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こんにゃくのように固い意志

私は基本的に毎日お酒を飲みます。

休肝日を作らないといけない事は分かっているのですが、なんだかんだいつも言い訳を作っては飲んでしまうのです。

今日は仕事を頑張ったからとか、ストレスが溜まる日だったからとか、天気が良いとか悪いとか。

それでも1年に3回くらいは、1週間に3日ほど休肝日を設ける時期が訪れます。しっかり寝てもなかなか取れない疲れや、服の上からでも目立つお腹に危機感を感じるからです。

週に3日お酒を飲まない日があるだけで体の調子は全然違い、体が軽いというか、清々しいというか、生きてるって感じがします。

休肝日ってなんて素敵なんだろう。毎日が休肝日だったらよいのにとさえ思えてくるから不思議でなりません。

もちろん睡眠の質も向上します。その結果脳みその働きがよくなり、頭の中での情報伝達がスムーズに行われ思考がクリアになるのです。

こんな事ならもうお酒は飲まない方がよい、今日からは非アルコール生活を送ろうではないか。とその時は思うのですが、ちょっと気を抜くとまたすぐにもとの生活に戻っていってしまいます。

最近はよく頑張ってるから、今日くらいは飲んでもよいよねとか、今日は飲むけど明日と明後日は絶対に飲まないとか、そんなことを言ってるうちに気がついたらまた毎日お酒を飲む生活に突入しているのです。

いつまでもそんな自分でよいと思っているのか、と問われれば、答えはもちろん「ノー」です。

だから毎日、私は朝起きた瞬間から自分と戦っているのです。

朝目覚めてまずベッドの中で自分に言い聞かせます。「今日は飲まないようにしよう」と。
ベッドを出てトイレの便座に座り、用を足しながら再び自分に言い聞かせます。「もう決めたんだ、今日は飲まないよ」と。
そして朝ご飯を前にして三度自分に言い聞かせます。「今日は何があっても絶対飲まないぞ」と。

私は毎日のように出勤前の朝の時間を使って、石川五右ェ門の斬鉄剣をもってしても切れないほどの固い意志を作り上げる努力はしているのです。


しかしその思いも虚しく、私が重い体と鈍い脳みそを従えて、唸るお腹をいたわりながら出勤前の身支度をしていると、「ピンポーン」と誰かがインターホンを鳴らしました。

そうです、次元大介のコンバットマグナムが火を吹いたのです。標的はもちろん私の固い意志です。

「お届けものでーす」

私の背筋は凍りつきました。まさかこのタイミングで…

箱を受けとった私は、大きさの割にふわっと軽いその感覚と、割れ物シールが貼られているのを見て確信しました。

これはうすはりグラスだ。

数日前、お酒を美味しく楽しく飲むために、奮発して注文していたグラスが届いたのです。

一応確認してみなければと思い箱を開けると、予想通り中には芸術品とも思えるような、薄くて透明なうすはりグラスが入っていました。

そのグラスを手に取った瞬間、私の心は火山が噴火したかのように揺れ動き始めました。

噴火口からマグマが押し寄せてくるように、私の中で峰不二子が囁き続けます。

「今日は飲んでもいいんじゃない。うすはりグラスも届いたし。誕生日にもらったウイスキーもまだ残ってるし。冷蔵庫に炭酸水も入ってたわよ。黒ラベルもまだ一本冷えてたわよね。最近仕事も頑張ってるし。まだ週も半ばだし。そういえば今日のラッキーカラー黄金色だったわよ」と。

山肌を這いながら、猛スピードで迫り来るマグマの波に私は為す術もなく飲み込まれていきます。

「明日は絶対に飲まないぞ」

私は自分にそう言い聞かせ、こんにゃくのように固い決意を胸に今日も仕事場へ向かうのでした。

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