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絶大な神の力による深すぎる因縁

ネタバレなしの感想です。

いよいよ完結です!
一気読みしてしまいました。

陰の仕事として因縁物件の曳家をする建設会社の社長は、必ず42の厄年に亡くなるという。
代々続くその因縁を断ち切るために、霊感が強い主人公の春菜はなが、その難題に挑む物語です。

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このシリーズのツボをまとめています。

正直なところ、誰もがカッコ良く決めていて、
そんなにうまくいく?
と、出来過ぎな展開もありましたが、最終的には辻褄はピッタリはまっていて、読後感は気持ちいいです。

10巻の全てを振り返ると、どろどろの恐ろしい話もあり、哀しく切ない話ありで、バラエティーに富んだストーリー設定です。

その中で主人公・春菜はなを含め、回りの登場人物たちの気持ちの変化と精神的な成長を描き、清々しさを漂わせています。

気になる2つのキィワードを調べてみた

読書していて気になるワードが出てくると、調べずにはいられなくなります。
このシリーズも例外ではなく、気になるものを調べてから思い返してみると、ストーリー全体の深さがわかってきました。

審神者さにわ」と「イタコ」の違いは?

主人公春奈はなの霊感とは、単に霊と交信ができるというものではなく、神託を受けて真意を理解する能力を持つ「さにわ」と言うものです。

漢字だと「審神者」と書き、神を審判する者と書きます。
元々は「清庭さやにわ」と書き、神託を受けるために清められた庭の事だったという説が有力です。

しかし、古事記によると、仲哀ちゅうあい天皇の時代には「庭」の意味として登場しますが、その後、君が代伝説にも関与しているという神功じんぐう皇后を通して神託が降りたという記述があり「人」が対象となっています。
また神楽での楽器の演者たちも「さにわ」と呼んでいたという記述があります。

古書を読み解くと、その時その時で、「さにわ」とは人であったり、庭であったりしたようです。

近代の宗教的な意味合いでは、神様や霊との交信でその正邪を判断できる「人」の総称であるという事で落ち着いています。


え??それって「イタコ」の事では??


イタコとは、霊を自分に降霊させて、その思いを人に伝える巫女の事だといいます。

えぇ~。やっぱり同じでは??

さらに調べてみると、こんな記述が出てきました。

巫女は依り代です。審神者さにわは巫女に降りてきた神霊と対話し、真意を見極め、解釈する、いわばジャッジマン「審判者」ですね。 もしそれが低級の神であれば、追い払う役割も担っています。

出典:Yahoo知恵袋


「イタコ」
は神や霊に身体を貸すだけで、そこには自分の意思も解釈能力もない。
「さにわ」は自分の意見や見解が必要で、その真偽を判断した上、邪悪なものなら、やっつけてしまう能力もある。

言い換えれば、
「イタコ」は最後まで責任持たないが、「さにわ」は最後まで責任持つよ。
という事なのですね。


金屋子神とは製鉄の神

前巻から登場する「金屋子神かなやこかみ」。
これは描かれた通りの神なんだろうか?

それとも創作なのか?

それを確かめるために、その正体を調べてみました。

中国地方を中心に、鍛冶屋に信仰される神で一般には女神であるとされる。
各地で金屋子神は自ら村下むらげ(鍛冶の技師長)となり、鍛冶の指導を行ったとされる。

Wikipedia

とあり、実際に島根県の「金屋子神社」はこの神を祀り、なんと全国1200社もある金屋子神社の総本山として、古来よりたたらの職人を中心に大切に信仰され、今も製鉄に関わる様々な人たちが多く参拝しているそうなのです。

さて、この神は、血や死の穢れを好み、たたら炉の周りの柱に死体を下げて火種にすることを村下むらげ達に指導したと言います。
いわゆる「生贄」ですが、その通りに実行すると、良質の鉄が大量に取れるようになったという言い伝えがあります。

この神は嫉妬深く、女性を嫌うため、作業場には女性は立ち入り禁止であり、女性の使ったお湯に浸かる事も許されなかったと言います。

この地域の完全なる男尊女卑の風習は「金屋子神」の嫉妬のせいだったのですね。

確かに本編中にも、主人公がこの「金屋子神社」を訪ねるシーンがありますが、立派な桂の古木に囲まれて立つ神殿の、神聖で荘厳な空気に引き寄せられるような描写を丁寧に書かれていました。

いつか行ってみたいと思う神社です。



たたら製鉄は日本文明の基盤


金屋子神と村下むらげとの共同作業により、不純物の少ない砂鉄から精製されてけらという鉄素材を産み、そこから頑丈な特性を持つ玉鋼たまはがねが取り出されて、日本刀の材料となってきたのです。

このように順を追って考えてみると、
金屋子神の穢れを好む性癖が作用して、世界的にみても一番の切れ味と言われる日本刀を産む事ができたと思うと、妙に納得してしまうのです。


昔、何かの本で、幕末に起こった「生麦事件」の時の死体の描写に戦慄した事があります。

腕を斬られていたのですが、横にスパッとではなく、てのひらから肘にかけて縦にスパッと裂けるように斬られていたといいます。
検視をした他の外国人も、その切れ味の凄さに慄き、驚愕したとありました。

おそらく振り上げられた刀に対して、咄嗟に止めようと手を挙げてしまい、一振りで手と身体を袈裟けさ斬りにされてしまったのでしょう。

「生麦事件」
島津久光が,1862(文久2)年江戸での幕政改革を終えての帰途,東海道生麦村(横浜市鶴見区)を通行中,婦人一人を含むイギリス人4名が騎乗のまま行列の中に入り込みました。この行為は,行列を乱すものとして,薩摩藩士の激しい怒りをかい,イギリス人3名が殺傷された事件

出典:鹿児島県HP

世界中の刃物の中でも、あのサイズで、そこまでの切れ味のものはなく、
それを思うと、日本刀は神と人間が生みだした日本古来の最高傑作と言えそうです。


たくさんの炭を使うため、森林を焼き尽くし、場所を変えて、また焼き尽くし、そうやって代々神と手を取って鉄を産み続け、刃物にとどまらず、製鉄は発展をし続け、現代に至るまで文明を支えてきたのです。

製鉄方法を知らなかったら、文明は未発達のままで、今と違ったものになっていたでしょう。

難しい性癖はあったとしても、製鉄をもたらした「金屋子神」は文明の神様とも言えるのです。



大昔に読んだ司馬遼太郎の「街道をゆく」の~砂鉄のみち~もう一度読みたくなりました。
当時は理解できなかった事が、今ならわかるような気がしてきました。


「よろず建物因縁帳シリーズ」は全10巻もありますが、一気読みしてしまいます。
怖いけど、先が知りたくてやめらません。

後になって、過去の事件の事がポツポツ出て来ます。
というのも、1巻ずつメインの話は完結していますが、バックボーンの話はずっと続いているからで、できるだけ最初から順番に読むことをお勧めします。


(1)鬼の蔵 【かくれんぼが怖い!】
(2)首洗い滝 【深い夫婦愛が成した恐ろしい事実】
(3)憑き御寮 【怨霊となったあまりにも辛い理由】
(4)犬神の杜 【逃れられなかった宿命を断ち切った姿に泣ける】
(5)魍魎桜 【一途な思いが恐ろしい怨霊となる】
(6)堕天使堂 【海外の悪魔VS日本の神】
(7)怨毒草紙 【業を込めて血で書かれた絵の祟りは恐ろし過ぎる】
(8)畏修羅 【いよいよ核心に触れる行動を起こす】
(9)蠱峯神 【ラストが意味深で超かっこいい!】





先週もお祝いをいただきました、いつもありがとうございます!




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