、ブルートゥースでスマホやPCのアプリにデータを送り、より良い前戯のためのサジェストを提供する。」 ジャーナリズム教育と学生新聞について調べるため、プリンストン、ミズーリ大コロンビア校、UCバークレーの三校を訪ねました。 東海岸の有名

          アメリカの学生新聞を見てぼんやり考えたこと

          プリンストン大学の学生新聞から見える東大に通う僕らの課題(仮)

          学生新聞と大学との関わりを調べるために、東大新聞オンラインのメンバー2人とアメリカに来ています。 ひとつ目の大学は、NYから車で1時間のプリンストン大学。アイビー・リーグの有名校で、学生は学部・院あわせて7000人程度の小さな学校だ(東大は25,000人)。 学費は45000ドルと、東大の54万円と比べたら10倍近い値段だけど、合格さえすれば家計に応じて奨学金が出る。 ここにはthe Daily Princetonianという1867年創刊の学生新聞があって、もうすぐ14

          プリンストン大学の学生新聞から見える東大に通う僕らの課題(仮)

          笑う力を失わないために

          「笑う力」という突拍子もない言葉が、さっきシャワーを浴びているときに降りてきたんです。 井戸でシャンプーする孤児院や、水シャワーだけの安宿に泊まり続けていたので、20日ぶりくらいの温水シャワーでした。(今はフィリピン最高裁の法律家トレーニングセンターに泊めてもらっています)   フィリピンの人たちを見ていると、彼らずっと笑ってるんです。なんでもないようなことでもとても楽しそうで、箸が転げるだけでおかしい女子中学生か、賭けなしでする仲間内での酔っぱらい麻雀みたいにいつも笑ってい

          笑う力を失わないために