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海洋放出問題に見る、「伝え方の技術」

4月13日、政府は東京電力福島第一原発の汚染処理水を、放射性物質の濃度を下げた後、海に流す方針を決めた。

汚染された水(汚染処理水)を海に流す!?
ヤバくない???
ほとんどの人がそう思う、と思う。

「放出される水は科学的には問題ない。WHOの飲料水基準からも大きく下回っている」

政府や東電がそんな説明をしても、多くの人は不安しか感じないと思う。

森友・加計問題、桜を見る会問題、ましてや東北新社やNTTの問題など、嘘ばっかり言ってる政府を信用しろと言われても、中々難しい。

今回のことも、安全だから大丈夫。
風評被害も起きないようにするし、保証もするし大丈夫。

そんなこと言われても…という感じだ。

東電だって同じだ。

柏崎刈羽原発のテロ対策施設の不備や、福島第一原発3号機に設置された地震系の故障の放置など、原発事故以降、東京電力という組織の体質改善が進んでいるとは思えない。だから今回のことだって、信用して欲しいと言われても、やっぱり中々難しいと思う。

ただし、今回政府が方針を決定した海洋放出は、科学的には安全に問題はないとされている。世界的な前例も含めて、これは事実です。

国際環境団体グリーンピースなど、悪影響を指摘している団体もあるが、日本でも世界でも海洋放出は日常的に行われている。もちろん、未来永劫にわたって本当に安全かどうかは分からないし、東電が本当に科学的な安全基準を満たした処理を実施し続けるのかどうかも分からない。

ただ、福島以外の原発では、毎年のように処理水を海洋放出してきて、今のところ問題は起こってはいない。

ではなぜ、今回の海洋放出が大きなニュースになっているのかというと、これはひとえに「福島や東北の海産物に対する風評被害」が加速するという懸念からです。

原発事故から10年経っても、未だに福島県産の農作物や海産物の風評被害は消えていない。出荷量も価格も、震災前に比べて10%〜30%低い水準です。

消費者庁が原発事故後に実施している「風評被害に関する消費者意識の実態調査」の最新版(2021年2月26日付)でも、今なお回答者の8.1%が福島県産の食品を、6.1%が東北全体の食品の購入をためらっているという結果が出てる。科学的には福島県産の農作物も海産物も全く問題ないというデータが出ているにもかかわらず、です。

こういう結果を見ると、そりゃ漁業組合は反対するでしょ、と思う。
漁業組合の人たちは、海洋放出しても科学的には問題ないことは重々承知しているはずだ。だって、政府からも東電からも何回も説明を受けているから。ただ、彼らだって政府も東電も信頼はしていない。

後になって「実は…」と言って謝罪するという失態を何度も繰り返してきた政府や東電に対して、信用しろと言っても難しいと思う。

風評被害が起こらないようにしっかりと対策しますと言ったって、実際に10年経っても風評被害は収まっていない。にもかかわらず、大丈夫です的なこと言ったって、そりゃ漁業組合の人も農家の人も信じないよね。

僕も勉強不足だったから、今回のことで海洋放出について色々と調べるまでは安全性について、世界的な前例について全く知らなかったし、未だに福島県産品の風評被害がここまで酷いとは気づかなかった。ましてや、処理水についての議論が2013年からずっと続いていたことも、知らなかった。

だから、今回の政府決定がものすごく唐突に感じたわけです。おそらく多くの人たちも同じなんじゃないかと思う。

え!なんで?!
海に流しちゃまずいでしょ?!

ほとんどの人が、そう考えると思う。
でも、政府も東電も、おそらくこんな風に言うでしょう。

「広く議論を重ねてきた結果です」と。

でも、ほとんどの人は、これまでの議論の内容も安全性も国内や世界の前例も、知らない。…ということは、議論を重ねてきたとしても、知らせようとはしてこなかったんじゃないかと思うわけ。或いは、知らせようとはしてきたとしても、知らせ方は甘かったんじゃないかと、そう思うわけです。

会社でも全く同じことが言える。
重要な決定に際して議論を重ねることは極めて大切だと思う。
でも、組織全体の理解を得て、一丸となって理想を目指すためには「ちゃんと知らせること」「プロセスを魅せ続けること」の方がずっと大切だと思う。方針決定よりも大切なのは、方針の実施を受け入れ、新たなるステージへ一丸となって向かうことだからだ。

最後にBuzzFeed Newsに掲載された、政府の小委員会で委員も務めた福島大学・小山良太教授の話を紹介します。

(以下抜粋)
今回の決定は海洋放出する方針を正式に決定したのみで、実際の海洋放出はまだ始まっていないということです。(2年後からです)

「もう福島のものは買わない」「もう福島のものは食べない」と過剰に消費者が反応してしまうと、一番困るのは生産者の皆さんです。

そして、合わせて理解していただきたいのは、この処理水の放出は廃炉のために行うのだということです。そして廃炉は福島の復興のために進められています。

「廃炉の過程で、タンクの水が増えすぎてしまうので、適切な処理をして流します」というのが、今回の処理水の海洋放出です。

復興のための海洋放出が、漁業の復興をさらに遅らせてしまう可能性があるというのが、この問題の難しいポイントです。

誰のために海洋放出をするのかと言われれば、漁業の復興のためでもある。このような構造を理解した上で、議論する必要があるでしょう。
(以上抜粋)

「方針発表」という花火を打ち上げて終わりにするのではなく、ここから真摯に誠実にそして魅力的に「お知らせ」し続けることが大切だと思いました。

参考記事
https://www.buzzfeed.com/jp/yutochiba/syorisui-2021-04-13

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