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記事一覧

韃靼ダッタンダダーン

僕はレイディオを落語チャンネルに合わせた。

――「ええい、じゃあこいつはどうだ源さん。村の人間という人間、全員動く屍、噛まれたらお前さんも動く屍の仲間入りってんだい」

「ひえぇ!この村は怖いったらない。怖いったらないねえ」

そうこうしてるうちに、源八のもとには日本全国の村という村が集まって村は全て源八のものになってしまった。すると源八、とうとう時が来たといわんばかりに、全ての村に一揆を呼び掛

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バンド

ベンチで煙草を飲んでいると、知らない若い男と若い女が私の両隣に座った。左に若い男。右に若い女。どう考えても彼らのことは知らない。
暫くそのまま、私はたばこをやりつづけていた。
別に悪い気はしなかった。むしろ心地よかった。
タバコはいつもより美味いし、風は心地よい。小鳥がチチチとさえずっていた。

若い男が口を開いた。

「僕たち、こうして三人並んでるとドリカムみたいっすね」

耳に心地よい声だった

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プライオリティブレイクダウン

僕は小説コンテストの短編部門に応募する作品を書き上げ、それを送る前に出版社で編集の仕事をしている知り合いの女性に見てもらった。

小説の内容はざっと言うとこんなだ。

――高くて悪い物を売る行商から品物を買ったところ一文無しになる主人公。その後、安くて良い物を売る行商がやってきたが、金が無いので何も買えない。こんなことなら先に安くて良い物を買って、残った金で高くて悪い物を買えばよかったと後悔する。

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カラスのボール

カラスはベランダの手すりに止まった。

部屋の中では中年の女性が午前の家事を一段落させホットコーヒーを飲みながら一息ついていた。女性は驚きもせずカラスのほうを見やった。カラスは何度も首を傾げならコーヒーを見ていた。女性はちょっとなげやりな、それでいて優しい声で言った。

「何だい?コーヒーがそんなに面白いかい?」

カラスは「カー」と鳴いて飛び去った。

カラスは少し前に、低く飛んでいた時、車にぶ

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槍の時代

琥珀色の巨大な湖は自らの粘性が作り出す独特の波模様を湛えながら静かにそれを待っていた。薄曇りの鈍い光が滑らかな湖面を照らすと、そこにポツリと船が浮かんでいた。
その船に乗る二人の男もそれを待っていた。

若いほうの男が湖面を見ながら言った。
「なあ、もしこの水の中に落ちたらどうなるんだい?」

中年の髭面の男は返した。
「まず上がってはこれんな。強くもがけばその分抵抗を増し体力を奪い力を抜けばゆっ

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やさしい蜘蛛

人の背丈の五倍はあろうかという蜘蛛が自分の糸でぶらさがっていたところ
下の道を男が通りかかった。蜘蛛は男に話しかけた。

「もし、そこな人。わたしの巣がありますから気を付けてくださいね」

「忠告ありがとう、大きな蜘蛛。もし私が君の巣に絡まったら、私を食べるかね?」

「とんでもない。その時は絡まった糸の一本一本を取ってさしあげます」

男は蜘蛛に丁寧に会釈して去っていった。
蜘蛛は腹が減っていた

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悠久地下鉄道

 ここでの移動手段のひとつとして鉄道が挙げられる。悠久地下鉄道である。
それは…おそらく?鉄道である。
私は「家」から拠点まで行く際、この地下鉄を使うことがある。(「家」に関しては別の機会に書くとする。)

特に案内表示があるわけではないが、それらしい地下へと続く階段があればそれが駅の入口だ。下まで降りると、それらしいホームへのゲートと、チケットの発行機が置いてある。駅員はいない。無人駅だ。

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気づけば歩いていた。

多分もう何時間か歩いている筈だけど、それは何となしにそういう実感があるというだけでついさっきまでの記憶すらはっきりしないし、そもそもこの地に来た経緯も思い出せない。ただ、自分の意志でここに来たという意識だけは薄っすらだが残っている。

今は夜だ。というより一日中ずっと夜な気がする。昼であった記憶がない。
道は荒野の真っ只中、延々とただただひたすら愚直なまでの直線がストレート

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ラーメンパンスペルミア

「うん、ベーコンも悪くないな」

私がそう言うと、ダンはちょっとだけ得意気な顔して
「まあ、本物のベーコンじゃないと駄目だけどね」と言った。

私は食というものに対してそれほどこだわりが無いから、ラーメンを食べる為にわざわざスウェーデンから日本にやってきたというダンに対して、友人ながらちょっと頭のおかしな奴だという認識を持っていた。

そんなダンが、間違いなくラーメンに合うお勧めのベーコンがあるか

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虻色の闘蝶 魔ニュー婆 / 田中鳳来

作品紹介

「上を見れば空。下を見れば空」

上下数万キロに渡る空の世界。
かつてシュトロム人の産み出した浮遊技術革命は人類の住処を「空」へと押し上げた。
万能資源エテウゲンが充満する空の世界は長く栄華を誇り、人類は「地上」という存在を忘れた。

しかしエテウゲン濃度が徐々に低下していることがわかると、空の各国家はエテウゲンをめぐり争いを始めた。そんな折、下空の軍事国家スナントウム消滅のニュースが

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OHAYOU

ひたすら夜を追いながら徐々に下降していく。

一応、防御機構は機能しているからこの中は問題ないが計算が狂って離れた場所に降りてしまったら歩くのが面倒だ。機器類は普段の活動圏内なら寸分の狂いもないのだけどこの辺りまで来ると動作が怪しくなり、正確な着陸には少々難が出てくる。

ディメノグラフを使って目視と合わせて再計算する必要があるけど、これがなかなか集中力を要する。それでもなんとかまずまずの場所に降

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こむぎのぼうけん

「あれは猫じゃないわよ」

確かにそうだ。よく見たら、いやよく見なくても猫じゃない。
彼女は続けた。

「でも、猫の大元だって話は聞いたことある」

つまり僕は、猫にそんなには似てないのに猫の大元であるらしいそれを一瞬猫に見間違えたというわけだ。
まあ猫云々は置いておいて、それはとても美しかった。

暫く見とれていると、それが振り向いて僕を見た…気がした。

「あれは私たちになんか興味無いわよ。と

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インディビジュアライズドピングポング

先日の世界大会の結果、現在、卓球の世界チャンピオンは生後8ヵ月の女性だ。
それまでは1歳2ヶ月の男性がチャンピオンだった。
とうとう1歳の壁が破られたことで、0歳台が主流の時代が到来すると世間はその話題で持ちきりだ。

かつてスポーツは、今では考えられないことだが己の肉体のみを極限まで鍛え上げその肉体のみを使用して競技が行われていた。そこから原始的な生体電子制御システムが徐々に社会に浸透し、スポー

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四角錐頭人の考察

「麺直径の多様性における無限小の問題」

今頃になって、この本を再び手に取るとは思ってもみなかった。
確か、実際にはありえない程の細さの麺同士の交点が仮想上は点であっても実際には面を生ずることによって発生する律動がパルスとなり、情動に与える影響幅の無限性に関する予想の項あたりで、若かった私の理解力が及ばなくなり本を閉じたのだ。
今となってはそれ程難しいレベルの内容ではない筈だが、今の今まで存在すら

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