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思いが麗かにそっと、流れゆく

 この世から肉体として消えた時、彼らの存在は消えるのだろうか。

 いつだったか、幼い頃、親から今の悩み事は何かある?と聞かれた。私はしばし足りない頭で考えたのちに、この世から私がいなくなってしまったことを考えると怖いですと答えた。親が、目を丸くしたことを思い出す。

 ひとり暗いベッドの中に潜り込んで、自分の中の深い深い心の中にどっぷり浸かる。今でも、棺桶の中に自分が入った時のことを想像してゾッとしてしまう。誰しもいつかは死ぬと分かっているのにも関わらず、恐怖が胸の中を席巻せっけんする。

 仏教の世界では、生まれ変わりという概念もあるものの、果たして自分は他の誰かに生まれ変わりたいのかどうか定かではない。人は誰しも、イメージできないことはとことん見ないふりをする。

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以下、ネタバレを含む恐れがあります。まだ未読あるいは未鑑賞の方は面白さが半減すること請け負いですのでそっとそのままページを閉じてください

 少し前に、瀬尾まいこさんの『そして、バトンは渡された』を読んだ。少し前と言ってもかれこれ2、3年ほど前のことだ。その時、深く自分の胸の一部を抉られたような衝撃を受けたことを思い出す。読み終わった後で、肩の力がスッと抜けた。

 奇抜な設定もなかなかに斬新だったが、なるほどこういう終わり方するんだなと嘆息した。側から見れば、少女が送っている人生は歪に見えるかもしれない。それでも、都度彼女自身が自分の「未来の音」を聞き分け、そして自分がこれから歩むべき道をその手に選んでいったのだろう。

 その後、ついに映画化されるというので早速見に行った。結論から言うと、私は劇場で人知れずポロポロと涙を流したのである。

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 のっけから興醒めなことを申し上げるが、私は正直原作をもとにした映画は好きではない。むしろ、苦手なのである。どうしても過剰演出が目につくというか、どこかご都合主義的な部分があることが否めないから。

 本作品に対してもおそらくかなり原作を忠実に再現している(読了してから日が経っているので、記憶浅め)と思われるのだが、尺が短いしせいか時々展開が急である。

 特に人と人との関係性の部分。ここがどうしても腑に落ちない部分があって。なぜにそんな人の心変わりみたいなものが突如として発生するのか、背景があったのは認めるが、もっと葛藤みたいなものはあるだろうと憤懣やる方なく感じてしまう(まあ尺が短いしね。。)。

 それでも、改めて私が文章を追ってイメージしていたものが具現化すると、いろんな思いが込み上げた。改めて全体のストーリーとして見た時に、面白い作品だなと感想を抱いた次第。

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 小説を読みながらかつての親と問答した時のことが鮮明にカムバックする。私が、「この世からいなくなるのが怖い」と自分の不安を口にした時のこと。母は逡巡したのち、「それでもあなたはこの世界に残り続けるから」と言ったのだ。

 そうか、私は誰かのなかで存在し続けるのか。もしかしたら自由に動けなくなるかもしれないけど、それはそれで悪く無いなと思ってその日は安心して眠りについたことを思い出すのだ。

 その人の思いは、その人から身近な誰かへとつながれていく。

 たとえ肉体がこの世界からなくなってしまったとしても、それが脈々と絶え間なく流れていく。そんな風にして、人は革新的な不死の形を手にするのかもしれない。

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