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aki先生インドネシアの生活を学ぶ

ジョグジャのホームステイ先に着いた翌朝は、朝4時のモスクから聞こえる祈りの声と様々な鳥の声で目が覚めた。一番鶏より早く、平屋建ての母屋の私の寝室の屋根に降りた鳥の足音とさえずりとか、まだ雨戸を閉めたままのその寝室で横になって白み始めた外の様子に耳を澄ませた。

緑深い大地やところどころに雲を突き抜けてそびえる3000m級の山々を眼下に観ながら、ジャカルタから1時間を双発のプロペラ機でジャワ島の東、ジョグジャカルタ市へ仲間6名とともに飛んだ。

ジョグジャに来たのは、ホームステイしながら現地の生活に慣れ、ステイ先の家族とインドネシア語を使って会話しながら、同時に通う語学学校での教育効果を高めるためだ。日本人の学生だけではなく、いろいろな国の学生を受け入れているから、学校のスタッフもホームステイ先の家族も、JICAボランティアのことをだいぶ理解していて大変良くしてくれる。

清潔にベッドメイクされたシーツの上に、チラリと糞を落としたのが天井にいる小さなヤモリだと知らず、鳥がいて糞をすると騒いでホストマザーに取ってもらった。いちいち大袈裟になることで、こういう生活を子供の時以来していないために、家に住み着くいろいろな生き物に過敏過ぎている自分の自然感覚のズレを思う。子どもの頃はびっくりさせて逃げるのが面白くて追いかけたヤモリを…だ。ヤモリはまた夜泣きもすると初めて知った。

テレビのない田舎家では、時間がゆっくり過ぎる。インドネシア語をマンツーマンで指導を受けてステイ先に戻ると、夕方4:30ごろなのだが、まだ薄化粧を落としていないマザーがニコニコしながら、今日の勉強はどうだった、今日は何について言葉を覚えたか、と聞いてくれる。様々な鳥の声や近所でガムランやワヤンの謡いの練習をする声、庭師の水遣りの音、徐々に虫の声が聞こえてくる。6:00に「夕食の準備ができていますよ」と平日住み込みの調理師の女性が呼びに来てくれて宿題の手を止め、敷地内の風通しの良いテラスのあるレストランへ行くと、マザーがディナーのセットされたテーブルへ案内してくださる。いつもカトリックのご主人とマザーと私がめいめい短い祈りを捧げた後、3人で話しながら夕食をとる。レストラン兼ダイニングは伝統的な装飾の調度品を備えていて、メニューも置いていないし昼はどうしているのかわからないが、平日夜は客のあるときに調理する非積極的営業だ。インドネシア人に言わせると辛いものは全くダメな私のために、別な小皿につけてくれたサンバルを、ダメ元で試してみよ、とご主人がからかって勧め、無理無理と手を振ると大笑いされる。最初の夜はソト・ブタウィというココナッツミルクで煮込んだ牛のスープを出してくださったが、すでに出汁味と塩胡椒は十分で、私にはご飯一杯いただけるほどのおかずだ。インドネシア人は少し塩分過多ではなかろうか。マザーは細やかに気を遣る方で、インドネシアに来てすでに何を食べたか聞きつつ、私の好みを汲み取っては調理師に調整を指示してくださっているようだ。2日目の夕食はたぶんインドネシア人にはやや薄味、私にとっては水を飲み飲み流し込まなくて良い優しい味のナシゴレンとパパイヤだった。

私は果物が大好きで、高級化してなかなか思い切り食べられない日本と違って、新鮮なものが安いし種類も多いインドネシアでは毎日食べ放題、3食の後にはいつも果物のデザート付きで、別途スイーツを食べたいという気持ちにならない。パン食ではないこの家で私1人のために埃を被っていたトースターを出して来てくださった。夫妻は東京や長崎、ヨーロッパにも旅行したことがあるようで、いろいろ出すより、食べやすいものを、と考えるようだ。

勉強していると、マザーがお茶を淹れて、獲り立てを茹でた落花生を山盛りに盛って持ってきてくださった。まだ湿った殻を剥くと白い身が出る。ピーナッツというより枝豆を食べる感じが懐かしく、つい食べ過ぎて夕飯はせっかくのじゃがいものコロッケがお代わりできなかった。

ジョグジャ出身のステイ先のご夫妻は15年前、ジャカルタからUターンして来た。ご主人はもとガス会社に勤めていたが今は66才で2人の娘さんは結婚してジャカルタとスマトラにそれぞれ家族と住んでおり、だいぶ余裕のある様子の熟年カップルだ。最初は畑だった土地を買って、いろいろな構想のもと、いくつかの建物を建てた。平屋建ての母屋以外に、ガムランの練習場、オープンテラスのレストランと小さなカフェ、小さな学生寮の棟、鶏小屋、餌小屋、そして庭にはグアバ、パパイヤ、マンゴー、ジャックフルーツなどたくさんの種類の果物の木々を育てている。自然派の夫妻は、プロジェクトが好きで、今はバリに近いジャワ島の東端の景勝地に絶景カフェを開く準備に胸を膨らませている。

夜はジャカルタからご主人が娘夫婦から孫娘を預かって帰って来たので、食後に少し遊んでもらった。少しシャイで礼儀正しい可愛いジャカルタに住むそのお孫さんの名前は、ラテン語のめでたしという意味のフェリ、絵を描くのが好きな8歳だ。私のiPadproにApplepenで好きなように描いてもらった。少し大人びた色使いでお休みの間の思い出の風景を描くのに、感覚でアプリの使い方を理解して躊躇なく筆と色を選んで組み合わせて表現して見せる。聡い子だ。サインもしてね、頼むと上の方に名前を書いてくれた。彼女のおばあちゃんであるマザーの携帯にメールで送ったら相好を崩したことは言うまでもない。LINEをやっている本人にも添付で送ったら、Terima kasih.(インドネシア語でありがとうございます)と返事が返って来た。インドネシアに初めての小さな可愛い友達ができた。めでたし。



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