マリアナ海溝の淵から哲学者ヘーゲル様に助けてもらった話
インターネットが諸事情で使えないのとテレビに内蔵された録画機能が満杯になってきたので、溜めていた番組を観ている。
Eテレの『100分de名著』で、ヘーゲルの『精神現象学』を東大の哲学者斎藤幸平先生がナビゲーターの伊集院さんとアナウンサーのみちこさんと回してゆく講義が面白い。
科学主義(エビデンス)の自然科学で全部は説明できないとか、約300年のおじさん(失礼)がおっしゃることがかなり面白い。
秀逸なのは、伊集院氏が「迷信は信じないけど心理テスト(ポップ心理学で本物の心理テストではない)は信じる」おかしさとか、論破するおかしさとか、ビシビシ切り込んでいること。
ヘーゲルは、科学主義を啓蒙、対立するものを宗教と呼ぶ。
で、この対立が分断になって、フランス革命になったわけで。
この構図、今もそう。
お互いの善と悪が対立している。
矛盾、対立、否定。
伊集院氏が「論派合戦から何も生まれない」と言うように、でも、お互いの悪を認め、自己批判をお互いにして相互承認する。
アウフヘーベンですな(思考法の入れ替わり)。
もちろん、全てをまるっと解決するわけではない。でも、その時、より深めて行こうと、「絶対知」(修正しつつ、深めていく)する。
哲学における、世界3大難書の1つが『精神現象論』なのだそうで、当時の出版社も最初は拒否したり、斎藤先生でさえ難しいらしい。
哲学って、抽象度が高杉晋作で、具体的な思考でしか考えられないわたしには、ヘーゲルは難易度が高いから読みたくもない。
哲学は全ての学問の頂点で、心理学のベースなんだけど、やなもんはやだ。
難しいんだもん。
でも、そこで逃げたら、おバカは一生おバカだ。
という内的葛藤を経て、妥協点が撮り溜めたEテレを見ることになったわけで。
それがヘーゲル様の「動物的態度」で、人間だけが今の知の在り方を学びながら、失敗から変わろうとする。
結果、これがよかった。
例えば、こんなこと。
自分こそが自立した絶対的存在だ、自分だけが世界を意のままにできる存在で相手の存在を否定したい「自己意識」をぶつけあう。
徹底的にやっつけると死んでしまって、相手の存在を証明する人がいなくなるから、全てを意のままにする主人、それを支える奴隷という主従関係が生まれる。
でも、主人がいられるのは、それを支える奴隷がいるから、自立の関係性は逆転する。
自立は依存とセットで、一人前になるまでは、失敗しながら学ぶことが世界の見え方を変えていく。
最近、言っても言っても通じない相手を前に絶望感しかなかったのだけど、だから「読む力は勝手に育たない」という記事を書いた。
立場や状況のような環境、理解力など処々の個人差に由来する、マリアナ海溝クラスの絶望感をヘーゲルの「知」に救われた。
ヘーゲルの言葉をここまで噛み砕いてくださって、ありがとう!斎藤先生!
哲学って、面白いね!
わたしが18歳だったら間違いなく哲学科を専攻していたね。でも、多分、わたしの指導教授や友人のように哲学科から心理学科に転学していたと思う。抽象過ぎてわかんないもん。心理学の実験データを扱う方が遥かに簡単だもん。
知らないこと知りたい、分かるためには失敗して学び続けること、学びは時間がかかり、永遠に達成しえないことを面白いと思える知能を育ててもらえてきた環境に感謝を感じ得ない。
やっぱり、わたしは、教養の深い人と話をしたい。生きることが学びに直結している人と関わりたい。
生きる姿勢の土台が違う人と対話はしたくない。
学びのない人生って、面白いの?
もはや専門用語でもなく、検索すれば一発で答えが出てくる一問一答な世界が既にあるのにそれすらもしない。
己の知的ベースの不完全さを相手に求める他力本願な姿勢には、なんの生産性もない。
もはや対話は成立しない。
時間の無駄。わたしは時間は命だと思うから、己の時間を奪われることは、限りある生命の残り時間を削るような死に値する。
人の時間を奪う時間泥棒が嫌いだ。
「小学生でも分かるように説明しなさい」
ビジネスの世界では言うけれど、確かにそう。
でも、学問の世界は違う。
話をしたいなら、それだけの理解への努力を重ねて、同じステージに立てることが大前提。それを知っている人と話したいし、自分はそう育てられて来た。
わからないことがあれば、自分で調べて、それでもわからないことを先生に聞く。
それが勉強のやり方。
もちろん、小学生に大学院レベルの学びは求めてないし、精神発達の遅れやなんらかの疾患や障害がある方は合理的配慮は必要。
だけど、義務教育課程を終えた社会人であるのに「小学生レベル」にまで下げて噛み砕いて説明を求めることを当然と考えているならば、怠慢だよ。
知らないことは、恥ずかしいことではない。でも、知ろうとしないこと、努力しないことは、恥ずかしいことだと、わたしは思う。
結構、辛辣なことを書いたけれど、理解できないならば、できないでいいと思う。
でも、こんな独りよがりの偏屈な文章を最後まで読んでくださって、ありがとうございます。
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論文や所見書き、心理面接にまみれているカシ丸の言葉の力で、読んだ人をほっとエンパワメントできたら嬉しく思います。