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ディカプリオの「見せる演技」と、ブラピの「見る演技」。

タランティーノ新作映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド(以下ワンハリ)』最高でしたね!

今までのタランティーノ映画の演技って演劇的というか、素晴しい台詞とト書きを「華麗に演じて見せる」タイプの芝居が多かったんですよ。『パルプ・フィクション』『レザボア・ドッグス』・・・90年代はそれがカッコよかったし最高だったんですが、それが時代の流れとともに少しづつ古くなってきていたと思うんですよねー。正直、前作『ヘイトフル・エイト』の演技はかなりわざとらしくて古臭く感じました。リアリティとか実在感が薄くて、作りものくさかった。

それが今回『ワンハリ』ではどうかというと・・・うわー!やられた!まさに2019年型最新の演技にチューンアップされてるじゃん!!! 実在感!そして徹底して魅力的!

今回その新しい演技をやりまくってるのがブラッド・ピットです。
対するレオナルド・ディカプリオはタランティーノ映画でおなじみ「見せる演技」で演じまくっているんですが、ブラピの演技は手法的にその真逆なんですよね。一貫して「見る演技」なんです。

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ね。ブラピはディカプリオを「見て」いるのに、ディカプリオはブラピを「見て」ないでしょ(笑)。ディカプリオはブラピに「見せて」いるんですよ、自分を。

今までのタランティーノ映画の名コンビはどうだったでしょうか。
例えば『パルプ・フィクション』のヴィンセントとジュールスは?パンプキンとハニー・バニーは?『ジャンゴ 繋がれざる者』のジャンゴとドクター・シュルツは?

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どの名コンビもお互いのことをほとんど見てないですよねー(笑)。

ヴィンセントとジュールスは横並びで会話してるし、パンプキンとハニー・バニーはカッコいい自分を相手に「見せる」のに必死だしw。ジャンゴとドクター・シュルツも基本横並びで、お互い特に相手に心動かされることはない。
ところが『ワンハリ』のブラピはずーっとディカプリオのことを見ていて、ずーっと心を動かされ続けてるんです。

そしてブラピは「自分が何者か」を一切演じない。演技で、動作や表情で説明しない。自然体でただ周囲を「見て」いるんです。
泣くディカプリオを見ている。大口叩くブルース・リーを見ている。奇妙なヒッピー連中を見ている。可愛らしいプッシーキャットを見ている。盲目のスパーン老人を見ている。暴漢3人組を見ている(「これは夢か?」w)。そして暴漢を襲う犬を見ている。
そう、彼はずーっと人や状況を見ているんです。でニヤニヤしたり困ったりしている・・・その心の動きを見てわれわれ観客は彼に共感して彼のことが少しづつ好きになる。そしてクリフ・ブースとはどういう人物なのか?をゆっくりと察してゆきます。

そう、ブラピが今回演じた「見る演技」とは意図的な行動や表情ではなく「自然なリアクションで観客にキャラクターを認識させる」という仕組みで機能する演技法なのです。・・・でも、ようするにコレ我々が現実世界で、はじめて会った人のことを徐々に理解してゆく過程とまったく同じなんですよね(笑)。

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そしてブラピと、同じく「見る演技法」で演じる俳優の2人で展開するシーンはさらにエキサイティングです。たとえばブラピの乗ってる車にヒッピーの女の子、超可愛らしいプッシーキャットがヒッチハイクするくだりです。まさに「見る演技」の応酬。

ブラピはもちろんプッシーキャットを「見て」いるんですが、彼女もブラピをずっと「見て」います。 で、ここからが凄いんですが、彼女はさまざまな可愛らしいポーズを取って自分自身の魅力でブラピを誘惑します。でもそれは「見せる演技」をしているわけではなく、それに対するブラピの反応を「見る」ためにやっているんですよ。つまりブラピを品定めするため・・・「見る」ために「見せて」いる!

で彼女はブラピを舐めるように見て誘惑します。「○×しようか?」。見つめ合う2人。そしてブラピが照れたような笑顔で彼女をじっと見ながら「年はいくつ?」と・・・え?値段交渉に入ろうと思ってた矢先に虚を突かれた彼女は、いろいろ言い訳しながらブラピ攻略の作戦を瞬間に何回か変更しながら「18よ」と(笑)。

つまり彼女を見て「可愛いなあ」ニヤニヤしている彼を、彼女は他のスケベオヤジと同類に「見て」見積もり間違ってしまってたんですね。そこを指摘される・・・まさに「見る」の応酬!!!・・・で、すごいのが、この「見る演技」x2の全過程が観客にちゃんと伝わってるってことなんですよ。セリフではなく表情のディテールのみで。で、観客がちゃんとドキドキしてる。 至福・・・何度でも繰り返し見たい(笑)。

ブラピとブルース・リーのシーンも、何度でも繰り返し見たい「見る演技」の応酬のシーンでしたね。
ブラピはブルース・リーが大口叩くのを「見て」いる。でニヤニヤしてるんですが、そんなブラピをブルース・リーも「見て」いて、でプッシーキャットと同じく安く見積もってしまうんですよねー。で、試合が始まる。ブラピはブルースにあえてキックを1発キメさせるんですよね。ブルースの能力を一回「見さだめて」、で怒涛の反撃を繰り出す。あわてたブルースはもう一度ブラピのことを「見直そう」とする。が、さっきとは戦闘力がぜんぜん違っていてどうしていいのかわからない。
そう、ドラゴンボールのスカウタ―の世界ですよね(笑)・・・勝負はすでに水面下の「見る」の精度で決まってしまってるんですよ。

『ワンハリ』前半はこの手の至福の時間があちこちにあるんですよねー。

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この映画『ワンハリ』はある意味「演技法の変化の歴史について」の映画でもあります。

時は1969年・・・といえば、映画『イージー・ライダー』が公開された年です。
つまりアメリカン・ニューシネマ旋風がアメリカ中を吹き荒れた年で、ピーター・フォンダ、デニス・ホッパー、ジャック・ニコルソンや、ダスティン・ホフマン(『卒業(1967)』)みたいな「中性的で繊細で内省的な演技を得意とする若い俳優たち」が銀幕に現われて、それまで花形だった「男らしくて大げさで情熱的な演技をする大物ハリウッド・スター達」が、一気にダサくてカッコ悪くなってしまった年、1969年。

時代は大げさで華麗な「スターの演技」から、繊細でリアルな「メソード演技」へ。「よい俳優とは?」の定義が急激に更新されているまさにそのさなか、その急激に時代遅れになった男らしい西部劇スター:リック・ダルトンをディカプリオが演じているわけです。
リック・ダルトンは急に「カッコ悪い」「時代遅れ」「役に立たない」というあつかいを受けるようになって、プライドを傷つけられて、自信を失って、鬱気味なんですよね。ああ、なんという主人公設定!

なので今回ディカプリオは一貫して「大げさで情熱的なスターの演技法」で演じています。劇中映画の中では超大げさに演じまくり、普段のシーンでもそこそこ大げさに演劇的に取り乱してます(笑)。

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自然体のブラピに対して、ディカプリオは強迫神経症的に映画スター:リック・ダルトンを演じ続けています。

カメラが回っている時のリック・ダルトンは例えば、チキンを食べているのではなく、チキンを食べて見せているし、煙草を喫っているのではなく、煙草を喫って見せている。動作も表情も必死に作って演じて「見せて」いる・・・なので劇中の映画の中での彼は、演技が非常にギコチナイ・・・俳優アルアルですね(笑)。

ディカプリオ演じるリック・ダルトンはつねに「自分が他人からどう見えているか」を意識して生活しているんですね。だから周囲が見えていない。そして他人の評価を気にして自意識過剰的にいろいろな振る舞いを日常的にも「演じて見せて」います・・・表情もわざとらしく作っているし、動作も思わせぶりです。

休憩時間に子役の女の子と喋る素晴しいシーンがありましたが、完全に「俳優:リック・ダルトン」として彼女に接してましたからねー。 で、読んでる本の話題から彼の本当の感情が不意に噴出してしまって、子役の彼女の前で泣き崩れてしまうですよね。
これらを全てひっくるめて呑みこんで、今回ディカプリオは「見せる演技」で演じまくってます。彼も最高です。

そしてこの映画のラストでは「そんな時代遅れのカウボーイが、ハリウッドという映画の街を救う」という展開があり、カウボーイとポランスキー監督たちが仲良くなり合流して、新しい映画の未来を共に作ってゆくのかも!という目頭が熱くなるようなハッピーエンドで映画が終わります。

ああ、そうなんです。よく考えたらタランティーノ監督自身がじつはずーっとそういう映画の撮り方をしてきた人なんですよね。
時代遅れなダサい俳優扱いされてたジョン・トラボルタに「あなたがどんなにいい俳優であるかをあなた自身が忘れている!」と言い放って説得して『パルプ・フィクション』で大抜擢のキャスティングをして、結果90年代の映画界に大きなインパクトを与えたり。 『ジャッキー・ブラウン』でのパム・グリアとか、古い俳優たちと一緒に最新で最高の映画を作ってきた男、それがタランティーノなんです。

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しかしよく考えると、じつはブラピ自身もずっと「見せる演技」である「スターの演技」で演じて人気を博してきた俳優なんですよね。それで長いキャリアをやってきてココにきて演技法が逆転・・・びっくりしました。

でもこの「見せる」から「見る」への演技法の変化って、じつは今年2019年に公開された映画『運び屋』でのクリント・イーストウッドの演技でも起きているんですよねー!(運び屋の回を参照)。『ダーティー・ハリー』『グラントリノ』式の「見せる演技」から、『運び屋』のおじいちゃん役で演じた「見る演技」へ・・・しかもブラピとほぼ同じタイミングですよ。

そしてトム・クルーズもここ数年で「見る演技」に演技法を変えてきてます。ああ、いまハリウッドではどんなムーブメントが起こっているんでしょうねーっw!
最近の若い俳優たちはライアン・ゴズリングにしてもアダム・ドライバーにしても「見る演技」で深い共感を得て人気を博しています。「見る演技」はある意味現在のハリウッドでの最新最強の演技だといえるでしょう。

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これを読んでいるあなたがもし俳優さんなら、「見る演技」にチャレンジしてみることをオススメします。 現代を演じるのに最適な演技法だし、観客と一体になれるし、なによりも演じていて超エキサイティング・・・超オススメです。

小林でび<でびノート☆彡>

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