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世界の動物運動から④アジア諸国での比較【ゲスト:アニマル・アライアンス・アジア】

*③の続きです。


運動と資金の問題


生田 活動とお金の問題は非常に大きな問題だと思います。僕は主に野宿者ネットワークで活動しているんですが、基本的に全部ボランティアです。寄付の他は、寝袋を買うための助成金を取ったこともあるぐらいで、活動は無給です。これはいい面も悪い面もあって、もらうお金がないと、紐がつかないので自由にできる。行政への批判とかは気にせずできる。一方で、フルタイムで活動することが難しいので、その点でかなり限界がある。
 
 行政とかからお金をもらったり、助成金をもらっている団体もあるんですが、そこはもちろんフルタイムで働けるし事業が展開できていい面もあるんだけど、一方で活動に枠ができてしまう面があります。例えば、行政批判が難しくなるとかです。どっちがいい/どっちが悪いという問題ではなくて、両方の立場が互いに建設的な批判をしながら進むのがいいと思います。
  
 みなさんはお金をとって活動していることがあると思いますが、お金の問題はどのように感じているでしょうか?

かほ わたしはAAAだけではなく、草の根の運動もしてるし、ボランティアで活動もしてるし、他のNPOでも働いているので、資金の問題というのはいつもあります。わたしが働いている他のNPOは政府からお金をもらっているので、一度ラディカルなことをしようとしたら、「それはやるな」と言われたことがあります。そういうふうに紐がついてしまって活動が自由にできなくなってしまうというガティブな面は感じてはいます。

 AAAでも、みんながみんなではないんですが、支援する人たちの多くが、どう活動を支援していくかというのを決めてしまっているので、どうしてもできる活動というのが限られている。それも一つの問題としてはあるのかなと思います。

エリー 助成金とどういう紐がついてしまうかというのは大きな問題なのです。動物正義運動の中での資金は本当に限られていて、大体のお金がアメリカのシリコンバレーから来ていて、みんながそこに申請するので競争率がかなり高いです。

 このムーブメントでは、さっき有希さんがいっていた効果的利他主義(”Effective Alternativism“)という考え方が主流で、一番効果的なタイプの活動に一番お金がいくようになっているので、そうなるとやっぱり資金が入る活動の仕方は限られている状況です。

 わたしも2年前にいろんなアジアの国を訪問して、現地の活動がどういう感じなのかみてきたのですが、効果的利他主義にとって「いい」と思われている活動がアジアにも広まってきていていました。現地の人たちの声をきくと、「お金がきたから活動することになった」と言っていて、資金が彼らの活動の仕方を決めてしまっているシチュエーションが増えてきているように感じます。

 ただ、かほさんがいったように、全員が全員ではまったくないし、本当にアジアの文化を理解しようとしてくれているファウンダーの方もいるんですが、やっぱりアメリカで生まれ育った人からしたら、アジアのいろんな国の文化のちょっとした違いって理解できないことだと思います。わたしたちが去年から助成金プログラムを始めたのもそれが理由です。実際に、例えば「タイのこの村で」とか「インドネシアのこの村でどういう活動方法が1番効果的なのか」といったことは現地の人が一番体感していると思うので、なるべくアジアの現地の人たちがやりたい方法で活動できるように支援しようとはしています。



アジア諸国での比較


——AAAが活動をしている、アジア諸国の中での比較など教えていただけますか?

エリー わたしたちが今活動してるのは、日本、台湾、 パキスタン、ネパール、インドネシア、フィリピン、ベトナムの7カ国なんですが、全然異なった宗教感や歴史や文化があるので、1つ1つの国に沿った最も効果的な方法は何かを、カントリーコーデネーターを通して今模索しているところです。

 さっきから何回か話題に出てたような、人権がちゃんと守られていない状況で「みんな被害者」のようになってしまって、動物のことを考えるのが難しい、というのは、アジア諸国でそういう状況になっていると思います。特に今紛争が起きている国や、インドのようにカースト制がまだ残っていて差別を受ける階級の人がいる国のように、人権がちゃんと守られてない国はたくさんあって、そういう中で「じゃあどうやって動物のことを話していけるのか」というのを考えています。

 たとえば、今年始めるプログラムで、インターセクショナリティを頭に入れて考えついたのは、フィリピンだと、肉食だろうがプラントベースだろうが、とにかく何かを食べること自体が難しい人が多い。家にキッチンがなくて自分で料理することができない人たちがたくさんいる中で、いきなりヴィーガンメニューのレシピを紹介しても全然意味がない。じゃあどうしたらいいんだろう?と、わたしたちのコーディネーターが考えついたプログラムは、ワーキングクラスの労働者たちが行くようなローカルのレストランに、安い値段で食べられるローカルのヴィーガンメニューを作ろう、と。人権が脅かされてるような人たちでも簡単に手が出せるような、なるべくウェルカムなムーブメント作りをしようとはしてます。

かほ 国によってどういう活動が受け入れられるのかというのも違っていて、例えば台湾はアートを使った活動っていうのが多くて、それは韓国も似てると思うんですけど、ストリートパフォーマンスなど、大衆の注目を得るのを目標にしてやっている活動を、他の国——例えばベトナムでやろうとしたら、もしかしたらうまく影響は与えられないかもしれないです。

 他の国だと、たとえば企業にアウトリーチをすることが、路上活動よりも効果的だったりとか、国の政治的・経済的なシステムによって、どういう活動が受け入れられやすいのか、というのはまた違うというのも大きなポイントで、それもわたしたちのカントリーコーディネーターの人たちが、1人1人、自分の国のシチュエーションを調べてそれぞれプログラムを作っているような形になってます。

——比べて日本はどうなんでしょうか?

エリー やっぱり日本はアジアにおける帝国主義の歴史が大きい、というのは実感しています。さっきかほさんがいったみたいに、韓国や台湾は、国民たちが国をあげて自分たちの権利のために戦わなければいけなかったので、プロテストや路上活動の基盤が整っています。アートや音楽を使ったクリエイティブな方法も、100年くらいかけて作りあげられてきているので受け入れられているけど、日本は逆に帝国主義をした側なので、そういう歴史がそこまでないからプロテストがあんまり合わないだろうと思います。だから、今年のAAAの日本のプログラムとしては、有希さんが、学校の給食から変えていくことを考えてやってくれています。

——学校の給食を変えるというのはどういう取り組みなんですか?

有希 日本の学校の給食では、動物性食品が出るのが当り前になっているので、それは変えていきたいなと思ってます。まず、1番ハードルが低いのが、せめて牛乳を選択制にすること。どんな理由であっても飲みたくなければ断れる、という基本的な権利が認められるように、各自治体で教育委員会に働きかける活動家たちを集めて計画しています。

——それはいいですね。たしかニューヨークでは、給食でヴィーガンのメニューが週に何回か出る、ということがありますよね。

有希 そうそう。ニューヨークの市立学校では、毎週金曜日はヴィーガンのメニューで、月曜日はベジタリアン。

——日本だと、やっぱりヴィーガン・ベジタリアンへのハードルもまだ高いから、給食でそういう経験をして身近なものになるといいですよね。

有希 そうですね。ミートフリーマンデーとか、ヴィーガンの日とかの給食も考えたんですけど、日本だとまだそれは難しいかなと思って。挑戦はしてみますけど。なので、はじめはせめて牛乳を変えるだけでも、子どもたちに疑問を持つ機会をもってもらえたらな、と思っています。



「感謝していただきましょう」というロジック


生田 『いのちへの礼儀』を書いたときにだいぶ調べたんですが、動物を殺して食べるのはおかしい、と言う子供たちは日本にも一定数います。それを親や周りの人たちに言うと、「牛さんや豚さんはあなたたちのために死んでくれた」「だから、感謝していただきましょう」と言われちゃうらしいんです。
この「感謝」という言葉は動物の問題についていろんな場で聴くんですが、海外でも言われているんでしょうか?

有希 僕の経験からだとないですね。

かほ わたしは環境活動家と話すときに言われることがあります。環境活動家だと、ディープエコロジー的な考えを持つ人がたくさんいるので、そういう人たちにとっては、「肉食は自然なもの」と受け入れられてしまう。そういうときは「いや工場畜産は自然じゃないよ」と言うようにしているんですが、「じゃあ平飼いはどうなのか」とか「”Regenerative faming”という自然のエコロジーに合った放牧をしている人もいるけど、じゃあそういうのはいいのか」といった方に会話が行っちゃうことが多くて。環境活動家からのプッシュバックみたいなものは結構あってびっくりしますね。でも、環境問題とかを気にしていない人に話すと、あんまりそういうふうに返ってくることは少ないかなと思います。

エリー 「感謝していただこう」というのは、わたしも日本でしか聞いたことがなくて、ヨーロッパでは聞いたことがないです。「ヴィーガン」と言ったときに返ってくるアンチのコメントとして、それは日本独特。神道の考え方が文化に染みついちゃっているのかな、と思います。植物も動物もすべてに命があるから、「いただきます」というマジックワードを言って、すべてに感謝すれば食べてもいい、というような文化は根づいているのかな、と思います。

生田 日本の大学や企業の動物実験施設では動物慰霊祭がほぼ必ず実施されているし、殺虫剤会社の業界でも慰霊祭をしているらしいです。動物を殺したあとで「ありがとう」と慰霊するんです。それもどうも日本独特らしくて、「ありがとう」と言ったら責任が消える、といった発想があるんじゃないんかと思うんです。

かつて岡山県議会が、沖縄に対して「基地を負担してくれてありがとう」という感謝決議出しかけたことがありました。それは 「ありがとう。これからも基地をよろしく」という押し付けしかないんです。そういった責任逃れとして「感謝」が使われている印象です。

——この前、動物園のことを話したときにも、動物たちが死んでから「楽しませてくれてありがとう」と慰霊碑が立てられているというの見ましたけど、慰霊碑って海外でありますか?

エリー・かほ・有希 (首を横に振る)

有希 それすごく日本独特だと思いますね。僕、アメリカにいたときは、キリスト教の影響が大きいので、感謝の対象が動物たちではなくて神様だった。「神様が動物たちを人間に与えてくれた」という考えで、神様に感謝する傾向は見たことがあります。



運動と宗教


——動物の運動が進んでいるところって、宗教の影響があったりしますか?

かほ わたしが知ってる限りではないかと思いますけど、今ミドルイースト・ヴィーガン・ソサエティというあたらしい団体があって、中東のムスリムの国の中でどうヴィーガニズムを広めていけるか、という活動をしている方たちがいるのですが、コーランの解釈を、「動物はハラル(=合法)で殺してもいい」という解釈 から、「いやコンパッションっていうのが1番コアにあるんだよ」という新しい解釈を加えて活動している、という動きはあります。

有希 キリスト教だけじゃないけど、キリスト教の教えの一つに、「他者を自分が扱われたいように扱いなさい」というのがあって、それって他の宗教にも共通しているので、その教えに沿って、「動物たちのことも、自分が扱われたいように扱いましょう」という考えで、キリスト教の活動家たちとは、僕がVegan Outreachという団体と一緒にチラシ配りをやっていたときに結構会いました。

エリー あとは、仏教とかヒンドゥー教も影響あるんだな、というのは、アジアで働きながら日々感じていています。台湾や香港でよくきくのは、ヴィーガニズムというとすぐに仏教と結びつけられてしまうから、逆に宗教と引き離して話すのが難しいということです。「ヴィーガンだよ」というと「仏教だからそうなんだね」と考えられてしまって、仏教ではない人からしたら全然関係のないことだと思われてしまったりします。

 あと、ヒンドゥー教も、非暴力を掲げているからヴィーガニズムに対してもいいものなのかと思いきや、実はヒンドゥー教とカースト制って関連があって、「一番下のカーストの人は牛を食べちゃいけない」とか「この動物を使ってはいけない」とかが決まっていて、カースト制と動物の利用が深く関わっていて複雑な関わりがあるので、そこを紐解いていかなきゃいけないんだな、というのはそれぞれの宗教で思います。

生田 ピーター・シンガーがキリスト教の批判をかなりしています。キリスト教は特にヨーロッパの肉食文化とある意味一体化しちゃったと思うんですよね。既成の宗教は肉食文化とかなり結びついてしまったので、宗教者が動物に関する運動をしているという話は僕もあんまり聞きません。日本でも仏教では肉食禁止令がありましたし、精進料理の伝統もありますけど、今はお坊さんたちは普通に肉を食べてるので、マジョリティの側に立っている、という印象が強いです。

栗田 そうですね。わたしもこのあいだ、高野山という日本の真言宗の総本山に呼ばれていったときに、仏教はアニマルライツをメインでやるというよりも、環境問題になる感じですよね。「森林を守ろう」という方が強かった。高野山ではなく東京に高尾山という山もあるんですけど、高尾山の人たちも「森林を守ろう」「山を守ろう」とか、環境問題をやっている。でも動物問題をやっているお坊さんというのはあんまり知らない。キリスト教は人権問題は意外とやっていて、死刑反対運動とかはやっていたりするんだけど、キリスト者でアニマルライツに関して日本でやっている人は見ないですね。

——宗教じゃないですけど、日本の国民的映画的存在になっているスタジオジブリが、あれだけ作品で環境問題を描きながら、工場畜産の問題をすっ飛ばしつづけているのは一体なんなんだろう、と思ってます。新作でついに工場畜産について扱うかなと期待してたんですが、どうもそうじゃないっぽくてガッカリしてるんですが。



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