積算評価とは? 複数の不動産に投資したい人が知っておくべき融資の話


マンション経営を行う場合は、金融機関から融資を受けながら行うのが一般的ですが、何を基準に融資額を決定しているのか気になったことはありませんか?

自身の収入やマンションの利回りなどを基準にしていると思っている人が多いかもしれませんが、金融機関が基準にしているのはマンションそのものの価格を算出する積算評価であると言われています。
特に、複数のマンションを投資したいと考えている人にとって融資をいくら受けることができるのかは重要です。今回は、積算評価が一体どのようなものなのかについて見ていきましょう。

1 不動産の価値を算出する3つの方法

不動産は、家電製品などのような動産とは異なり、同じものは2つとないため、それぞれの価値は不動産ごとに異なります。
金融機関が不動産投資を行う人に対して融資を行う場合には、返済が滞っても融資を回収できるような状態にしておく必要があります。そのため、金融機関は、融資を行う不動産に抵当権を設定して担保として押さえておきます。
しかし、担保として押さえておくといっても、融資を行った不動産の価値が低かった場合は、売却しても融資額を回収できない可能性があるため、不動産の価値をしっかりと判定して融資額を決定しなければなりません。不動産の価値を算出する方法として代表的なものとして以下の3つが挙げられます。

収益還元評価
積算評価(原価評価)
取引事例比較評価

それぞれどのように算出しているのか、またどのような場合に用いられるのか見ていきましょう。

1-1 収益還元評価
収益還元評価とは、不動産から得られる地代や家賃といった収益を将来にわたって算出し、それを現在の価値に置き換えて算出するという方法です。
例えば、マンション経営を行う場合に、同じ物件価格で、利回り5%と利回り8%の物件があったとすると高利回りである利回り8%の物件を選んだ方が、家賃収入が多いことになるため、物件の価値も利回り8%の方が高いことになります。
アパートやテナントビルといった投資物件の評価額の算出には収益還元評価が用いられますが、自分が居住するための建売住宅や分譲マンションの場合にはあまり向いていません。また、将来的な空室の増加や経費などで家賃収入が減少することを考慮していないため、価値の変動が生じる可能性があるというデメリットがあります。

1-2 積算評価(原価評価)
積算評価(原価評価)とは、同様の不動産を再度購入するとした場合に、いくらで購入することができるか算出し、そこから経年劣化などによって価値が下がった分を差し引くことによって、現在の不動産の価値(積算価格)を算出するという方法です。
土地付き建物の評価額を算出するには有効な算出方法ですが、土地のみの場合にはあまり向いていません。

1-3 取引事例比較評価
取引事例比較評価とは、積算評価や収益還元評価などの評価方法とは異なり、その不動産の価値を直接算出するのではなく、近隣の不動産の取引事例などを基準にして評価額を算出するという方法です。
取引事例比較評価には地域の相場を反映させることができるというメリットがありますが、近隣の取引事例が適正価格なのかどうか調べる手間がかかります。不動産を売却価格を設定する際の参考価格の一つとして、使用されることが多い評価手法です。

2 融資額の上限は積算評価が基準

不動産の評価額の算出方法には、積算評価・収益還元評価・取引事例比較評価の3つがありました。
収益還元評価は、投資物件としての価値を算出することはできても不動産としての価値を算出できているとは言えません。また、取引事例比較評価は、投資用物件の価値を算出することには向いていません。
そのため、金融機関が融資の上限を決定する場合には、返済原資が家賃収入になるため収益還元評価も考慮しますが、返済が滞った場合には不動産を売却して現金化する必要があるため、不動産本来の価値を算出する積算評価を基準にします。

3 積算評価の算出方法

積算評価は、不動産をもう一度調達する費用から経年劣化などによる価値が下がった分を差し引くという算出方法でしたが、具体的には土地と建物に分けて価値を算出する必要があります。土地の価格と建物の価格の計算方法は以下の通りです。
土地の価格
路線価×土地の広さ(平米)
建物の価格
再調達価格×延べ床面積×残存年数÷法定耐用年数

それぞれの価格の求め方の詳細について見ていきましょう。

3-1 土地の価格の算出方法
土地の価格
路線価×土地の広さ(平米)
路線価とは、国税局によって定められている道路に面した宅地の評価額のことで、その年の1月1日時点の土地の価格が7月に公表されます。土地の価格は路線価を基準に算出されますが、用途地域によって下記のような価格調整が入ります。
用途地域
掛目
商業地域
+10%
第一種住居地域、第二種住居地域、準住居地域
価格調整なし
第一種中高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域
-10%
第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域
-20%
準工業地域、工業地域
-30%
工業専用地域
住居の建築不可

また、これらの用途地域による価格調整のほか、道路との接道面積が広いなどの個別要因によって、さらに+30%から-50%といった価格調整が行われます。
例えば、第一種住居地域に路線価20万円/平米の土地が100平米あったとすると、土地の価格は20万円×100=2,000万円になります。また、この土地が商業地域である場合には、掛目を反映させる必要があるため、20万円×100×1.1=2,200万円ということになります。
なお、マンションの場合は、マンション全体の土地の価格を求めてから自分の部屋の価格を求めるため、計算式は以下の通りになります。
マンション全体の土地の価格×専有部分の面積÷マンションの延床面積
例えば、商業地域に路線価20万円/平米の土地が1,200平米、専有部分の面積が60平米、マンションの延床面積が6,000平米あったとすると、1室あたりの土地の価格は20万円×1,200×60÷6,000×1.1=264万円になります。このようにマンションの場合は積算評価における土地の価格が低くなりやすいという特徴があります。
3-2 建物の価格の算出方法
建物の価格
再調達価格×延べ床面積×残存年数÷法定耐用年数
再調達価格とは、建物をもう一度新築する場合の価格のことで、建物の構造によって価格が異なります。構造ごとによる平米単価は以下の通りです。
<建物の構造>
平米単価
鉄筋コンクリート(RC)
鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)
20万円/平米
重量鉄骨
18万円/平米
木造
15万円/平米
軽量鉄骨
13万円/平米※金融機関によって多少の前後があります
再調達価格は、あくまでも新築する場合の価格であるため、現在の価値を求めるためには、法定耐用年数からどのくらいの年数が経過しているのかという経年劣化による減額を反映させる必要があります。構造ごとによる法定耐用年数は以下の通りです。
建物の構造
法定耐用年数
鉄筋コンクリート(RC)
鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)
47年
重量鉄骨
34年
木造・軽量鉄骨
22年※金融機関によってRCの耐用年数を40年で計算する場合があります
例えば、築年数20年、延床面積200平米のRC造の建物があったとすると、建物の価格は20万円×200×(47-20)÷47=約2,298万円となります。築年数をかけるのではなく、残存年数をかけるという点に注意が必要です。なお、マンションの場合は延べ床面積が専有面積に変わるだけなので、大きく計算結果が変わることはありません。
4 積算評価の例
土地の価格と建物の価格の求め方はそれぞれ分かりましたが、これらがどういったことを意味しているのでしょうか?
以下のようなアパートとマンションの1室を運用する場合で比較してみましょう。
<中古アパート>
土地
200平米
路線価
20万円
用途地域
商業地域
構造
RC
築年数
20年
延床面積
400平米
このアパートの積算評価を行うと、土地の価格は20万円×200×1.1=2,200万円、建物の価格は20×400×(47‐20)÷47=約4,596万円になります。土地の価格と建物の価格の合計は約6,796万円になります。アパートの購入にあたって積算価格より高い金額分については、融資の際に自己資金の拠出が必要となる可能性があります。

<中古マンション>
土地
1,200平米
路線価
20万円
用途地域
商業地域
構造
RC
築年数
20年
専有面積
60平米
延床面積
6,000平米このマンションの積算評価を行うと、土地の価格は20万円×1,200×60÷6,000×1.1=264万円、建物の価格は20×60×(47‐20)÷47=約689万円になります。土地の価格と建物の価格の合計は約953万円になります。アパートの例と同様に、このマンションを購入するにあたって積算価格より高い金額分については、融資の際に自己資金の拠出が必要となる可能性があります。アパートよりも購入価格は低いものの、積算価格との乖離率はマンションほうが大きくなりがちですので、路線価の低い郊外・地方や残存年数の少ない築古物件は自己資金を求められるケースが多くなると考えられます。
アパートの積算価格とマンションの積算価格を比較すると、マンションの積算価格が低いことが分かります。マンションは延べ床面積に対する1室の占める面積が小さくなるため、土地の価格が低くなってしまいます。また、マンションは共用部分に対する費用も購入者が負担するため、積算価格よりも価格が大幅に高くなってしまいます。
仮に、金融機関がこの積算価格を基準に融資の上限を算出していたとすると、マンションの価格が2,000万円だったとしても約953万円しか融資を受けることができず、半分以上の自己資金が必要になってしまうため、特に複数棟の運用を検討している人の場合には、想像していたよりも融資を受けることができない可能性があるので、注意しましょう。

5 まとめ
不動産の評価額を算出するには、以下の3つの評価法がありました。
積算評価(原価評価)
収益還元評価
取引事例比較評価

金融機関が融資額を決める場合は、収益還元評価による不動産の運用利回りもある程度は考慮しますが、不動産そのものの価値を求めることができる積算評価が用いられることが多くなっています。
しかし、マンションの場合は、延床面積に対して専有面積が小さくなってしまうことから、積算価格が低くなってしまいます。積算価格が低いにも関わらず、共用部分に対する費用も購入者が負担するため、実際の購入費用は積算価格よりも大幅に高くなってしまうという点に注意が必要です。
特に築古の中古マンションなどは利回りの良いものの、積算価格を基準にすると融資額がほとんどつかないというケースもあるため、自己資金の拠出が多くなってしまいます。マンション2戸以上に投資を検討している場合には、一件目の物件で路線価の高い人気エリアの新築マンションや築浅のマンションなどを検討し、2戸目以降に利回りの良い物件を検討してみてはいかがでしょうか。

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