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算定と検証の実際

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躓きやすい算定ルールや検証の現場の話を紹介します。
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追加性(Additionality)を理解しよう

皆さん、「追加性(Additionality)」という用語はご存知ですか? J-クレジットの実施規定において「プロジェクトが満たすべき要件」の一つとして挙げられていますので、クレジットに携わったことのある方なら、当たり前の概念ですよね。 何も国内に限ったものではなく、国際的な概念であり、ボランタリーなGHG排出削減プログラムを推進する非営利団体のICROA(International Carbon Reduction & offset Alliance)は、認証可能なクレ

クレジットと証書の違いを押さえておこう(3)

これまで、2回に亘って、「クレジットと証書の違い」による、取り扱いの相違についてご案内してきました。 最終回は、温対法における報告方法及び証書の購入方法について、簡単に説明しておきたいと思います。 SHK制度で想定している証書は、非化石証書、グリーンエネルギーCO2削減相当量(グリーン電力証書及びグリーン熱証書)です。 温対法の報告では、「第5表の2」に国内認証排出削減量にかかる情報を記入します。グリーンエネルギーCO2削減相当量の例がこちら。 ただ、省エネ法に基づく

SSBJオープンセミナー(1)

3月7日に開催されたSSBJのオープンセミナー、参加してきました。 3月末に、日本版S1・S2の公開草案発表を控え注目が集まっていたことに加え、リアルのみの開催だったこともあり、300人の枠はあっという間に埋まったとか。後日アーカイブ配信を予定とのことですが、やはり、いち早く情報を入したいですよね。 これについては、冒頭の川西SSBJ委員長の趣旨説明で「人数を読み違えた」と謝罪されていました。いずれにせよ、これから毎年、この時期に開催されるとのこと。来年は、確定基準の公開

クレジットと証書の違いを押さえておこう(2)

前回は、カーボン・クレジットと証書違いの、根本的なところをご案内しました。「まずは違うと言うことを知っておいて下さいね」と。 1回目はこちらです。 ただ、理屈ではそうだと思うのですが、個人的には、「高品質なクレジット」であれば、積極的に購入してほしいと思っています。 というのも、バリューチェーン内であれば、製品開発や購買行動、取引先へのエンゲージメント等を通じて、全体の排出削減を図ることができます。 しかしながら、バリューチェーン外では影響力を及ぼすことができないとこ

審査?検証?どうちがうの?

審査(Audit)と検証(Verification)に違いを認識して使い分けている人は、どれくらいいるのでしょうか。ISOの方が歴史がないため「審査」の方が馴染みがあり、GHG排出量においても、同じように使っている人が大半だと思います。 質問されることも多くなってきましたので、簡単に説明しておきますね。 最初に、ISOは「審査」であり、GHG排出量は「検証」と称呼することを抑えておいて下さい。 区別・整理の仕方は様々ですが、個人的には以下のように考えています。 ちがい 

算定実務者悩みどころ

算定は毎年行って行きますので、否が応でもスキルは向上していきます。 なので、疑問質問といった悩みどころは減っていくかと思われるところ、実は逆に増えてしまう、といったことを経験している方も多いのでは? というのも、当初は言葉の意味すら分からず、算定ルールも分からず、使用するデータが何か、社内のどこにあるかも分からず、といった「何が分からないか分からない」状態から始まります。 以前からサステナ担当であれば、GHG排出量の算定に限って学んでいけばよいのですが、全くの他部署から配

バイオマス発電の悩みどころ

バイオマス使用によるGHG排出量については、算定ルールによって取り扱いが異なっていることは、皆さんご承知かと思います。 算定した上で別途報告であったり、カーボンニュートラルとしてそもそも算定不要(算定対象外)だったり。 直接排出では、例えばSHK制度では、CH4及びN2Oの対象となる排出活動として「バイオマス燃料の使用」があります。それでなくとも、事業者が「バイオマスを使用している」という認識があるので、必要であれば算定できるところでしょう。 他方、間接排出、つまり電力

ネットゼロとカーボンニュートラリティ(2)

ISO化された「Carbon neutrality」、社内で推進していくためにはまずは基本を抑えておきましょうと、用語の説明を行っています。 前回は、GHGと温室効果ガスの違い、ネットゼロとカーボンニュートラリティの本質について説明しました。 今回は、ネットゼロのムーブメントの発端となった、UNの「Race To Zero Campaign」の定義を参照しつつ、ネットゼロとカーボンニュートラリティの違いを確認していきたいと思います。 「用語集(Lexicon)」を参照し

SHK制度令和6年度報告からの変更点

環境省は、令和4年1月から12月まで、算定方法の見直しについて「算定方法検討会」で議論を行い、令和4年12月中間取りまとめを発表しました。このときは、2回に分けてご案内しました。 これを踏まえた法改正が令和5年4月1日に行われており、令和6年度報告(令和5年度実績の報告)から適用されます。 中間取りまとめには、下記7点の項目が掲載されていました。 実際には、7を除いた6項目について盛り込んだ変更がなされているようです。 マニュアル・様式はまだ旧バージョンで、後日掲載予

ネットゼロとカーボンニュートラリティ(1)

ISO化されて盛り上がる「Carbon neutrality」ですが、サス担の方は社内では専門家ですので、最初に用語を正しく理解しておくことが何よりも重要。算定と同じく、ファクトに基づいてしっかりと把握しておきましょう。 まず、対象としているガスが、CO2だけなのか、温室効果ガスも含むのか。 さらに言うと、温室効果ガスは何を指しているのかという論点もあります。 まず、温室効果ガス(GHGs:Greenhouse gases)については、IPCCは次のように定義しています。

算定のハードルを下げることから始めよう

このブログを執筆しているのは2023年12月上旬ですが、サス担当の皆様だけでなく、環境に関わる人にとって、とりあえずは「take note」しておかなければならない、第28回気候変動枠組条約締約国会議(COP28)が、UAEのドバイで開催されています。 同様に、ビックサイトで毎年開催される「エコプロ」は、今や一般消費者向けのお祭り、都内近隣の小中学生の環境教育の場となっていることもあり、個人的にはこの数年はご無沙汰しておりますが、COPについては、嫌がおうにも注目せざるを得

カテゴリー11を再度考えてみる

回答企業に対して、CDP2024は、大幅な変更が予定されている旨、メールで案内がされていたことは、noteでもご案内しておりました。 公式サイトでもようやく告知がなされましたが、ヘルプセンターという、非常に分かりにくい場所にひっそりと。こちらについてもご案内済みです。 だからと言うわけではありませんが、来年へ向けて、既に準備を始めている企業から問い合わせを受けました。次回からは、カテゴリー11にチャレンジしたいとのこと。素晴らしいですね。 カテゴリー11「販売した製品の

一次データと二次データ

「些細だけど重要なことを突っ込んで説明するシリーズ」第2弾をお届けします。 今回は、まさに算定の現場、担当者が直面するであろうテーマです。 ご案内しようと思ったきっかけは、「私たちが、適当に行った(最善を尽くしたけど、精度は必ずしもよくはない、という意味です)算定結果が、お客様のところでは、一次データになるんですよね」という何気ない質問でした。 皆さんも、思ったことがあるのでは? 逆も真なりで、「サプライヤーから入手したけど、結局、適当なのでは?」 「自分たちがいくら精

ESRS導入ガイダンスのドラフト公開(2)

7月末に公開された、ESRSの最終版。これから、EU理事会及び欧州議会での審議が始まりますが、現在のNFRDで既に対象となっている大企業は、2024年会計年度から適用が開始されますので、ルールを読み込んで、開示の準備を進めておかなければなりません。 また、2022年11月に公開されたEFRAGのドラフト版からは、重要な修正が入ったこともあり、欧州委員会も速やかな導入を図るべく、EFRAGがガイダンスの作成に入ったことを、前回ご案内しました。 今回は、「Value Chai