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「おめでとうミッドサマー 9日間の祝祭に乾杯!」『ミッドサマー』【映画レビュー】

★★★★★ 
鑑賞日:2022年4月24日
劇場:ひかりTV テレビオンデマンド ザ・シネマ


『ミッドサマー』(原題: Midsommar)2019年公開
監督:アリ・アスター
主演:フローレンス・ピュー

「おめでとうミッドサマー 9日間の祝祭に乾杯!」
スウェーデンの静かで雄大なるホルガ村の祭典と儀式。
 
あまり観ないジャンル(ホラーではなくフェスティバル・スリラーだそうだ)の映画だが、公開当時予告を観て気になっていた作品。
美しい映像に目を奪われた。


スウェーデンのホルガ村。90年に一度の夏至祭。精神が不安定なダニーと冷めた恋人クリスチャン、大学の友人たちは、ホルガ村出身のペレに誘われ(結果的にハーメルンの笛吹き男であった)コミューンに足を踏み入れ、村人は彼らを優しく受け入れる。色鮮やかな花冠。素晴らしき情景。

白夜の下、眩いばかりの陽光。白装束に身を包み、祭典と儀式は美しく進んでいく。

同時にゆっくりと不穏な空気が蔓延。時折歪む視界。共鳴する女たち。
闇ではなくひたすら明るい画が不安を掻き立てる。触れられたくない柔らかく弱い部分を素手で触られているようでザワつく。
 
「人生は季節だ。18歳までの子供は“春”、18歳から36歳までは巡礼の旅をする“夏”、36歳から54歳は労働の年齢“秋”、54歳から72歳は人々の師となる“冬”」生命のサイクルを終えた者には大いなる喜び 命は“輪”再び巡る。

老いて苦痛や恐れ 恥辱の中で死ぬより自らの命を与える。善意として。朽ちる前に。避けられぬ終焉を厭う死は精神を堕落させるから。72歳でその身を捧げる。ここではそれが当たり前。

死生観は千差万別。日本では火葬が当たり前のように思われるが、ほんの50年前は土葬の選択も多く、ところ変われば弔い方も様々で、鳥葬、風葬、水葬等々、火葬が常識になってしまった日本においては非常識なのかもしれない。捨身月兎(月の兎)に通ずる気がした。日本でも姥捨て山の民話が残っている。クオリティ・オブ・ライフ。耳障りの良い言葉に置き換えられたが根っこのところは同じだろうか。

自分の常識は他人の非常識。国が違えば、環境が違えば、信仰が、種が、性が違えば価値観も変わる。マジョリティとマイノリティの狭間。
自分の理解が及ばないものを異端として片づけてしまうが、このコミューンのなかでは、目的を考えればあの性交も正解なのである。
 
笑顔だからといって必ずしも善人ではなく、楽しんでいるわけでもなく、そうすることが都合が良いから。
ホルガで生まれホルガで育てば疑問もなくそれが世界のすべて、常識になる。秩序を保つためにルールがあり、関係性を保つためにマナーがある。
自分の身に降りかかった時アイデンティティは保たれるのか。治りかけていた(と思い込んでいた)心のかさぶたをゆっくり剥がされていく。

恋人クリスチャンに依存していたダニーが最後に自分の意志で導き出した答え。それが正解か否か。真の自由を手に入れたのか。ホルガの女たちの演技とチームワークで女王にされたとすればクリスチャンからホルガに依存先が移っただけなのかも知れないが。彼女の微笑みに、涙が出た。
 
傑作だと思う。2度観た。
そしてこの物語は、ラブストーリーなのだと気づかされた。
その視点から3度目を観てみたいと思う。

 
『ウィッカーマン』(1973・英)(監督ロビン・ハーディー)を観てみたい。
アリ・アスター監督の前作『ヘレディタリー/継承』も観てみたい。

(text by 電気羊は夢を見た)


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