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書評

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2020年2月の記事一覧

吉田修一(2019)『橋を渡る』文春文庫



秀作です。少し長いですが短い期間で読むことが出来るといいかもしれません。日常の何気ない選択が、未来を変えるという当たり前のことを改めて痛感させられます。

選択は社会の大きなうねりとも成り得るし、個人の人生の些細などこかを変えるだけで終わるかもしれません。しかしその数多あるこの世界の選択が、我々の将来を形作っていくことに小さな想像力と責任感を持ってくれたらと思ってしまいます。未来が、幸せなもの

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奥田知志・茂木健一郎(2013)『「助けて」と言える国へ』集英社新書



あえて言えば、まだ東日本大震災が人々の関心をくすぐっていた頃、その時代の社会を題材にした知識人の対談本。面白いのは震災の前と後、変わらないものと変わったもの、それを比較できる貧困支援の継続的活動家がいること。

少し前のこの時代から、いや、本当はもっともっと前から言われてきたことのはずなのに、2020年代に突入した今なお解決されていない問題がこれ。
関係性の貧困!関係性の貧困!関係性の貧困!!

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白石一文(2019)『僕のなかの壊れていない部分』文春文庫



何でも卒なくこなせて、どこかこの世の真理を分かった気でいて、誰かの生き方に勝手に論評を加えている。情動とかいうものから距離を置いていて、理性的であることを大切にしている。他人を心の底からは尊敬していない。

自分の考えは正しいと思っている。間違った生き方をしている人のことが何故だか気になる。出来れば皆に幸せになってほしいのに、自分が一番不幸だと思われてしまう。唯一壊れてないとしたら、それはきっ

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首藤信彦・鳩山友紀夫(2019)『次の日本へ』詩想社新書



国民が共に、手を携えて、お互いを認め合って、望むべき正しい姿=共通善を実現しようと共和主義を唱える本。参考になる部分もあるが、この手の類の本を読む際に気を付けなければならないのは、理想や目標という明るい部分に共感できるからといって、彼らが当座の敵と見なすものや改革の矛先という主張の暗い部分を無批判に受け入れてはならないということ。

政治は中道に寄ると言われる通り、我々人間の望む理想の世界なん

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石田衣良(2016)『水を抱く』新潮文庫



誰に愛されるはずもない、淫乱で奔放な一人の人間を幸運にも真っすぐに見つめることが出来た若い男の子の物語。きっと誰もが持っている”まじめ”な部分は、一生に一度しか使えない劇薬のようなもので、使うには勇気のいる代物なのだろう。

内面の青く清らかな部分はどんな人間にもある。それをあなたに見せていないからといって、愛すべき人ではないということにはならない。この世のどこかに、その人の花の咲く秘境を目の

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