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2017年5月の記事一覧

韃靼ダッタンダダーン

僕はレイディオを落語チャンネルに合わせた。

――「ええい、じゃあこいつはどうだ源さん。村の人間という人間、全員動く屍、噛まれたらお前さんも動く屍の仲間入りってんだい」

「ひえぇ!この村は怖いったらない。怖いったらないねえ」

そうこうしてるうちに、源八のもとには日本全国の村という村が集まって村は全て源八のものになってしまった。すると源八、とうとう時が来たといわんばかりに、全ての村に一揆を呼び掛

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バンド

ベンチで煙草を飲んでいると、知らない若い男と若い女が私の両隣に座った。左に若い男。右に若い女。どう考えても彼らのことは知らない。
暫くそのまま、私はたばこをやりつづけていた。
別に悪い気はしなかった。むしろ心地よかった。
タバコはいつもより美味いし、風は心地よい。小鳥がチチチとさえずっていた。

若い男が口を開いた。

「僕たち、こうして三人並んでるとドリカムみたいっすね」

耳に心地よい声だった

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プライオリティブレイクダウン

僕は小説コンテストの短編部門に応募する作品を書き上げ、それを送る前に出版社で編集の仕事をしている知り合いの女性に見てもらった。

小説の内容はざっと言うとこんなだ。

――高くて悪い物を売る行商から品物を買ったところ一文無しになる主人公。その後、安くて良い物を売る行商がやってきたが、金が無いので何も買えない。こんなことなら先に安くて良い物を買って、残った金で高くて悪い物を買えばよかったと後悔する。

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カラスのボール

カラスはベランダの手すりに止まった。

部屋の中では中年の女性が午前の家事を一段落させホットコーヒーを飲みながら一息ついていた。女性は驚きもせずカラスのほうを見やった。カラスは何度も首を傾げならコーヒーを見ていた。女性はちょっとなげやりな、それでいて優しい声で言った。

「何だい?コーヒーがそんなに面白いかい?」

カラスは「カー」と鳴いて飛び去った。

カラスは少し前に、低く飛んでいた時、車にぶ

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槍の時代

琥珀色の巨大な湖は自らの粘性が作り出す独特の波模様を湛えながら静かにそれを待っていた。薄曇りの鈍い光が滑らかな湖面を照らすと、そこにポツリと船が浮かんでいた。
その船に乗る二人の男もそれを待っていた。

若いほうの男が湖面を見ながら言った。
「なあ、もしこの水の中に落ちたらどうなるんだい?」

中年の髭面の男は返した。
「まず上がってはこれんな。強くもがけばその分抵抗を増し体力を奪い力を抜けばゆっ

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やさしい蜘蛛

人の背丈の五倍はあろうかという蜘蛛が自分の糸でぶらさがっていたところ
下の道を男が通りかかった。蜘蛛は男に話しかけた。

「もし、そこな人。わたしの巣がありますから気を付けてくださいね」

「忠告ありがとう、大きな蜘蛛。もし私が君の巣に絡まったら、私を食べるかね?」

「とんでもない。その時は絡まった糸の一本一本を取ってさしあげます」

男は蜘蛛に丁寧に会釈して去っていった。
蜘蛛は腹が減っていた

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魔人

がっかりだ。
なんだっていうんだ。
そう、僕は酷くがっかりしたんだ。
まったくもってがっかりだ。

あろうことか走っていたんだ。
走るなんて!
そう、それは走っていたんだ。
魔人が走っていたんだ。

魔人が走るなんて。
走っては駄目だろうに。
魔人は歩いていなきゃ駄目だろうに。

あるいは飛ぶならいいかもしれない。
そう、急ぐなら飛べばいいじゃないか。

大体、何故魔人は走っていたのだろう?
健康

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ゴムの様に戻ります。

―そのきっかけは何だったんでしょう?

ええ、先ほども話しましたが自分がダックスフンドだと気づいたのが
入団してから大分後でしたから、それまでは普通にやっていて、まあ
目立つこともなかったんです。

―それは意外です。最初から実力を認められていたのかと。

それはないですね。本当に可もなく不可もなくと言いましょうか、自分
ではそれなりに努力してはいたんですけども。

―ダックスフンドだと気づいてか

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箱の怒り

箱の憤怒は頂点に達した
その怒りの業火は全ての金属を第四の状態にさせうる勢いではあったが
箱は依然として質素で過不足のない清潔な部屋の
控え目な木目の落ち着いた色のテーブルに整然と置かれていた

箱の怒りは煙となって立ち上り
地球の全ての空を覆い、地上を闇の世界へと誘う勢いではあったが
その直方体の各辺は絶妙の比率で形成され
その安定感は見る者を安堵させた

箱の激憤は栄華を極め
怒りの交易により

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受刑都市

ピンク
ショッキングピンク
サーモンピンク

「鮭?」

「半解凍RUN」

構造体レベル2
43口径
アウトフィット耐火耐冷

「聞いたことネーな!」

「前見ろ」

具現点拡大推奨

「簡単にイッウッナァ。オメーがやれ。線だ線」

「どっちでもいい」

ディサルベジアン
ディノベジアン

「ベジタリアンベジタリアン。ってディノって何よ」

「検分検分。終わったら分かる。野菜RUN」

ステルス

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いつもイライラしてるあのコが覆面をしてボクを褒めてくる1/fの事情

ベーコンは残り一切れとなった。

これで何日凌げるだろうか。そう考えてはそれを打ち消すということを14往復はした。ベーコンが溶けて無くなる夢を何度も見たが、実際にそんなことは起こらない。

もし次にそんな夢を見たら、僕の顔のほうが柔らかいから、溶けるのは僕の顔だって思うことにしよう。夕飯を最後に食べたはいつだろうか。いや、そうじゃない。ドンチュドンチュウノウ?

テスラコイルまではもうそう遠くない

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つれてって

二回もファウルされるとはまいったね。
まあいいさ、俺の真骨頂はスライダーとシュートよ。
鍵は中指。自明だろ?一番長いんだからよ。
縦軸に対して僅かにズラすだけでいいんだよ。

「早く投げろやぁ」

うるせーな観客。ボークまではまだ大分時間あんぞ。
だが主審もしきりに俺の後ろを確認してる。
大丈夫さ。まだ2秒しか経ってねえ。
観客も審判も飲まれちまってるってわけよ、俺の空間に。

けど翔谷の奴、ピク

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ボールゲームへ

大平は空気が見たかった。
それは雰囲気という意味ではなく、文字通り空気、つまり大気のことだ。

まだ少年の頃、空気というものを物質として理解して以来
それは憧憬の念となって彼の心を離さなかった。

老師は言った。
「大平よ、お前の見ようとしているものはどこにあるのか」

大平は答えた。
「師よ、それはこの両手の間にあるものです」

老師は言った。
「愚か者!それはお前のその目に、眼球にへばりついて

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回収されない音声ログ1

「いやあ、まいったわ」

「まいったね」

「超新星爆発起こるとはね」

「信じらんないね」

「誰か教えてくんなかったの?」

「知らん。何も知らん」

「いや普通さ、事前に分かりそうなもんじゃん」

「知らんよ。爆発始まってから連絡きたもん」

「きたもんじゃなくてさぁ。あーもう」

「そんな簡単じゃないんだって多分」

「そんなことないでしょうよ」

「じゃあさお前さ、テレビとか作れる?」

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