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まなかい ローカル72候マラソン

71
まなかい… 行きかいの風景を24節気72候を手すりに 放してしるべとします。                                        万葉集        … もっと読む
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まなかい;大雪 第72候 鶏始乳(にわとりはじめてとやにつく)

まなかい;大雪 第72候 鶏始乳(にわとりはじめてとやにつく)

71候から続く。

一緒に笑ったその犬は、2度と暗い家には入らなかった。

家の並びに芝地があって、そこに立って、真っ直ぐに丘の向こうを見つめている。白い秋田犬と芝犬を合わせたような雰囲気の日本犬に姿が変わっていた。

大きな堂々とした白い胸を張って、光っている。

何を見て居るの?と聞いても、じっとそちらを見つめたままだ。黒い瞳でじっと見つめるその先。

さっきは二人で夕日を見ていた丘。そちらを

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まなかい;大寒 第71候・水沢腹堅(さわみずこおりつめる)

まなかい;大寒 第71候・水沢腹堅(さわみずこおりつめる)

深層意識に棲んでいるかつての自分に、会いにいった。

僕は前世のどこかで犬だったというので、いつか見たことのあるビジョンを伝えると、それだという。

草原の丘に建つ一軒家の木の家で、暗い部屋の中からずっと明るい緑の草原と、光を見ている。大きな毛足の短い白い犬で、傍に大きい木のテーブルの脚が見え、赤っぽいペルシャ絨毯のような敷物の、多分上に寝そべっている。その視点で、開いた扉の向こうをじっと見て

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まなかい;大寒 第70候・款冬華(ふきのはなさく)

まなかい;大寒 第70候・款冬華(ふきのはなさく)

款冬華(ふきのはなさく)の「款冬」とは、本来「フキタンポポ」のことで、いわゆる僕たちが蕗味噌にする蕗とは違うらしい。中国には日本で「蕗」と呼ばれる植物はもともとないそうなので、この字も本来は甘草の一種を指すそうだ。「蕗」の漢名は「蜂斗菜」となっている。こうなると、漢字でどう表記したらいいかわからなくなるけれど、僕たちが蕗味噌にしたり、葉柄を食べる「フキ」は、ヤマウドやニラ、ミツバ、セリなどとともに

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まなかい;小寒 第69候・雉始雊(きじはじめてなく)

まなかい;小寒 第69候・雉始雊(きじはじめてなく)

青山のビルの屋上改修工事が始まって二日目。寒中だというのに、春のような日だった。都会の空は霞がかっていた。

こんな春めいた日なら、早くも雉は鳴くかもしれない。こんなビルの荒野には鴉が舞うくらいしか見えないが、この辺りも武蔵野と呼ばれた頃には鳴き声が響き渡っていたかもしれない。かつては多摩丘陵などで狩りをすると、明治の頃は3日間の猟で1500羽以上獲れたそうだ(中西悟堂『鳥を語る』より)。

繁殖

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まなかい;小寒 第68候・水泉動(しみずあたたかをふくむ)

まなかい;小寒 第68候・水泉動(しみずあたたかをふくむ)

「寒中丑紅」… 本紅は寒中の冷たい清らかな水で作られるものが良いとされた。寒中の「丑の日」に作られたものが特に薬効が高く、唇の荒れに効果があるとか、口中の虫を殺すなどと評判が立っていた。紅は唇を彩るものだから、舌で触れるなどして体内に入りやすい。紅花から抽出された本紅であれば、むしろお薬となる。お猪口に刷かれた紅の表面は玉虫色。薬指や筆で濡らすと、ふわっとほどけて赤となる。

小寒から数えて九日目

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まなかい;小寒 第67候・芹乃栄(せりすなわちさかう)

まなかい;小寒 第67候・芹乃栄(せりすなわちさかう)

(写真は農文協の『暮らしのなかの花』より)

芹といえば春の七草。

競り合うように密生するから「せり」だといろんな書物を捲ると書いてある。白根草とも。

今日は新暦一月七日。「人日の節供」。「若菜の節供」ともいう。春の七草を刻んだお粥をいただく。春の七草は「芹、薺(なずな)、御形(

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まなかい;冬至 第65候『麋角解(しかのつのおつる)』

まなかい;冬至 第65候『麋角解(しかのつのおつる)』

鹿に憧れる。

頭に2本も「木」が生えているから。

きっと角は依代。アンテナ。

そういえば、門松は一対だ。

赤坂氷川神社に奉納させていただいた「花手水」は、お正月らしくということで、横に渡した竹に一対の竹の器を立て、苔のついた槇、松、白梅を挿した。苔の生えた槇の古木はちょっと威厳のある角にも見える。松は千代の命を寿ぐ。

鹿の角は木にそっくりだから、あの角に花が咲き、葉っぱが生え、実がなった

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まなかい; 冬至 『第66候・雪下出麦(ゆきわたりてむぎいづる)』

まなかい; 冬至 『第66候・雪下出麦(ゆきわたりてむぎいづる)』

冬至から1週間ほど経って、斜めに挿し込む陽光が透かす樹影が揺れるのを見るともなく見ていた。ちらちらゆらゆら陽炎のような動きは止むことはない。光と風の永久運動に見惚れているうち、冬至でしばししんとした命がもう動き出している、そんな小さな音が波が寄せるように聞こえてきた。

今年の大晦日は、都心から出ていない。とても静かだった。電車が深夜走っていなかったこともあったが、外出を控える人が多かったのだろう

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まなかい;冬至 第64候『乃東生(なつかれくさしょうず)』

まなかい;冬至 第64候『乃東生(なつかれくさしょうず)』

「優しく癒す」が花言葉の乃東。「夏枯草(かごそう)」「靫(うつぼ)草」「空穂草」、5月頃から咲いてくるので「郭公草」など、複数の名を持っている。

この草は、夏至の初候と冬至の初候として名があり、生死一対で表されている。

冬の極まるとき、夏の極まるとき、それぞれでその生と死を思い遣る。日の光が最も弱まるとき、この草は夏の草原の輝きを秘めて既に震えはじめ、夏の極まった風の渡る草地では、花の跡がカラ

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まなかい; 大雪  第63候 『鱖魚群(さけのうおむらがる)』

まなかい; 大雪 第63候 『鱖魚群(さけのうおむらがる)』

「母川回帰」というそうだ。

鮭の仲間が生まれた川の匂いを覚えていて、三年以上回遊した海から生まれた川に戻ること。それは最後の旅で、多くの種類は生涯に一回だけ放精あるいは放卵して死んでしまう。

渡鳥とか、海亀の産卵など、そうした母なる場所へ帰ってくるセンサーというのは、地球の律動のままに生きている彼らならきっと特別なことではないのだろう。

震災後はじめた「めぐり花」は、花の連句。

上の句とし

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まなかい;大雪 第62候「熊蟄穴「くまあなにこもる)」

まなかい;大雪 第62候「熊蟄穴「くまあなにこもる)」

平安時代から江戸時代まで長く使われた唐の時代の暦「宣明暦」では「虎始交(とらはじめてつるむ)」だったそうだ。日本には虎はいないから、身近な熊の生態に目を向けたのだろう。

都会でも、早い春にお庭や畑の手入れをすると、冬眠中の蜥蜴や蟾蜍の穴を開けてびっくりすることがある。変温動物の彼らはほぼ仮死状態で動けないので「あ、ごめん、、、」とそのまま元に戻して、なんとなく後から思い出して申し訳ないと思いつつ

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まなかい;小雪 第60候『橘始黄(たちばなはじめてきばむ)』

まなかい;小雪 第60候『橘始黄(たちばなはじめてきばむ)』

橘は伝説の木。

徐福伝説は各地にあるし、垂仁天皇は田島守にこの実を探しに行かせたという。

別名は「非時香具実(ときじくかぐのこのみ)」。

橘は『夏は来ぬ』でも「橘の香る 軒端の」と歌われ、

太陽エネルギーをたくさん吸い込んだ果実も香り高く、また輝くような色だ。

だから「かぐのこのみ」の「かぐ」にはおそらくその二つの意味、かぐわしいと、かがやくを併せ持っていることだろう。

仙境に生えると

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まなかい;大雪 第61候『閉塞成冬(そらさむくふゆとなる)』

まなかい;大雪 第61候『閉塞成冬(そらさむくふゆとなる)』

天地の気が塞がっていよいよ冬。

そういえば車の暖房を入れるようになった。車は鉄の箱でよく冷える。

灰色の雲が低く垂れ込める日が増えた。光は低くなり、熱量が減る。

斜めの光はまだ落ちきらないもみじした葉を透かす。きれいではあるけれど、本来の紅葉の輝きとはちょっと違う。それでも半ば透き通った儚げな色は慰謝になる。

先はなかなか見通せないが、植物のように粛々と何も諦めることなく、静かな冬の眠りを

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まなかい 小雪 第59候「朔風払葉(きたかぜおちばをはらう)」

まなかい 小雪 第59候「朔風払葉(きたかぜおちばをはらう)」

樅の木を一本買った
毎年ご依頼くださるお客さんのところへ運んで飾り付けをするのだ。

植木問屋さんの樅の木置き場の横には大きな欅が何本か立っていて、樅の木も落ち葉にまみれて、懐のある樅の枝の間にも積もっている。
それも素敵なので、そのまま枝折って包んでもらう。

一晩車に積んでおいて翌朝納品に出発するとき、助手席前のダッシュボード上で動くものがあった。
背中にたくさんの落ち葉を載せた小さな虫が這っ

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