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まるで凍えるように寒いフィンランド人のジョーク

先日、Aki Kaurismäki(アキ・カウリスマキ)監督の新作映画「Kuolleet Lehdet(邦題: 枯れ葉)」を観た。
普段は専らフランス映画専門、その次辺りにポーランド映画、戦争映画と続く私の好みとは少し違うが、仕事始めまでに1日休みが残っており、家にいるのはもったいないから映画三昧にしよう、と決め、立て続けに2本観たのだ(率直に言うと、もう1本が本命で、そちらについては色々と他のエピソードも加えて語っている)。

ちなみに1度、1日に3本を3館の映画館を梯子して観た後、熱を出したことがあり、それ以来は1日2本まで、と決めている。

なんだか大昔、小学校の低学年の遠足で、「おやつはいくらまで持って行っていいですか?バナナはおやつに入りますか?」と言っていたレベルと近しいものがあるが、制限しないと絶え間なく映画を観る癖があるので(勿論、パリの映画館のように選択肢が豊富ではないから、1日に2本以上観たい映画があることはまずないが)、私にとってはおやつと映画は似た部類に入るのだ。

さて、肝心の映画に話を移そう。
まずはポスターと日本語字幕付きTrailerと公式サイトを載せておこう。

ポスター: Kuolleet Lehdet(枯れ葉)

孤独さを抱えながら生きる女と男。ヘルシンキの街で、アンサは理不尽な理由から仕事を失い、ホラッパは酒に溺れながらもどうにか工事現場で働いている。ある夜、ふたりはカラオケバーで出会い、互いの名前も知らないまま惹かれ合う。だが、不運な偶然と現実の過酷さが、彼らをささやかな幸福から遠ざける。果たしてふたりは、無事に再会を果たし想いを通じ合わせることができるのか? いくつもの回り道を経て、物語はカウリスマキ流の最高のハッピーエンドにたどりつく。

日本語の映画公式サイトより

カウリスマキ監督の大ファンであれば、過去の作品との対比もできたであろうが、前述したとおり、北欧映画にはあまり詳しくないので(イタリアではあまり放映されない。強いて言えば、北欧五カ国の中で一番放映率が高いのがアイスランド映画だと思う)、その辺はスルーしておく。ただ、ジョークが寒いのなんの、しかし日本人にとってはグフッと笑える感じなので(イタリアンジョークは3流のばかばかしさがあってついていけない)、自分の記憶に残すのためにNoteに書き残しておこうと思う。

例えば、、、
-アンサとホラッパが初デートをする映画館で観た映画がJim Jarmusch監督のゾンビ映画「The Dead Don't Die」で、アダム・ドライバーがゾンビをぶった切っているシーンをアンサが真剣に眺めており、その後、ホラッパがアンサに「面白かった?」と尋ねると、「えぇ、凄く面白かったわ」と真面目に答えていたり(普通は初デートでゾンビはないだろう)

-他の観客が、「これはBressonの○○っていう映画に似ているぜ」とか「Godardの△△にも匹敵するな」的なことを言いながら映画館から出てきたり(もしかしたら逆だったかもしれないが、そのような発言がされていた)

-道に捨てられていた犬を飼い始めたアンサが付けた名がChaplinだったり、
と監督の映画愛が満ち満ちていたり、

とあるバーのシーンでのホラッパと同僚のやりとりで
ホ: 飲みすぎて鬱になる
同僚: じゃあやめればいいのに
ホ: 鬱だから飲むんだ
と結局は飲んだくれを止められない発言をしてみたり、

ホラッパがアンサの家に向かう途中、トラムに轢かれて入院するシーンがあるのだが、退院時に看護師が元夫の服をホラッパに差し出したシーンで
(おおよそ下のような会話だったが、邦訳は少し違うかもしれない)
ホ: 悪いね、いつか返しに来るよ
看: いいわよ、もう必要ないし
ホ: だっていつか取りにくるかもしれないだろう
看: 会いたくなくて鍵を変えて入れなくしたから、服は必要ないのよ、だから返しに来なくていいわよ

と兎に角、ちりばめられているジョークが、大声ではなく声を潜めて笑えるタイプばかりで、さすが寒い国のジョークだな、日本のやりすぎなお笑いにもある意味相通じる部分があるな(海外在住が長くなり、帰国時に稀にお笑いを見ると、私にとってはもはやそれは"笑い"ではなく、陰湿ないじめとしか思えないシーンが多々ある)、と思わされたのだった。

最後に、寒くない話を一つ。
映画内で使われている二人組の美女の歌声がとてもよかったので、ここで紹介を。MAUSTETYTÖT(フィンランド語で"スパイス・ガールズ"の意味をもつそうだ)というヘルシンキ在住の姉妹からなるバンドだ。
よかったら聴いてみてほしい。

日本でのこの映画の公開はイタリアよりも少し早い12月の中旬のようだが、もしかしたらまだ映画館で観られるのかもしれない。
もし興味のある方は、寒い冬に涼しいジョークを聞いて、その後にあったかいお汁粉でも食べてはいかがだろうか。




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