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📕小説(ショート)【メリーゴーラウンド】加筆5/9PM

 子どもの頃から乗り物酔いをする質。
家を出る前にアネロンニスキャップを1カプセル服む。
今まで試したどの酔い止めより私に合っている気がする。
残りは後1カプセル。


 郊外型の大きなショッピングパークの中に、話題のメリーゴーラウンドはある。
ライドは2人がけの馬車だけ。
話題になっているけれど、私が乗るなんて思いもしなかった。

 横顔に話しかける助手席の私。
時々私に向ける眼差し。
どう見てもデート中のカップル。
メリーゴーラウンドから降りても、このままのふたりでいられるだろうか?
帰り道でも視線を交わしているだろうか?

 初出店のお店を観て、話題のレストランでランチをして、目的もなく歩き回って、いつものカフェで休憩する。
 「ライトアップする前に乗りに行かない?
映えるから混んでくるんじゃない?」
彼はいつも私の意見に合わせてくれる。

 彼と私は白馬の馬車に乗り込む。
栗毛の馬車には親子なのか。
鹿毛の馬車はきょうだいだろうか。
芦毛の馬車は同性の友人か。
馬車は満席になり、乗れなかった人達の短い行列。

 ブザーが鳴る。
オルゴールの音にアレンジされたカーペンターズが流れ出す。
幼い頃以来のメリーゴーラウンドは、想像を超える速さで回転する。
アネロンニスキャップを服んでいて良かった。
喉は渇くけれど。

 空が段々と暗くなり、メリーゴーラウンドにあかりが灯る。
突然の光と色に頭がくらくらしてくる。
酔ってる?
めまい?
どこにいたんだっけ?
何をしていたんだっけ?
誰と一緒なんだっけ?
私が目にしているのは幻視?

 彼には好きで好きで堪らない人がいるのね。
恋人と連絡がとれないのね。
辛くてどうにかなりそうなのね。
自暴自棄になるところだったのね。
どうして私を誘ったの、そんなときに。

 たった3分間だったなんて信じられない。
馬車では彼と何を喋ったのか。
手は繋いでいたのか。
肩に頭をもたせていたのか。
楽しい時間だったのか。
彼に「どうしようもなく好きな想い人がいる」ということしか覚えていない。

 また白馬の馬車に彼と乗っている。
同じ日にもう一度乗ったのか。
別の日にわざわざ乗りに行ったのか。


 彼のことを好きで好きで堪らない女性がいるのね。
優しくて真面目な美人なのね。
とても積極的な人なのね。
その人のことも憎からず思っているのね。
なら、どうして私を誘ったの。

 また彼と馬車に乗っている。
乗り物酔いする私が乗りたがる筈なんてないのに。
どちらが乗りたがったのだったか。

 目の前で繰り広げられる3分間は、決して私が手出しをすることができない彼のドラマ。
知らなくて良かったのに。
知りたくなかったのに。
軽い嘔気とめまいが残る。


 指定席だと思っていた。
そうではなかったのね。
香りも指の痕も髪の1本も、探そうなんて思ったこともなかったのに。
 私がいないこの席に、一体誰を座らせたの。
一体何人座ったの。
誰でも座れる自由席だったの。


 彼には何が見えていたのだろう。
私のドラマであってほしいけれど。
好きで好きで堪らないと伝わっただろうか。
信じていたいと伝わっただろうか。
守ってあげたいと伝わっただろうか。
いつまでも側にいたいと伝わっただろうか。


 もしかしたらずっとずっと以前から想い続けていたことも、見えてしまったかもしれない。

 今日も、本心を覗き見したい「ふたり達」が行列を作っているのだろう。
 そういえば、アネロンニスキャップがなくなったんだった。
買いに行かなくちゃ。


 助手席には誰が座っているのだろうか。
誰が横顔に話しかけているのだろうか。
その人も指定席だと思っているのだろうか。
髪を落とさなかっただろうか。
 「私はもう、乗るつもりはないけれど……」
そう独りごちてみる。


メリーゴーラウンドに?
それとも助手席に?






※創作です

ずっと以前
同じタイトルで詩を書いたことがありました
⤵️


※ヘッダー画像は #ted2lasvegasよりお借りしました
ありがとうございます

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