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穂音のお好み焼きー掌編

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【短編小説】シリーズ化していない、独立した掌編を入れています。お好みのものがあったら嬉しいです。
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記事一覧

あかずきんちゃんrevisited

 狼は赤いコートの女性を見ると、つい見つめてしまうのです。  真っ赤な頭巾と真っ赤なマン…

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ぽぽぽー

 ぽぽぽー。  磁力線はその一点を指していた。くたびれた商店街から枯枝をつたうように路地…

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いつか、ほどけますように

 半透明の保存容器が、冷蔵庫に並んでいる。きんぴらも筑前煮も三日前のまま。  隣でため息…

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黄金比率 #シロクマ文芸部

   りんご箱の隅っこで、そいつが丸くなっているのを見つけた朝。  完全な世界の構図に引き…

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宇宙お犬

 石旅さんは、森の中にある小さなお家に暮らしています。  好きなのは、夜の空をじっとなが…

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僕が数学を好きなわけ #シロクマ文芸部

   愛は犬、と先生は言って、みんなをぐるりと見渡した。いつもと違う数学の授業に教室がざ…

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神々の甘噛み (2) #シロクマ文芸部

   ガラスの手袋が落ちている。  よく見れば、細く透き通るような銀白色の長い長い毛が一本、指先に絡まっている。  時折、何かを探しているかのように、毛の先端が右へ左へと振れるのである。否、ただ、風が吹いているだけで。  通りに無造作に横たわる手袋の表面を、雨がこぼれ落ちていく。薄暗いのは、街灯の電球が切れかけているせいだ。役所に連絡してからそろそろ一週間になる。断末魔の喘ぎのように、灯ると見せかけては弱くなり、きえると思わせては光を放つ。不規則な明滅が、ガラスを、雨粒をう

カーテンが上がるとき #シロクマ文芸部

ー初夏を聴く会にお集まりいただいてありがとうございます。  最初に、軽くインタビューをさ…

金魚のかみさま #シロクマ文芸部

 咳をしても金魚。  ある朝、あたしは。  お祖母ちゃんが口癖のように言ってた、そんなこ…

あなたは花 #シロクマ文芸部

   手渡されたのは光る種。 「どうやって、これを」  私の手が震えたのは、歳のせいではな…

ショートショート2編 #匿名超掌編コンテスト参加作品

匿名掌編コンテスト結果発表されました twitterで大賑わいした、板野かもさんの「匿名掌編コ…

でたらぬ・十海夜牛 #ノトコレ版

でたらぬ 冬は、心の奥の方がそこはかとなくほうっとしてくる。何やら所在無いものが、拠り所…

挨拶くらいしていって #2000字のホラー

 赤い林檎ほどのものが坂道を転げていく。あっという間のことに、突っ立ったまま見送ってしま…

赤い鯨  【改稿】

 砂浜で金魚の弔いをしている女に出逢った。  マッチ箱の中に、白い綿にくるまれたからだが眠っている。 「一番素敵な箱にしました」  女はそう言って、少しだけ口の端を上げた。  音もなくしゃがみ込むと、女はポケットから別の箱を取り出した。その何の変哲もない紙箱は軽く膨らんでいる。金魚の棺桶から、中身を移し替えたのだろう。一本、また一本とマッチが取り出され、炎があがっては消えていく。最後に燃え尽きた一本を女はずっと持っていた。熱くはないのだ、だって黒い炎だから。  月が咳払いをし