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お椀、吹き飛ぶ 〜嗚呼、職人の絶望日記〜

2016年2月。

漆塗り職人の師匠である父に内緒で購入した木工旋盤。
夜、漆の仕事が終わってから練習にとりかかる。
まったく、しおらしいことだ。

わざわざどこかへ木工の修行に行くのは面倒だから独学である。

作りたいものは決まっていたので、それだけ作れれば十分なのだ。
「やっちゃえ、ニッサン」を合言葉に、ひたすら突き進むのだ。

材料は、京北町で廃材のヒノキを安くで分けてもらった。
バンドソーで丸くカットしたら、木工旋盤という機械に取り付ける。
そして、モーターで高速回転している木材にデッカイ彫刻刀のような刃物を当てて削っていく。

↓これが木工旋盤で使う「バイト」という刃物。

※画像は木工教室のウッドロードさんから拝借しました。



外側はだいぶ削りなれてきた。


高台(こうだい)というお椀の底の部分を作ったら、ひっくりかえしてチャックという金属の固定具で掴む。

そして内側を削っていくのだが、、、

「バキッッッ!!!ゴガンッッッ!!!」

刃物が深入りした大きな負荷で、高台が割れてお椀が吹き飛ぶ。
お椀になり損ねた木材が壁にぶつかって、ゴロゴロと床を転がる。

「のわーーーー!!!!」

ものすごい音と衝撃の恐怖、それとこれまでの努力が一瞬で吹き飛んだやるせなさで叫び声が漏れる。

隣の部屋で寝ていたおばあちゃんが衝撃音と叫び声にビックリして、「なんや!大丈夫か!?」と声をかけてくる。

「あぁ、うん、大丈夫、、、」

手元には割れた木片と、大量の木クズだけが残る。


そして収穫なしのまま、うなだれながら掃除をする夜の9時である、、、

このやりとりはこの日が初めてではなく、幾日も続いていた。
お椀の内側を削ろうとすると、刃先が食い込み、その負荷で材料が割れて吹き飛んでしまうのだ。

「キャッチ」という現象で、内削りの際によく起きる「素人の壁」みたいなものらしい。
(という事を知ったのはだいぶ後であった。)

何度やってもこの現象が起こるため、条件反射で体が強張る。

内側を削ろうとすると、心臓がバクバクする。
額から汗が流れてくる。
手先が震える。

そしてやはり、キャッチが起こってお椀が吹き飛ぶ。


「やっぱり、独学なんて無理やったんかなぁ、、、」
と弱気になることも。


が、しかし、相変わらずテレビでは矢沢永吉先生が、
「やっちゃえ、ニッサン」
と、けしかけてくる。


自信喪失の象徴と言われる、「歯が抜け落ちる悪夢」
も見た。

が、しかし、その夢には続きがあった。
ツルツルになったはずの歯茎から、乳歯のような先っちょが生え始めてきたことを、舌先の感覚がたしかに捉えたところで目が覚めたのである。

「この夢はきっと、心の底ではまだまだ僕があきらめていないという表れにちがいない!」

というポジティブバカシンキングで試行錯誤を繰り返す。

そしてついに、初めて内削りに成功したのであった。

しかし、問題は続々と出てくるものである。


がんばれワカゾー!



つづく

みなさまのご支援で伝統の技が未来に、いや、僕の生活に希望が生まれます。