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小説

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小説 カフェインpart12

小説 カフェインpart12

木下の話をきいて頭の中にパッと浮かんだのはそんな短い物語だった。つまんねぇー、こんなくそくだらないありふれた話、何の賞にもひっかかんないぜ。カフェインそうだろ?もっとへんてこで奇妙な話を読者は望んでいる。あんたとしても納得しないだろう。
カフェイン、小説書くのって難しいんだね。面白いものさらさら書けるもんだと誤解してた。わたしってば平凡な脳味噌しか持っていないよ。
五年前すでにカフェインは病気を発

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小説 松戸のゲバラ

彼女がゲバラの顔を知ったのは、対して好きでもない男の部屋を訪れた夜だった。
酔った上のすったもんだで部屋に上がったわけだが、心はとうにゲバラに奪われてしまった。
部屋に貼られたポスターの中のゲバラはまごうことなくハンサムでワイルドでどこか懐かしさを感じた。
「この人、誰?」
「ゲバラだよ、ゲバラ、革命家。ウィキで調べれば?」
男は果てたあと寝た。
いつもだったら不機嫌になるところだが、今回は好都合

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小説 革命家はアディダスを着る

キューバの革命家、前議長カストロ氏が九十歳で逝ったのを知る直前、僕はミカとマックでだべっていた。
ジーンズのポケットの中で震える赤いスマートフォンに気をとられ、持っていたコーヒーの紙コップを落としそうになる。
ニュースの写真のカストロ氏の痩せた顔と鮮やかなスカイブルーのアディダス社の三本線ジャージが対照的だった。
僕が数あるスポーツメーカーの中でもアディダスだけを信じていることは友人の間では有名だ

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小説 働かなきゃいけない日本で勤まる職業はないと思ったひとのためのバイエル

勤労は日本人の義務であるらしい。
不思議だ。
なぜ働かなきゃいけないのだろう。
お金、生き甲斐、さまざま理由はあるけれど働けない人種はいる、と思う。
大きな声では言えないが、僕もその一員だ。すべてが怖い、住んでいる団地の排水溝が老朽化したコンセントが。
仏壇の線香の炎が我が家のごみに引火し、隣家の山田さん宅まで燃やし尽くしてしまうのではないかと怖い。
不安で家から出られない。よって働きに出られない

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小説 孤独な夜の甘味

小説 孤独な夜の甘味

私はなにをしているのだろう。

もう睡眠前の薬は服用してしまったのに、部屋を飛び出してしまった。

三十分以内には確実に意識は飛ぶことは理解っていた。

そんな時に車に轢かれでもしたらどうなるかは目に見えているのに。

あぁ、私は蛾です、コンビニの光に幸あれ!

今週に入って三回目の深夜のコンビニ遠征である。

昨夜はどうしてもシュークリームが食べたかった、その前はどうしてもチョコレイトを欲してい

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小説 外見

彼女の頸はモヂリアニの描く女みたいだ。

すらりと長い。

けれど全体的な感想を言わせてもらうと手足が短く、座高は高く胸はあまりなく、美しい頸に乗る顔はまんまるで、笑う時奥歯の銀歯が二、三本見えた。有り体に言えば全くもって当世の美の基準とはかけ離れている。
昨今のメイク道具や技術の向上も彼女には役立たなかったと言うよりも男の僕でも知っているメイクのテクニックすら行使していないようだった。

少しは

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小説 大富豪夫婦

小説 大富豪夫婦

カードの枚数は五十二枚、そこにモノクロとカラーのジョーカーを一枚ずつ足して、全部で五十四枚、これだと我々二人には多すぎるので十八枚適当に抜いてしまう、残った三十六枚を二等分して決戦が始まる。

僕は妻と二人暮らしでジャパニーズサラリーマン、それも営業職となると毎日帰りはどうしたって遅くなってしまう。それでも好きでしている仕事だからきつい部分もあるとしても日々一生懸命働いている。
昭和の男ではあるが

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アナーキーインザCB

大体あの池田にリリックのセンスなんかある訳ない。俺は田村君の提案を却下しようとした。
いつも通り、俺が詞を書けばいい話だ。
でも、このバンドに新しい風を入れたいなんて、田村君が言い出すとは思わなかった。
「最近、マンネリじゃない?世界がどうしたとか君と会えた奇跡とかって歌詞ばっかでさ。池田さん歌詞とか興味ないの?」
田村君は毒舌だ。きついことを平気で言う。池田の歌詞にも平気で駄目出しすることだろう

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小説 岐阜とベルちゃん

何回も失敗し、やっと召喚した悪魔ベルゼブブは薄黄色の体に真っ赤な複眼を持っていた。

晶子は想像していたのとは違うタイプの悪魔が現れたことに少し驚いたが、悪魔界にも都合があるのかもしれないと折角召喚したベルゼブブもどきを肯定的にみようとした。

(これはアルビノ種なのかもしれない、悪魔のアルビノっているのかな。)

じっと体を見つめられていることに気付いたベルゼブブは「何見とんのじゃ。そこの女子。

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